暦は師走。
自国の文化でもないのに、日本人はクリスマスというイベントが一番好きだという事が浮かれてる街の様子から伺える。
今年もこの時期にはサンタコスプレした近藤が、思いを寄せる彼女に教室の外まで飛ばされ伸びている姿が目撃されるのが恒例となっていた。
そしてその後には決まって近藤さんを慰める会(彼女持ちは参加不可)がクリスマスに開催される。


「今年は土方さん参加できやせんねー」

「逆に良かったよ。何が楽しくて男だらけでツイスターゲームしなきゃいけねぇんだ」

「あれは心身共に苦痛ですもんね」


うげぇと近藤には悪いが、苦い思い出しか蘇らない沖田は眉をしかめた。
目が覚めた時に、全裸の野郎共が床に転がっている状況なんて地獄でしかない。


「土方さんは姉さんの事連れ出すんですかィ?」

「ま、まぁな……」

「はっ、死ねよ土方」

「テメエが聞いてきたんだろがァァ!」


怒鳴る土方を余所に、教室の外に目をやると風に舞う白い雪。
あぁ、初雪だ。天気予報では言ってなかったのに。
朝神楽が手袋、マフラー、ボンボン付きの帽子を着用して学校に行ったのを思いだし、厚着させていた姉はお天気お姉さんより感が良いと思う。そして着膨れした神楽は雪だるまよりだるまっぽかった。


「お前はどうすんだよ、今年」

間違いなく開催されるぞ、と視界の隅で山崎に介抱されている近藤を鼻で指して尋ねてきた。


「俺は―……」




爪先立ちの恋
―二人ぼっちのクリスマス―



ついうたた寝してしまった。意識が覚醒してきたと共に、体全体が金縛りにあったかのようにピクリとも動かない事に気づいた。一瞬恐怖を憶え、ミツバを呼ぼうと試みたが、自分をパニックにさせている原因が視界に入るにつれ言葉より溜息が出る事になる。


「オメエは何してんだ…」

仰向けの体勢で寝ていた沖田の上で、神楽が気持ち良さそうに俯せで寝ていた。すぴすぴと寝息を零す神楽の目元には何故か涙が溜まっていた。

首だけを横に動かすと、それまた不思議な光景で自分の姉がカメラを構えて立っていたので、なんて声を掛ければ良いか一瞬戸惑った。

「えーと、何やってんですかィ姉さん?」

結局神楽に問うたのと同じ質問になってしまった。

「あまりにも二人が可愛かったから写真に撮っておこうと思って。でも残念。そーちゃん起きちゃった」

じゃあ神楽ちゃんだけ撮っちゃおうかしら、と最近購入したばかりのデジカメのフラッシュを光らせた。

「何でコイツ泣いてんですかィ?」

「私がクリスマスは留守にするって言ったらね、寂しいって泣いちゃって……。そーちゃんはいるよね?って抱き着いたまま眠っちゃったみたいなの」


土方の野郎。間接的に泣かしやがったな。絶対的に姉は悪くない。
チャイナを泣かす事においては、アイツの右に出るものはいないんじゃないかと沖田は思った。

二人の話し声で沖田の上で眠りこけていた神楽がモゾモゾと動いて起きてしまったらしい。
そして伸びをした両手が沖田の顎に見事にクリーンヒット。


「んー……寝てたアル。ん?なんでそーご涙目アルか」

「……俺の顎が割れたらお前のせいだかんな」

「顎が割れる!?かっけーアル!」


悪気がないというのは一番厄介だ。
怒るにも怒れず、じんじんと痛む顎を抑えながら上体を起こして綿のように軽い神楽を下ろしてから自分も改めてソファーに座りなおした。

「あのね…、そーごに聞きたい事あるネ」

「ん?」

「クリスマスの日は……家にいるアルか?」

神楽の手には様々な種類のクリスマスケーキが載っている広告が握られていた。

ケーキは生クリームが好き。チキンは皮が好き。シャンメリーはお酒じゃないという事を担任に教えてもらった。
と、随分前から興奮気味で喋っていた事を記憶を辿り思い出す。
ただ、あの少々お転婆の度が過ぎる神楽が、珍しく様子を伺いながら緊張気味で聞いてきたのがあまりにも新鮮で虐めたくなった。

「なんでそんな事聞くんでさァ」

ドSがステータスにしっかり鎮座しているのが沖田総悟である。
冷や汗を掻く神楽を見ながら思わず口元が緩む。

「べ、別に彼女もいないお前がクリスマスどう過ごすのかなって思っただけアル!さみしいんだったら神楽様が一緒に過ごしてやっても良いヨ!お前が居るんだったらでっかいケーキを注文しようかなって思ったりだナ、えとそれで…」


今日はよく喋るなぁと感心して黙って見ていたが、神楽の後ろで「いじわるしちゃだめ」とミツバが口パクで訴えてきたので折れてやる事にした。


「んで?ケーキは何頼む?」
「! 生クリームの!」

さっきまで眉をハの字にさせていたのが嘘のように破顔した。
嬉しくてしょうがないのか普段やらないくせに、紅茶を淹れてくると言って台所にスキップしながら消えて行った。

沖田は近藤を慰める会をどう回避するか、理由を考えるのに悩む事になる。











―クリスマス当日

沖田家は神楽が持ち込んだ大きなツリーが飾られている。

何時もよりめかし込んで出掛けて行ったミツバを見送り、沖田達はさっそくパーティーの準備に取り掛かった。ミツバを迎えに来た土方が、神楽にプレゼントを用意していた事に沖田は驚いた。気が利く男気取りかと悪態をつけなかったのは姉の手前だったのもあるが、神楽が嬉しそうに目を細めて笑っていたからだ。


「そーご、ケーキないアルか?」

「あぁ、ケーキは今から取りに行かなきゃいけねぇんでィ。俺今から行ってくるから、チャイナは待ってな」

「わたしも行くヨ!」

「すぐ帰ってくっから。絶対火は使うんじゃねぇぞ。帰ってきて家燃えてたら泣くかんな」

神楽は何か言いたそうな顔をしたが、黙って頷いた。
一声で言う事を聞くなんて滅多にないので、明日は槍が降るなと言ってやると目を尖らせて生意気な顔を向けてきた。デコピンをしてやり、神楽が衝撃で目を瞑って外界をシャットアウトしている隙に肌を刺すような寒さの外へと薄手のジャケットを着て飛び出した。



ケーキ屋は沖田の想像以上に混雑していた。帰宅時間帯に被る時に来た事を後悔した反面、この人混みの中神楽を連れてこなくて良かったと安堵した。

( アイツがいたら間違いなく潰されてたなァ )

順番待ちで目当てのケーキを受け取り、携帯で時間を確認したら6時半を過ぎていた。待たせてるなと少し足早に店をでるとその横を両手でケーキを持った少年が通りすぎていった。自分の顔より大きい箱を持って走っている姿はとても危なっかしい。

( あれ転びそうだなァ…… )

神楽を連れて来なかったのももう一つ理由があった。間違いなく、はしゃいで転んでケーキを潰す。そのようなお約束を簡単にやってのけるので連れてこなかったのだ。


そして、危惧していた事が起こった。
ケーキを持って走っていた少年が見事にすっ転んだ。
それも沖田の目の前で。
数秒かかって自分がやってしまった過ちを理性的に考える事ができたのか、瞬間大声で泣き出した。

泣きたいのはこっちだ、と潰れたケーキと泣きじゃくる少年を眼前に沖田は居た堪れない気持ちで押し潰されそうになった。







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