小学生パロ
同級生のおきたそうご君が大嫌いだ。
だって、いつも給食のおかわりの邪魔をしてくるし、わたしには悪口しか言ってこない。今日だってジミーが休んだ分のみかんゼリー狙ってたのに、ジャンケンもしないで勝ってに食べてた。
アイツもわたしの事キライっぽいから、わたしもキライになる事にした。
「はーい、注目。明日からちょい長い休みに入るけど、うさぎ小屋の世話をうちのクラスがしなきゃいけない。で、誰かに頼みたいんだけど、やってもいい奴いるか?」
うさぎさん…。
校舎の裏に小さい掘っ建て小屋がある。そこに4匹、子うさぎの頃から飼っていてそれがとってもかわいい。4日間快晴でお出かけ日和だとニュースで言っていたけど、土日も限らず鍵っ子なわたしには関係ない。
「はーい!ぎんちゃん!わたしお世話するアル!」
「おー、助かるわ。神楽の2学期の通信簿良くしてやるからな」
やった。
1学期はがんばりましょうばっかりだったから、パピーに怒られた。うさぎさんの世話もできて通信簿も上がるなんて、いっせき何とやらってやつだ。
家にいたって兄ちゃんに苛められるだけだし、うさぎさんとモフモフした方が良いに決まってる。
「せんせー、おれも手伝いまさァ」
「え、沖田くんが意欲的に?珍しいな……んじゃ、神楽と二人で―4日か?頑張れよ」
神さま。わたしに安らぎの場所はないのでしょうか……。
**
「お、おきたくん。うさぎさんが食べる葉っぱを持ってきてほしいヨ」
「は?んなの自分で持ってこいよ」
何でコイツは世話係りに立候補したんだろう。
1日目―おきたくんはちゃんと来た。
だけど、ゲームばっかりして全然手伝ってくれない。
わたしはおきたくんがキライだからできるだけなら一緒にはいたくないのに。
「…じゃあ、小屋の掃除を」
「今レベル上げでいそがしい」
家でやれよォォォ!そう叫びたくなったけど、ぐっと我慢した。
癒やしを…、癒やしがほしいと、まるまるしたうさぎさん達をそっと撫でた。
ふわふわしてる。
「かわいいアルなぁ」
思わず顔がほころんだ。
「目ぇ真っ赤ネ。寝不足アルか?」
「ぶっ」
声をした方を向くとおきたくんが笑っていた。
聞いてないフリして聞いていたのかな?でも笑われた理由が分からない。
「目が真っ赤なのは元からだろィ。チャイナはバカだねィ」
「…バカって言う方がバカネ!」
「バカはチャイナだけでさァ」
なんでそれ程仲も良くない(むしろキライ合ってる)奴にこんな事を言われなきゃいけないんだ。
明日も来るのかな…と暗い気持ちのまま今日の仕事は終わった。
結局おきたくんはレベル上げしかしてなかった。
2日目―やっぱり今日もおきたくんは時間通りに来た。でもゲームは持ってきてない。さらに今日はうさぎさん用の葉っぱの用意をしてくれた。
「ほら」
「あ、ありがとうアル」
昨日はあんなに協力してくれなかったのに…。
まさか毒入り草?と思い臭いを嗅いでみた。すると、嗅ぎ慣れた酸っぱいつんとした臭いがエサ用の葉から漂ってくる。
もしやと、自分の鞄があった方を見るとチャックが開いている。その上ジャンプしないと届かない場所に移動されている。
嫌な予感が的中した。
「……わたしの酢昆布は?」
「お前持ってんじゃねぇか」
ニヤニヤしたおきたくんが指さすのは、わたしが持っている葉。よく見ると緑に混ざって緑の何かが混ざってる。
酢昆布だ。
「わ、わたしのおやつー!!」
「学校におかし持ってきてダメなんだぜィ」
訂正。
おきたくんはキライじゃない。
大っキライだ。
3日目―今日はうさぎさんのお世話に行きたくない。うさぎさんは好き。でもおきたくんはキライ。
ベッドから出たくない。こんな気持ち初めてだ。
しばらくベッドの中で丸まってると、ノックもなしに兄ちゃんが入ってきた。
「かぐらー、なんか担任の先生来てるよ」
「……ぎんちゃ、?」
「そーそー、確か銀ちゃん。てかまだ寝てたの?昨日技かけすぎたせいかな?」
昨日は兄ちゃんにプロレス技の練習に付き合わされた。ふつう妹にするか?
たしかに体はまだ痛いけど、起きたくない原因は身体的問題じゃなく、精神的問題だ。
でも銀ちゃんが来てくれたなら顔を出さない訳にもいかない。慌ててパジャマから着替え、下に降りた。
「よ、神楽。俺も今から学校に行く用事あるから一緒に行こうぜ。今日もうさぎの世話に行くんだろ?」
「……行きたくないヨ」
「? なんでだよ。腹でも痛ェのか?」
銀ちゃんが教師モードになった。
確かにやると言ったからには、最後までやりとげなくちゃいけない。マミーにも言われていた事。
―…でも、
「おきたくんといるとお腹キリキリするアル…」
銀ちゃんが一瞬目を見開いた。がっかりさせてしまったのだろうか。
わたしがこんな直ぐにお腹が痛くなってしまう弱い子になってしまって。
「あー…パブロフの犬かよ。沖田くん見たら腹痛くなっちまうとかって……アイツどんだけ苛めたんだよ〜」
沢山イヤがらせされた。
でも銀ちゃんには言えなかった。チクるみたいで嫌だったから。
「ま、取り敢えず一緒に学校行こうぜ。今日は俺も神楽とうさぎ世話すっから」
「ぎんちゃぁぁん!!」
ぎんちゃんが一緒なら大丈夫。がんばってやりとげられる。
ぎゅって抱き締めたらポンポンと頭を撫でてくれたぎんちゃんは大好き。
「やほー沖田くん」
「先生?」
おきたくんはうさぎさんの小屋の外から葉っぱをちらつかせて焦らしていた。
ドSだ。
今日は銀ちゃんがいるから心強い。
「…なんで先生がいっしょに来るんでさァ」
「今日は先生もお手伝いなんですぅー。な、神楽」
「うん!」
これならお腹も痛くない。ぎんちゃんに隠れてチラリとおきたくんを見てみると、やっぱり何考えてるか分からない顔をしていた。だけど少し顔が赤いのは気のせいかな?
