※うららちゃん出ます
苦手な方注意。おっかぐです。






今日は槍が降るかもしれない。
沖田がお団子をおごってくれるらしい。

神楽は沖田の前をスキップして甘味処へ向かっていた。
もしかして騙して楽しんでるんじゃないかと思って後ろを一度振り向くと、相変わらずだるそうにしながらも、ちゃんと付いてきていた。
よしよし、と満足そうにしてるとそれに気づいた沖田が呆れたように笑って言った。


「俺が嘘ついたとか思ったのかィ?」

「だってお前サドだし、いつもなら奢ってくれるとか言わないアル」

自然と足並みが揃い、沖田と並んで歩く。
隣りを盗み見ると顔だけは良い男がいた。…顔だけではない、悔しいけど腕も立つ。銀時を除いて、自分の隣りで肩を並べられるのはコイツしかいないと思っていた。


「言わねぇな、絶対。ただ今日はちょっとな…。奢るって言っても、万事屋への依頼料と言うのかねィ」

「? 依頼?」

そんな事上司の銀時から聞いてない。
朝起きてから今まで、依頼の話題なんて1回も出てもいないし。
沖田は神楽の考えてる事が分かったのか、ちょっとばつの悪そうな顔をして頭の後ろを掻いた。


「依頼って言っても旦那には言ってないんでさァ。俺からテメエに直の依頼」

「なんでわたしアルか?」

「急な話しだったから、旦那んとこ行く時間なかったんでさァ。調度良いとこでテメエが見つかったから」

ふーんとだけ返した。
たまにコイツに貸しを作っても良いかなと思った。団子も食べれるし、それこそ一石二鳥。
沖田に頼られるのも悪い気はしない。


「良いヨ!神楽さまにかかればどんな難事件もぱぱっと解決ネ!」

「いや、事件ってもんじゃねぇし」

「じゃあ何を…」


そう訊ね、沖田の顔を見上げたが目は合わなかった。沖田は神楽ではなく、前方を見ており面倒くさそうに眉をしかめている。
神楽も無意識にその視線の先を追うと、そこには女の子がいた。ツインテールで薄朱色の髪の毛。歳頃は沖田と同じか一つ下か。すらっと伸びた脚がモデルみたいだと思った。
ただ一つ変な所があるとすれば、不自然な皮の首輪。
一体なんのプレイだ。


「あ!ご主人様!」

その女性が普段なら聞き慣れない呼称を口にしながら、こちらに走り寄ってきたので流石の神楽もびっくりした。
思わず隣りにいる沖田を二度見してしまった。

ご主人様なんて言葉メイド喫茶でしか聞かないぞ。いや、メイド喫茶なんて行った事もないけど。

沖田の知り合いらしく、どうもと頭を下げている。


「お久しぶりです、ご主人様!あ、あの今日はありがとうございます!」

「いえ、良いんですよ。その代わり今日付き合ったら……」

「…はい、分かってます」


神楽の前には知らない沖田がいた。
普段なら絶対見せない笑顔だし、いつもの江戸っ子口調がない、敬語だ。


「じゃ、行きやすかィ」

「はい!…でも、あの、この子は?」


話題が自分に移り、思わず肩を竦めた。
さっきまで自分は美男美女をスクリーン越しに見ている気になっていたからだ。
蚊帳の外からいきなり渦中に連れ込まれたので、言葉が見つからない。
しかし、問われてるのは沖田であって、神楽が迷ってるうちにサラリと言ってのけた。


「コイツは田舎から出てきた俺の従姉妹です。今日一日世話を頼まれてて……良いですよね?」


有無を言わせぬ聞き方だ。
うららは黙って首を縦に振るしかなかった。



さっきまで隣りを歩いていた沖田が、今は“うらら”という女の子の隣りを歩いている。神楽は二歩後ろを付いて行っていた。
うららはどこからか鎖を持ち出して、それで引っ張って欲しいと強請ってるらしい。それを沖田は冷たくあしらっていたが、向こうからするとそれが良いのかなぜか喜んでいる。
会話の内容はよく聞こえなかったけど、流石はドSの周りにはドMが集まると感心した。すごいきれいな娘なのに勿体無い。


