22.



この空間だけ切り取られたような不思議な感覚だった。神楽が発した言葉に、沖田がどのような返答をしてくるのか何も思い付かなかったし、考える事もできない。
何時もなら『冗談』で済ます事ができるが、目から流れ出る涙は真実を冗談にする事はできなかった。


「あ…、わ、あの、「分かった」



あぁ…。泣くなんて絶対したくないって思ってたのに。今までだって幾ら辛くたってコイツの前では泣かなかったって言うのに、
今までの努力が水の泡だ。

足元には数滴の小さい水たまりができていた。もう顔も上げることができない。こんな女みたいな所沖田にだけは見られたくなかった。



その時自分のでは無い指が涙を拭った。



「!?」

「…泣くなよ」

「な、泣いて無いアル!つーかさっき言っただロ!好きじゃないならこんな事……うわっ」



こんな事しないでと言う前に腕を引っ張られていた。

「痛っ、」

ギュッと逃げられないように強く掴まれた腕の力に反応し思わず出てしまった声に沖田は気付いたらしく、1回立ち止まったかと思うと腕を離し、今度は手を握ってきた。

これはこれでやばいんじゃないだろうか。何で私達手握って歩ってるの…?

人目を気にしながらも大人しく着いて行く。


(あ……)


「お、沖田!離して!さっき彼女さんが見てたヨ?誤解されても良いアルか?」

「それはねぇよ」

「あるヨ!本当に見てたネ!」

「だって彼女いねぇし」

「は?」


こいつ馬鹿にしてんのか?
今までも不可解な行動は多かったが、今日は度が越えている。
彼女がいないって質が悪いにしても神楽には笑えない冗談であった。
自分がどんな決心をして高杉と付き合っているのか。
―…それは沖田が自分とキスをしたと言う事実を彼女が知ったら傷つくと思って黙らせる為に高杉の言う通りにしているのだ。


「い、いないって」

「今日別れてきた」

「わか、れた…?」

「あの子より何時も俺の頭ん中支配する奴がいたから」



するとクルリと振り返り、繋いでいた手を思いっきり引っ張られそのまま沖田の胸の中に収まった。
神楽は少し抵抗したものの、すぐに静かになったが、恥ずかしいのか顔はなかなか上げようとはしなかった。何故分かったかと言うと、耳まで真っ赤だったから。


「……好きじゃないならこんな事するなって言ってるだロ」

「お前の事好きだ」

「冗談は止めるアル…」


何時の間にか行き着いた場所は出店も出てない校舎裏。
先程まで高杉と一緒に居た所の近くだ。


「悪い…、今までお前の気持ちほったらかしだった」


沖田は不器用ながらも今まで気付かないように押し込んでいた自分の気持ちをさらけ出した。
一言が出れば後は雪崩のように出てくる言葉。


「彼女とは好きで付き合ったんじゃないんでさァ。これこそその場のノリで。チャイナにキスした時だって彼女と居るノリだって言ったけど、本当は体が勝手に動いたんでィ。」


沖田の言葉をキョトンとした顔で聞いていた神楽は、未だに状況についていけてないらしい。
言葉で言って分からないなら行動に示すしかないな…。


ちゅ


「!!」


神楽とは二度目のキス。


ゆっくり顔を離すと吃驚した神楽の顔があり、思わず笑いそうになった。
次第に赤くなる顔にもう一度口付けをしたくなる。


(俺ってこんなに素直だっけ?)



「…さっきチャイナが高杉とキスしてるの見たって言ったじゃん?」

「や、あれは…」

「その時の顔、知らない男子にキスされた時と同じだったとも言った」

「?何、」

「でも、俺にされた時は何でそんな顔してんでィ?」



顔真っ赤だぜ?と言われてハッと気付く。本当に体は正直だ。
それは沖田と神楽どちらにも言える事。

もう沖田には自分の気持ちバレている…。
何回も諦めようとしたこの気持ち、
伝えても困る人がいない、
それなら…


「沖田、私も…」
「神楽」


「高杉…?」


ナイスタイミングで現れたのは神楽に大分待たされた高杉だった。


「………」




今日は賑わう文化祭。
舞台は校舎裏。
交わらなかった矢印が動き出す。





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