10.


本当に体が勝手に動くってあったんだ。
…すげーや。



「チャイナっ……!?」


俺が目にしたのは呼び出した本人であろう知らない男子生徒が、チャイナの腕を無理矢理掴み、


  ―…キスをしている所だった。



「沖田…!!」


男子生徒は俺に気付きバッと素早く離れた。チャイナは自分の腕で口を覆って、顔は伏せたままだった。


「…お、前、―チャイナに何した?この様子じゃ、同意…とかじゃねぇよな?」

「何って…、沖田君見てたじゃん?つーか、君に関係ないだろ。彼氏とかじゃないんだろ?」


そう言ってまた神楽に触れようとした手を掴み、俺はそいつの顔をグーで思いっ切り殴った。


本日2回目――また勝手に体が動いた…。本能的ってやつか。


殴られた男子生徒は痣になるんじゃないかと思うくらい頬をはらせ、
「邪魔しやがって!二股野郎!」
と、暴言を残して教室を去っていった。

 ……二股なんかしてねぇし…。
  彼女一人しかいないんだけど…。


情けない彼の後ろ姿を見送ると、未だに俺と顔を合わせようとしない神楽に近付いた。


「チャイナ…大丈夫かィ?あんな奴お前の怪力ならどうって事ないだろィ」

「……った…ょ」


掠れ気味な弱々しい声が神楽から聞こえてきた。うまく聞き取れないでいると、神楽はおれのワイシャツの裾をぎゅっと握った。


「…恐かっ、たョ…おき…たっ…」

「!!」


今までお前は強いだろ?って言ってきた俺だけど今更気付いた。

―…こいつだって、最初から女だったんだ
一人で強がっていたんだな…。


「知…らない奴に、き、…スされちゃったアル…。初めては、ヒック…好きな人…が良かったのにぃ…」

「……」


泣き崩れる神楽をどうあやそうか戸惑っていると、彼女の分厚い眼鏡の向こう側に、まるで真っ青な海のような涙で一杯の瞳が見えた。

――…吸い込まれそ…


俺はチャイナの眼鏡を外す。


「……沖田?」


やばい。ちょっと待て。俺。
今日は本能に任せすぎ…。
体が勝手に動くって言ってもこれは駄目だろ。
やめろ。


「沖っ…!!」



俺はチャイナの口に自分のそれを重ねていた。
俺とチャイナの間で初めて交わされるキス…
チャイナにとっては本日2回目のキス


俺…あいつと同じ事やってるじゃん…



「チャイナ…ごめん…」

「…何で…、何でしたアル?」


体が勝手に動いた…。何でだ?チャイナの事になると無意識に…。
こんな事こいつに言えない。


「…ごめん…。間が…さした」

「間が…さした…?」

「ん…、彼女と居るノリで…?」

「!!……そ、アルか…。間が、さしたアルか…。―…大丈夫!!彼女には言わないでおいてやるヨ!あとこの…キスも、忘れてやるから感謝するヨロシ!」



チャイナに嘘をついた。
後々この嘘が俺達の"友達"という関係さえも壊すことになろうとは思ってもいなかった。




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