いつの間にか甘味処についていて、向かい合わせの椅子に沖田とうららが隣り同士に、神楽がその向かいに座った。

――わたしなんでこんな所にいるアルか?そもそも依頼の内容って何ヨ。

団子につられて付いてきたが、まさかこんな自分が邪魔者みたいな立場になるなら絶対来なかった。たまには気だって遣う。

「おい、チャイナ。確かに奢るって言ったけどな、少しは遠慮という物をしろィ」

「え?」


気づくと団子が刺さってた串が数十本。
だって仕方がない。会話にだって入れないし食べるしかないだろう。そっちには気を遣ってはやらない。

「こんなのまだ序の口アル」

「沢山食べるんですね」

「コイツの胃袋は底がねぇんですよ。うららちゃんはこんなに食べないでしょ?」

うららの横には2本の空串。
2本なんて食べたうちに入らないだろうと神楽は思った。それよりさっきから沖田が気にくわない。


「チッ、似非紳士サドが」

「うっせ、似非チャイナ」


お互いぼそぼそと、うららに聞こえないように憎まれ口を叩き合った。
神楽は少しホッとした。喉に詰まっていた物が取れたような感じがした。
調子にのって団子の追加を頼むと、沖田からの痛い視線が横顔に突き刺さる。


「あ、ご主人様。口元にお団子のたれがついてます」

そう言って素早く着物の懐から真っ白なハンカチを取り出し、沖田の口に付いた汚れを丁寧に拭いてやった。

それを見た神楽は無意識に顔を紅潮させた。なんかとても恥ずかしい現場を目撃したような気がした。

沖田がこんな風に年頃の女の子と一緒にいる所を見た事もなかったし、正直まともに話す異性なんて自分だけだと思ってた。

――自意識過剰だった

お団子は2本じゃ足りないし、
ハンカチだって持ち歩いていない。
脚も長くないし、
身長からしてこれから伸びる確証がない。

並ぶなんて言ってもそんなの戦場で位で、街を並んで歩くのには悔しいけど不釣り合い。多分それは男女のそれに見えないから。


「……わたし帰るアル」
「は?ちょ、依頼は」

「おばちゃーん!お団子、坂田銀時にツケといて欲しいアルー!後で払いにくるネ!」

「おい、チャイナ!」


後ろからの呼び止めを無視して神楽は手に傘を持ち、江戸の街の中に走って消えていく。

甘味処から少し離れた所で、神楽は立ち止まり後ろを振り向いたが、沖田は追ってきてはいなかった。
もしかしたら二度目もあるかと思っての行為だったが、振り向き損だ。


「んだよチクショー……」






++




万事屋への帰り道、河川敷を歩いていると前に見慣れた背中が二つあった。
神楽は俯いて歩いていた顔をあげ、全速力で駆け寄った。


「銀ちゃぁぁぁん!」

「のわっ!か、神楽ァ!?」


振り向いた銀時の腹にタックルし、そのまま抱っこちゃん人形と化した神楽。腕は銀時の首に回され、脚は胴体を拘束する。


「お前今日どこ行ってたんだよ!仕事の依頼きたから公園に探しに行ってもいねーし。結局新八と二人で行ってきたんだぞ」


銀時と新八の顔中には紺色っぽいペンキがついていた。


「屋根の塗り替えだったんだよ」

新八が取れない鼻の上のペンキを擦りながら、神楽に微笑みかけた。

「神楽は給料なしなー」

「わたしも依頼をこなしてたアル!」

「へぇ?どんな?」


それを失敗したと言えなくて、無言でぎゅっとしがみつく力を強くした。


「重い重い!!もう万事屋だからそろそろ降りろ!」

「ははは、なんか今日の神楽ちゃん小さい子みたいだね」

「………」