「そうですかィ。んじゃおれは帰りまさァ」
「……ちょい待ち。神楽、お前はうさぎのエサ持ってきてて」
「? わかったアル」
**
「沖田、テメエ熱あるだろ」
「ない」
「嘘だな。顔真っ赤だし、なんかフラフラしてるじゃんかよ。家に電話してやるから迎えに来てもらえ」
「……だいじょうぶ」
「それはこっちの台詞。神楽は大丈夫だから帰んな」
4日間。天気の良い日が続くと、お天気お姉さんが言っていた。
チャイナが前に一度日の光で倒れた時があった。人目のない所に一人で倒れてやがったから、脱水症状をおこしてて一時危なかったという過去がある。
「心配して毎日付いてたんだろ?」
「………」
「そんな沖田くんに褒美としてアドバイスをしてやろう。好きな子に意地悪しちまうのは分かるが、鈍ちんの神楽にはただの嫌がらせにしかとられねぇぞ」
頭が熱くて、先生が言ってる事がよく分からなかった。
お姉ちゃんの言いつけを聞いて、寝ていれば良かったと後悔したのは意識がとばした後だった。
**
いつも何もやらないなら帰れって言っても帰らないおきたくんが、素直に帰るって言うなんてびっくりした。
ぎんちゃんの姿が見えてきた。おきたくんがおんぶされてる。
「ど、どうしたネ!」
「熱出した。どうやらツンデレ病が発症したらしい。ヘタしたら死ぬな」
「しししし死ぬ…!?」
確かにおきたくんはぐったりしている。ぎんちゃんの髪を操縦桿のように握りしめて。
イヤな奴だけど、死ぬなんて嫌だ。
「…大丈夫なのカ?」
「調度今はデレ期だ。ほら」
ぎんちゃんが屈んだお陰でおきたくんと目線が同じになった。が、相手は目を瞑ってるので視線がかち合う事はない。
「……チャイナ」
「死ぬなヨ!ぜったい死んじゃだめアル!」
「……だい、…す、き……でさァ」
「うん!すき!だいすき!だから生きロ!」
つんでれ病なんて聞いた事ない分、余計に危ない病気な気がする。現にあのイジワルな顔しか見せないおきたくんがふにゃりと笑ってる。末期症状かもしれない。
涙がポロポロ出てくる。
「あしたも元気に来てくれなきゃイヤアルゥゥ!!」
あんなにキライだったのに、会うとお腹いたくなってたのに。
おきたくんがわたしの事キライだったから、わたしもキライだったのに。
死に際にそんな事言われちゃうとどうすれば良いか分からない。
わたしはその後頭を使いすぎて、熱をだして寝こむ事になった。
ぽんこつロマンティック
―後日
「かぐらー」
「にいちゃ…、りんごじゅーす飲みたいネ」
「俺飲んじゃったからないよ。それよりお見舞いに来てるよ。誰あれ?まさか彼氏じゃないよね?」
「?」
にいちゃんの後から顔をだしたのはおきたくんだった。生きてた。
でも頭に熱さまシートが貼ってある。わたしとおそろいだ。
「よう、元気か?」
「おきたくんの方こそつんでれ病だいじょうぶアルか!?」
「何それ」
発症中は記憶がないのかもしれない。
でもとりあえず元気そうで良かった。素直にそう思えた。
こっそり心配してたからピンとはった緊張の糸が一気に緩んだ。
「良かったアル…」
「………」
何かを確認するようにおきたくんがキョロキョロと辺りを見渡し、にいちゃんがいなくなったのを確認するとベッドで寝ているわたしに近づいてきた。
ギシリとベッドが軋み、蘇芳色の瞳がわたしの目と交わる。
「? ………!?」
ちゅ、と音がしたと思えば目の前にはおきたくんの顔。
びっくりして思わず突き飛ばしてしまった。
「ば、ばっちいアル」
「ばっちいって随分だな」
ごしごし唇をこすって今起こった事を整理してみたけど、追いつかなくてパニック状態だ。
おきたくんもなぜか真っ赤になって固まってる。
「ふ、ふん。いやがらせに決まってんだろ!ばーかばーか!」
「い、いやがらせであんな事すんなヨ!ああいう事は好きな子にしかやっちゃだめアル!」
「し、知ってらァ!!」
「知ってんならするナ!」
やっぱおきたくんの気持ちは全然分からなくて、だいすきとか言ってきたくせにこの態度。
コイツはサドに違いない。これからサドって呼んでやる。
お互いおでこに熱さまシートを貼って、会話のキャッチボールもできてないわたし達の体温は平熱よりはるかに高かくなっていた。