相互記念 零園れいた様へ




何年か振りに小学生の時の同級生と会った。喧嘩ばかりしていたけど、俺にとっちゃぁ「はじめてこいをした」相手だった。所謂、好きな子程虐めちゃうを素でやっていたという訳だ。
卒業した後も忘れた事がない。中学、高校に上がった今だって何人かは“イイ感じ”になった女はいたが、今一踏ん切りがつかずいつの間にか自然消滅で“いい友達”になっているのだ。

たまたま寄ったコンビニでピンクの頭を見つけた時は心臓が震えた。

変わらないお団子頭で、蒼い目。お世辞にもスタイルが良いとは言えない薄い体。
―変わってない
思わず顔が綻んだ。



「また来たアルか」

「客にその態度はねぇんじゃねぇの」

「銀ちゃんにセクハラしてくる客がいるって言ったら、おでんの辛子指に塗り付けて目潰ししてやれって言われたネ」

「おぉこわっ。みなさーんここに暴力店員がいますよー」

「帰れヨ!そんな事お前にしかやらないネ」

「俺?俺がいつセクハラしたって言うんでィ」


カウンターに置かれたいかがわしい、その人の性癖を疑うような特集が組まれている雑誌に目を落とし、次に俺を見た。
その気の強そうな目が堪らない。…俺はドMか。


「人の性癖にとやかく言う気はないネ。ただ女の子の店員、しかも知り合いの前にどうどうとエロ本を出すお前の気が知れないアル」

「お前の嫌がる顔を見んのが楽しいんでさァ」

「このドS!」


打てば響く素晴らしい反応が余計俺を煽るとは知らないのだろうか。
……知らないんだろうな。

“いい友達”にさえなれず、何年か振りに会った彼女はつねに一歩置いた距離にいた。
どうアピールすれば良いかてんで分からない。学校は違うし、メアドや携番を知ってる訳でもない。聞いても教えてくれやしねぇ。

大体毎日105円の紙パックのジュースしか買わないので、店内を歩くコースは決まっている。だが、今日は裏にいるのかチャイナの姿が見当たらなくて暫くぷらぷらと立ち読みをしていたが、飽きてもう出ようとした時、後ろから声を掛けられた。


「沖田くん?」

「げ…、うららチャン」

そこに立っていたのは、同じ高校の同級生で、“イイ感じ”になった女の一人だった。このコンビニの制服を着ているという事はここでバイトをしてるという事か。

「げ、とは挨拶ね!成人向けコーナーでずっと立ち読みしてる人がいると思ったらまさか君とはね」


侮蔑を含んだ視線で友達に見られるなんて屈辱にしかない。面倒くさいし早く立ち去りたくも思ったが、まだチャイナに会ってない。休みじゃないのは確認済みなので、裏でせっせと働いてる筈なんだ。
一日一回からかわないとチャイナ不足で干からびてしまう。


「……うちの学校ってバイト禁止じゃなかったですかィ?」

「うっ…、だ、黙っててくれません?」

「良いですけど、その変わりにお願いあるんでさァ……」


耳を貸すように言うと素直に耳を傾けてきた。チャイナだったら警戒心剥き出しで毛を逆立てる猫のように近寄ってもこないだろうに。

その時の俺は店の奥でした物音に気づけずにいた。








学校にばらさない事を約束に見事チャイナのシフトとメアドをゲットした。
もしかして自分はストーカーへの第一歩を踏み出したんじゃないか。近藤さんみたいなねちっこい事まではしてないと思いたい。
ただ一つ気になる情報を得た。
チャイナがここのコンビニの店長と一緒に住んでるという事だ。
それって同棲?同棲なのか、一歩譲って同居なのか。
チャイナは会わない間に大人になってしまったのだろうか。だとしたら相当ショックだ。


「え?チャイナ暫く休む?」

「最近、おかしいんだよね。前は缶コーヒー箱から全部倒してたし、お弁当は醤油付けたままチンして爆発させてたし、ジャンプをチンするし。店長が暫く休ませるって言ってたよ」


剣道部の大会が近くて暫くコンビニに立ち寄れなかった間に、チャイナは小さな爆発騒ぎを起こしていたらしい。
普通ならクビになるような失敗続きな所を、チャイナに甘い店長・坂田銀時が療養期間として休みを与えるだけで事は収まったとの事。


「……店長、呼んでくれますかィ」

チャイナを自分の内側に囲って、さらに俺から唯一の接触をする場をとった店長とやらが単純に憎かった。でもそれ以上にチャイナが心配だ。

うららちゃんに呼ばれて店奥から出てきたその人は、想像より気の抜けたような奴だった。
でも若い。ロリコンっぽいオヤジだった場合も許せないが、相手がこの若さだと俺の発想はあらぬ方向へと広がっていく。


「あ、君もしかして沖田くん?」

「は?」


品定めをするようにじろじろと観察されて不快に思わない人はいない。
お前チャイナに何をしたとか、手ェ出してんじゃないだろうなこのドスケベが!とか言ってやろうとしたのに出会い頭に意表をつかれて、ぐうの音も出なかった。


