17.
あの後俺はそのまま教室には戻らず、屋上へと足をのばした。
クラスメイトに冷やかされるのも分かっていたし、教室にいると何故か無性にイライラする。
屋上は俺の一番落ち着く場所だった。彼女が出来る前は、チャイナと良くサボりに来てたっけな…。
フェンスに寄りかかり、チャイムが鳴るのをただ聞いていた。
次の時間サボろ…。
その時―…、ガチャッと屋上のドアを誰かが開けた音をした。
もしかして……と思い振り返ると、
「ざーんねーん。神楽じゃねェよ」
「たか、杉…」
そこに居たのは高杉だった。
ヘラヘラと笑いながら俺の隣まで歩いてきた。
「何だよ…」
「いや?お前の彼女可愛いなぁと思ってな。今度紹介しろよ?」
「……そんだけ?」
高杉はかなりの遊び人だと聞いている。学校にはほとんど登校してこないし、俺自身はこいつの私生活なんかほとんど知らない。ただ、幼稚園から一緒だったと言う事もあり、それなりの交友はある。
「神楽」
「…が、どうしたんでィ」
「俺が暫く学校に来てなかった間に随分可愛くなったんじゃねぇか?なんか色っぽくなった」
「俺はそう思わねぇけど…」
「それにお前ら何かあっただろ?今までと違って、お互いの態度とかよそよそすぎるんじゃねぇの?」
当たってるだけに何も言い返せない…。
つーかこいつ…高杉は何を言いたいんだよ。
「まぁ、何かあった方が俺は好都合だけどな」
「どういう意味でィ…?」
「俺さぁ、今度は神楽狙うわ。あのじゃじゃ馬っぷり新鮮で良いよな。普段ツンケンしてる奴ってヤってる時ぜってぇ可愛いぜ?」
「!!」
俺は無意識に高杉の胸倉を掴んでいた。
頭にカッときて今にも手が出そうになった。そんな状況でも、高杉はニヤニヤ笑みを顔に浮かべ、こうなる事が分かっていたかのような表情をしている。
「おい、沖田。この手なんだよ?神楽はお前の彼女じゃねぇだろ?」
「だけど…友達でィ…。そんな言われ方されたら誰でもキレまさァ」
「ふ〜ん、友達ねぇ…。折角神楽が諦めたって言うのにお前がこの調子じゃなぁ」
「?」
クククっと静かに笑うと、自分の胸倉を掴む沖田の手をやんわりと外した。
そして沖田に背を向け、屋上の出口へと歩いていった。途中で歩むのを止め、沖田の方を振り返らずに一言残していった。
「沖田ァ。俺と神楽が同じ委員って事忘れんなよ。…アイツとヤったら感想教えてやるから待ってな」
「……ッ、勝手にしろィ!俺は関係ねェよ!」
「はいはい。勝手にやるよ。沖田も可愛い彼女と仲良くやれよ」
そう言うと高杉は沖田を置いて屋上を後にした。
アイツが…チャイナが男に抱かれる所なんて想像できないし、したくも無い。高杉はああ言ってるが、チャイナにその気が無ければなんの進展も無いだろう…。
実際俺がキスした時だって、次の日何ともない顔して学校に来たし…。
まだ男を意識する事は無いはずだ。今まで一番時間を共有して来た俺だから知っている。
絶対大丈夫だ……。
…でも何だ?この不安感は?
相手が高杉だからか?
それとも土方さんの
『文化祭きっかけで付き合う奴多いんだよな』
って言う言葉か?
(本当に最近イライラしっぱなしだ…。気持ち悪ィ…。)
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「あっ!高杉!どこ行ってたアル!?私一人じゃ終わらないネ」
「屋上で休憩してた」
「休憩〜?また煙草でも吸ってたアルか?この未成年が。だから背が伸びないアル」
さすがの高杉も身長の事を気にしていたのか、これにはイラッときたらしい。一回鼻で笑って一歩神楽に近づいて見下ろした。
「な、何アルか」
「そんな事言って良いのか?沖田も俺と同じ身長だぞ?」
「あ、あいつは関係ないネ!」
「あー…、ついさっきも同じ台詞言われたな」
誰に?と聞いて来る神楽を無視し、神楽の手の中にある今日まで提出となってうるプリントを奪った。
「全然終わってねぇじゃねぇか。今日放課後居残りだな」
「言われなくてもそうするアル!」
18.へ