19.
「お前知ってっか?チャイナが高杉と付き合うらしいぞ?」
「は?」
人伝で聞いた驚愕の事実に俺は着いていけずにいた。
何で?昨日そんな雰囲気あったっけ?
俺と三人で居た時は全く皆無だったじゃねぇか。
「まさか、ガセでしょう?」
「生憎本当らしいぜ。…ほら、窓の外見てみろよ」
土方が顎で指した方を見てみると、二人で登校している神楽と高杉が見えた。
めったに学校に来ない高杉が登校しているだけでも珍しいのに、隣に女とは注目の的になっている。
高杉は後輩から先輩、はたまた教師にまで手を出し、女がいない時はいないとまで言われている奴だ。
沖田とはまた違うモテる部類だった。
「チャイナに彼氏出来たらお前寂しいだろ?」
「ばっ、寂しいわけないでさァ!寧ろ、子守する手間が省けて清々する…」
「でも相手高杉だぞ?女は怖いからなぁ…。高杉好きな女に虐められなきゃ良いけどな」
「あー…アイツは大丈夫ですぜィ。俺との仲を誤解された時も笑ってました」
「へー…、なんつーか本当お前は……あ、」
土方が何か言おうとした瞬間、沖田の後ろを指差した。
「何でィ、途中で話し止めんな……でっ!?」
パコンっと頭を何かに叩かれた。
そーっと後ろを振り返ると、白衣を着た担任が出席簿を持って立っていた。
おそらくそれで叩かれたのだろう。
「…校内暴力で教育委員会に訴えますぜィ?」
「やだなー。今の学生はすぐにPTAとか教育委員会とか持ち出すんだから。こんなの叩いたうちに入らねえよ」
「…で?何かご用ですかィ」
「ちょっとな、顔貸せ」
「先生、それはかつあげじゃないですか?」
「うっせ!マヨラーは黙ってろ」
「マヨラーじゃねェェ!土方だ!」
ギャーギャー言ってる土方の馬鹿をその場に置いて行き、俺は銀八の後を大人しく付いていった。
普段ふざけてる奴が真面目な顔をして話しがあるなんてどういう了見だ?
「まさか告白ですかィ?わりぃですが、俺はノーマルなんで」
「ばっか言うな。俺だって可愛い女の子が好きだっつうの。誰が野郎なんかとイチャイチャするか」
冗談を言いながら行き着いた先は国語準備室、
「…やっぱり先生…」
「ちげぇって言ってんだろうが」
銀八は自分が何時も座っているだろう椅子に腰掛け、俺にも座るようパイプイスを用意し促した。
黙って腰を下ろすと、銀八は本題に入るぞと口を開いた。
「こんな事言いたくなかったんだけどな…。何か事態が悪化しちゃってるみたいだし?」
「?」
「いいか?今からお前に言う事はお前の為に言うんじゃねぇ。神楽の為に言うんだからな」
「…チャイナ、ですかィ?」
それから銀八の口から聞いた話しは沖田にとってとても驚愕なものだった。
神楽が此処に来て泣いていた事があったり、嫌がらせだって耐えるのも辛いと言っていた事…。
チャイナは何時もそんな素振りを俺には見せずに明るく振る舞っていた。
―…全然気が付かなかった
「多串君でさえお前の気持ち少しは気付いてるっつうのに本人がなぁ……」
「?」
「いや、何でもねェよ。こっからは当人同士の問題だからな。年配者が口を出すもんじゃねぇな」
「………」
「俺は言うだけ言ったからな。後はお前がどう行動するかだよ。男見せろって話しだ」
教室戻って良いぞ、と銀八が告げると、軽く会釈をして沖田はその場を去った。
少し頭を整理したい。
教室に戻るまでの数分間、日頃使わない頭で考える。
俺の知らないところでチャイナが傷ついていた事、
それを俺は知らずに平気だろと突き放していた事、
無神経に(思わずだが)キスをしてしまった事、
俺はどれだけアイツを振り回してたんだ?
チャイナが隣りに居るのが当たり前で居心地が良くて、今のこの状況だって本当は嫌だ。
俺が言える立場じゃないが高杉のモノになんてなって欲しくないんだ。
チャイナがチャイナの意思で高杉と付き合ってるなら俺が出る幕じゃない、分かってる。寧ろ邪魔をする悪者じゃないか。
でも、もしそうじゃなかったら…。
何か訳があったら?
俺は今までチャイナを守れなかった分、チャイナに本当の笑顔を取り戻してあげたい。
漸く気付いた…、自分の気持ち。
「アイツが離れてから気付くなんて馬鹿みてェ…。」
俺は自分を取り巻く曖昧な関係に終止符を打つため、……自分の気持ちを本当に好きな人に伝えるために
(明日はっきりさせてやるぜィ…)
――…明日は文化祭当日
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