23.



「神楽ぁ…遅いと思って迎えに来てやったら何してんだよ?浮気かァ?」


高杉はそのまま沖田を見据えて挑発的に笑った。
何時もの沖田ならその挑発を買う所だが、隣にいる神楽の様子を見てぐっと堪えた。

―怯えてる―
そんな言葉が似合うような表情をしているのだ。
神楽は好きで高杉と付き合ってるわけじゃないらしい。だったら何故?



「沖田、お前俺に神楽とは友達だって言ったばっかりじゃねぇか。つーか彼女居るのに人の女に手出すわけか?」

「彼女とは別れたぜィ?まぁ、これからするのは略奪愛ってぇの?」


神楽が高杉を好きと言う訳じゃない。
それなら俺が取る行動は只一つ。


奪うしかねぇだろィ?




「ふーん…。漸く気付いた訳か。奪われてから気付くなんて遅すぎだなぁ?」

「あぁ、お前のお陰でさァ。」



何か神楽を脅している弱みがあるのだろうか。それがなくなれは神楽は高杉から解放される。自分のモノにならなくたって神楽が自由になれば良い。

バチバチと火花が飛び交う中、黙っていた神楽が無意識だろうか沖田の学ランの裾をキュッと掴み、口を開いた。



「高杉…、私やっぱり…「俺さァ、神楽に言う事あんだよな」

「…なに、アルか?」


「さっきお前待ってる間にすげぇ美人な女子大生の客にナンパされたんだよ。胸もでけぇし、付き合うことにした」

「え…?」



神楽が本当の気持ちを伝える前に告げられたのは、高杉からの一方的な別れであった。
何か言葉にしようとするが何も思い浮かばず、神楽は驚きの表情を隠せずにいる。


「神楽は俺みたいな格好いい奴とは吊りあわねえよ。…そこの餓鬼んちょが合ってるぜ?」

「餓鬼んちょ…」



最後にククっと笑うと二人に背を向け来た道を戻っていった。

一波乱あるかと拳に力を入れていた沖田だが、あまりの呆気なさに一気に力が抜けてしまった。



「…チャイナ、フラれてやんの」

「…え?あ、私フラれたアルか?」


神楽も沖田と同じように頭が着いていかないらしい。
急に現れて、こっちが言う前に別れろと言われて良い展開なのか、はたまた悪い展開なのか。

残された二人はどうしようかと互いを見て、暫く見つめあった後プッと笑った。
そしてどちらとも口火を切ったように口を開いた。



「「…あの!」」





*******



「たっかすぎく〜ん♪」

「うぜェ、あっち行け」


高杉が校舎裏から表に戻って来た時、柱の影から林檎飴やら綿飴やらの甘い食べ物で両手が塞がっている銀八に出くわした。
面倒な奴にあった。ニヤニヤした顔なんて殴りたくなる…。


「そう言うなよなー。ホラ、綿飴あげるから」


有無を言わさず渡された食いかけであろうピンク色の綿飴。
甘いのは好きじゃねぇのに…。
何時も好むのは苦いモノ。コーヒーだってブラックしか飲まねえし、チョコなんか1欠片だけでも胸やけする。


でもたまに甘いモノも食べたいと思ってしまう時期がある。


―そしてどっぷりはまってしまうんだ


今まで付き合った女は大人な色気たっぷりな年上が多くて、車もあって一人暮らしみたいな何時でも遊べる好都合な女が好きだった。

興味本位で違うタイプに手を出してしまったのがいけなかったのか。
学校帰りにどっか寄るかと聞けば、門限は6時だと言って真っ直ぐ帰るし、子どもみたいな体型だし。キスさえもさせてくれない。


付き合っても違う男ばかり見てる。




「美人な女子大生ってどこに居たんだよ?お前話しかけられたのって、孫の教室を聞いてきたお婆さんだけだったじゃん?」

「聞いてたな。趣味わりぃ…。」


聞いてたんじゃないですぅ、聞こえたんですぅと言う銀八の顔面に綿飴を突っ込んでやろうかと思ったがコイツが甘いの好きなのを思い出して止めた。



「お前にしては珍しい女のチョイスだったなー」

「…別に。遊びだったしな」

「そ?にしては珍しく他に女作ってなかったじゃねぇか」

「……文化祭の準備が忙しかったから」


何を言っても銀八には通じないと言うことは分かっている


「ふーん。ま、良いんじゃねぇの?たまにはフラれるのも。勉強だ勉強ー」

「フラれてねぇよ。俺がフったんだ」

「はいはい。プライドたけぇ男はこれだから…。」


ホントこいつと居ると腹立つ…。
殴って良いですか?


「まぁ元気出せよ。俺のとっておきのビデオ貸してやるからさ」

「…間に合ってる」

「あーそうかよー。後で言っても貸さないからなぁ。
……甘いモノにはまっちまう気持ちは分かるけど、程々にしないと先生みたいに糖尿なるぞ」



そう言って銀八は屋台のある方にと再び姿を消した。
何が言いたかったか高杉には分からなかったが、一つだけ伝わったことは自分を励まそうとしたのだと言う事。


「この俺が励まされるとはな…クク」


右手に残ったピンクの色付きの綿飴を一瞥し、一口かじるってみると口の中に広がるのは甘い砂糖。
一瞬眉間に皺をよせて甘過ぎる口溶けに、二度と口にしないと誓った。



「俺に甘めェモノは合わねえか…」






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