21.


気持ちに気付くまですごく時間がかかってしまった。
離れてから気付いた気持ち…。
今まで泣かせる事しかできなかったけど、勝手に気持ちを伝える事を許して欲しい。




「チャイナっ……チャイナは…」


息を切らせて走り回るなんてお前らしくない、って土方さんがここに居たらそう言って鼻で笑うんだろうな。


たしかに汗だくで女の名前を叫びながら走るなんて俺のキャラじゃねぇし?


…でも、必死なんだ。
本気なんだ。




どれぐらい走り回ったか分からない。着ている学ランを脱ぎ捨てたいくらいに体は熱い。それと同じく、早く神楽に会いたい…触れたいという気持ちも、どんどん熱を持っていく。

今まで閉じ込めていた分の反動だろうか


笑う時に少し細くなる蒼い瞳
伏せたら影ができるのではないかと思うほど長い睫
桜の花弁みたいにピンクの唇

今となってすべてが愛しい



「早く見つけて……あ、」


沖田が立ち止まったのは出店で賑わった校庭とは反対に、人気がまったくない校舎裏。
一組の男女が大量の屋台の商品である食べ物を並べ座っていた。
女の方は間違い無く神楽で品定めでもしているのだろうか、視線は食べ物に夢中である。
一方は積み重ねられてる荷物の障害物があるために見えないが、高杉だろう。静かに神楽を傍観しているようだ。


「ハッ……ハァハッ……ごほッ」


息が整っていないため声をかける事はできない沖田は黙って二人のやり取りを見ていた。
神楽が一人で喋ってることが多いようで、高杉は大人しく聞いていた。


「!?」


いきなり沖田の視界から神楽が消えた。
否、隠れていた高杉に腕を引っ張られて一緒に見えなくなってしまったらしい。


「…!チャイ、」

"ナ"と言い終わる前に神楽は再び視界へ戻ってきた。
唇を抑えてまるで感情が無い…。

その時の神楽の表情…、それは沖田も見た事があるものであった。


「………」






〜♪♪〜♪




「…電話?誰からアルか?……!え」

「…?誰からだよ」

「ぎ、銀ちゃんネ!高杉はここで待ってるヨロシ!」

「…ふーん。ちゃんと戻って来いよ?」


神楽は高杉と食べ物を置いて、着信が鳴りっぱなしの携帯を手に走り去った。
着信を告げるようにピカピカ光るサブディスプレイには『沖田』の文字。
沖田から着信があるなんてめずらしい。
何時もわざわざ携帯を使わなくても用事があればすぐに伝えられる距離にいたから。


高杉が見えなくなった辺りで通話ボタンを押す。


「…もしもし」

『俺、』

「おれおれ詐欺アルか?」

『馬鹿かィ。沖田ですけど』

「残念ながら私の携帯には登録してない名前ネ」

『うっそでィ』

「……用事は何アルか?人待たせてるから手短に言えヨ」



電話をかけてきたと言う事はそれなりの用事があるんでしょ?
トクトクと早くなる心臓を抑え、神楽は本題に入るように告げた。



『いくら人が少ないからって大勢いる学校でちゅーは良くないぜ?』

「なっ、黙って見てたアルか?趣味悪っ!良いだロ別に!…付き合ってるんだし…」

『故意に黙ってたんじゃないぜ』

「?」



ジャリっと背後から砂を踏む足音が聞こえてきた。



「お前探すために走り回って息切れしてたんでさァ」



さっきまで受話器越しから聞こえていた声が機械から通さずに、神楽の耳に届いた。
振り返ると黒い携帯を耳にあて、佇む沖田がいる。プッと切れる音を聞き、神楽は耳から携帯を離した。



「…息切れって、部活サボってるから体力落ちたんじゃないアルか?」

「うるせー…」



憎まれ口は相変わらず。この毒舌がなくちゃ神楽では無い。

神楽を高杉から離したは良いが、何を話すかさっぱり考えていなかった沖田は頭をかしかしと掻き、ひとまず溜め息をついた。
わざわざ電話で呼び出されたのに、溜め息をつかれたらたまったもんじゃない神楽は顔をしかめて沖田を見た。


「で?何ヨ?」

「べ、別に」

「はぁ?用がないのに呼んだアルか?」

「……お前が…………から」


沖田が何かを言った時に激しい破裂音が聴こえてきた。それは校庭の真ん中でマダオが打ち上げ花火を打ち上げたからだとすぐ分かった。そういやぁ銀ちゃんに花火係を頼まれていたっけ。
視線を何秒かマダオに奪われ、あっちは楽しそうだな、こっちはこんなにも気まずいのに…、とぼんやり考えていた。

直ぐに沖田は神楽に意識を戻し、相手が聞き取れなかったであろう言葉をもう一度紡いだ。



「お前が…、あの時と、…知らねぇ奴にキスされてた時と、同じ顔してたから。だから、俺…、」

「…ッ、余計な事するなヨ!」

「…!」

「何で…、何で何時も…、私の事助けるアル?彼女いるのに、好きでもない奴の事なんかほっとけば良いネ!」



―そんなの嘘。
無理矢理キスされた時だって、助けに来てくれてとっても嬉しかった。
沖田は何時も何だかんだで優しいから甘えてしまって、廊下で助けて言って無視された時は死にたくなるほど恥ずかしかった。
もう頼りにしないって思った。

でも、前みたいに高杉に迫られた時も助けてくれて、今は私が好んで行っている訳ではない行為に一つの表情で気付いてくれる。



「…好きじゃないなら、期待させるような事するなヨ!」




言った…、言ってしまった。
沖田の本当の気持ちなんて聞きたくなかった、知りたくなかったのに。

もう戻れない"友達"という関係を思い、神楽は涙を流した。





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