いつもなら毒舌で返せる新八の悪気はない一言も、今日は何も言い返せなかった。銀時から香る甘ったるい香りを嗅いでると何か落ち着く。


「ん?あれ?階段の所に誰かいませんか?」

「んあー?」


神楽は銀時にしがみついてる為見えなかったが、声で直ぐに分かった。


「旦那方、遅いですぜィ」

「あんれー?沖田くんじゃん?何?何か用?」

「これ」


そう言って差し出したのは、ビニール袋に入った大量の団子。
それを見た途端銀時の顔色は変わった。


「まじで!?沖田くんが珍しいな!新八ィ、茶の用意しろ!」

「はいはい。全部一気に食べちゃ駄目ですからね」


沖田から団子を受け取った新八は先に万事屋に入っていき、直ぐにやかんが沸かされる音が聞こえてきた。


「で、どした?お前は見返りなしに団子を差し入れするような奴じゃねぇだろ?」

「それ、に用事あって」


“それ”と指を指されたものはピクリと反応した。だが、沖田には背を向けたままで銀時から離れようとはしない。


「ほら、神楽」

「………」


ぽんぽんと頭を撫でられ降りるよう促されたが、頑なに動こうとはしない。
銀時は溜め息をつき、悪いなと謝罪をし頭を掻いた。
無理矢理剥がしてやろうとした時、沖田の声がそれを制止させた。


「旦那、そのままで」


空は真っ暗になりポツポツと滴が落ちてきた。


「チャイナ、今日のあれは違うから。今日1日付き合えばもう俺の事忘れる、関わらないって言うから会ってただけでィ。お前を誘ったのは、二人で会って変な噂を流されてからだと困るから利用させてもらった。それに気を悪くしたなら謝る」


聞いてるのか聞いてないのか分からない神楽に一方的に捲し立てる。
銀時は真顔で聞いていて、あくまで第三者になりきるつもりらしい。特に口出しはしてこない。

神楽がぎゅぅっと銀時に顔をうめたのを見て、沖田の眉が少し歪んだ。


「……じゃ、旦那、俺はこれで」

「あ、はいはい。こちらこそご馳走さん」

「あれは依頼料でさァ。なんでかいつもの半分も食べないで行っちまったんで」


階段を下りる遠ざかっていく足音と反比例して、ポタ、ポタと屋根に落ちる雨音が大きくなる。これは本降りになってくる降り方だ。
完全に足音が聴こえなくなるのを確認して、銀時が口を開いた。


「アイツがわざわざ土産を持って弁解に来るたァよっぽどの事だと俺は思うんだけど?何をそんな誤解されたくなかったんだろうなァ?」

「……銀ちゃん、ちょっと行ってくるアル」


ぴょん、と銀時から飛び降りて、傘立てから100均で買ってもらった花柄の傘を掴み急ぎ足で階段を駆け下りて行った。



まずは私を従姉妹呼ばわりした事を謝らせるか。
それともご主人様プレイさせるなんて最低野郎だと罵ってやろうか。

やっぱりボン・キュッ・ボンの美脚が好きなのかとか、問いただしてやりたい事は沢山あったけど、取り敢えず語るは拳だろという事で背後から仕掛けてみるのも良いかもしれない。
酸性雨を浴びてハゲちまうのは少し可哀想だし、優しい神楽さまが傘を差し出してやればどんな顔するのかな。

いつものポーカーフェイス?
それとも少しは崩れた表情を見せてくれるのだろうか。


見つけた、真っ黒な隊服に包まれた税金泥棒。

沖田が腹を抑えて蹲るまで、あと5秒。

沖田の頭上にピンクの傘が差し出されるまで、あと10秒。





こう見えて嫉妬してます




タイトル::にやりさま



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