「ふーん、なるほどねー。ふーん」

「なんでさァ。つうか何で俺の事知ってんでィ」

「はい、これ」


無理矢理手に握らされたのは、変なオバケのキーホルダーがついた何の変哲もないただの鍵。

「俺と神楽のアパートの鍵」

「なっ、」

「神楽が日本に残った甲斐があったってもんだな。沖田くんの行動次第では」

―…あぁこの人は
どこまでもチャイナの見方なんだな。
父親みたいな眼差しでチャイナと接してるんだ。

「腹割って話して来い」

くしゃりと頭が大きな手に包まれた。
なんだか急に恥ずかしい気持ちに苛まれ、思わず手を払いのけてしまった。


「んだよ、かわいくねーの」

「可愛くなくて結構でさァ!」


その場にいられなくて背を向け走り出した背中に、「ちゅーまでは許すけどそれ以上は駄目だぞ〜」と羞恥に塗れた言葉を投げ掛けられ、思わずつんのめりそうになった。


坂田さんに教えられた地図通り曲がって直進して、目当てのアパートにたどり着いた。表札には『坂田』と書かれており、ここに血も繋がっていない神楽が居ると思うと複雑な思いだ。

インターホンを何度か押してみたが、壊れてるのかうんともすんともしない。
しょうがないので、剥げかけてる塗装のドアを数回ノックすると内側から鍵が開けられ、チャイナが出てきた。

「な、んで、お前が、」

「チャイナが爆発事件を起こしたって聞いたんでィ」

「誰か……あぁ、うららちゃんカ」


一瞬苦り切った表情を見せたような気がしたが、すぐに仏頂面に戻った。そういえば昔のように俺に笑わない。
笑って欲しい。昔から好んで食べてた酢昆布をポケットに突っ込んできたのを思いだし、それを差し出すと逡巡してからそっと手を伸ばしてきた。すかさず空いてる方の手で細いチャイナの手首を掴む。


「は、離せヨっ!」

「嫌でィ」

「……お前は昔からわたしの嫌な事ばかりしてくるんだナ」

泣きそうだ。
そう思った。
掴む力を緩め、俯くチャイナのつむじが視界に入った。昔はこんなに身長差もなくて、見下ろす事なんてできなかった。
それに慰める事だって。


「わたし中国に帰るネ」

「なんで」

自分でも月並みな返事がでたなと思う。
チャイナの後ろには狭い部屋があって、そこには小さなキャリーバックが片隅に置かれていた。


「両親が中学生の時に事故にあったアル。にいちゃんもどっか行っちゃったし、銀ちゃんに引き取られたネ」


坂田さんと一緒に住んでる理由が分かった。チャイナの親父には俺も小さい頃何度も怒られた(娘の虫よけを理由に)記憶がある分、人事のように思えなかった。


「中国にいる親戚が学費も払ってくれるって。だから戻って来いって言われてたアル。でも、わたし会いたい人がいるからって我が儘言って銀ちゃんに迷惑かけて日本に留まったヨ」


学ランを引っ張られ、チャイナの目とかち合った。


「学校、楽しいカ?」

「…まぁまぁ」

「悔しいけどお前がいる学校は楽しいんだろうナ。わたしは……楽しかったヨ」

「チャイナ」

「ふごっ」

思わず抱きしめた。
そのまま前進して自然にお邪魔する形になり、素早くドアを閉める。
腕の中でチャイナが全力で抵抗するも、俺は鈍い方ではないので離してやる気なんて更更ない。


「会いたい奴に会えたんだろ?」

「…会えたヨ」

「変わってなかった?」

「性格は全くナ。でもそいつはそいつで新しい生活送ってたネ。可愛い彼女とかできてて腹立ったアル。調子のりやがって…、学校にも通わず日本に残ったわたしが馬鹿馬鹿しくなったヨ」


明るい口ぶりで言うチャイナ。だが顔は正直で俺のドS心を萎ませる程の泣き面だった。

「ちゅーして良い?そこまでなら許しもらってんでさァ」

「前言撤回アル。性格もただのチャラ男に成り下がってたネ。彼女いるのに何言うカ」

と、言われながら膝の皿を見事に蹴られた。

「……ってて、何勘違いしてるか分からねぇけど俺彼女いねぇし。まだ初恋を引きずってる身なんだよ…つうか痛ェな!クソチャイナ!」

「さぞかし初恋の君とやらはお美しいんだろうナ!わたしがいない間精々頑張って落とすヨロシ!クソサド」

「全然美しくなんかねーよ!ただの暴力ゴリラ女でィ!……頑張って落とせるかどうかはテメエ次第でさァ」


肩がぴくりと揺れた。俺が何かしらの動作をする度に反応する体が可愛かった。
坂田の旦那より、俺の方がもっと狭い所に囲ってるんだと思うと優越感が生まれる。だって1センチも隙間がないんだぞ。
まるで一体化したみたいだ。


「……中国のコンビニまでエロ本買いに行くの面倒だから3年したら帰って来いよ」

「……お前に命令されるのなんて真っ平御免アル。それに日本に帰ってきても家無いネ」

「んだよ、俺にプロポーズさせてぇのか」

違う違うと首を横に振るチャイナの耳が赤かったのを見逃さなかった。

三年後、帰ってきたら告ってやると普段の自分なら不整脈でも起こすんじゃないかというような言葉を囁けるようになったのは成長した印なんじゃないかなぁと心中でこっそり思った。



はつこい




れいた様へ相互記念に捧げます。
すいません、沖→神というより普通の沖神になってしまいました(P_`)設定も活かせきれずすいません(涙)





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