>大江戸事件ファイルシリーズ
※沖田と神楽は結婚済み。しんごとそらはまだ生まれてません。
下ネタ注意、甘め(当社比)





「で?今回は何が原因なの?」


テーブルを挟み、銀時の向かいについ最近夫婦になった沖田と神楽が座っている。まだ新婚な二人だというのに、日々喧嘩が絶えない毎日を送っているのが第三者からしても理解容易かった。
そう、何かがあるとすぐに万事屋に押し掛けてくる。ここは駆け込み寺じゃないと神楽に声を大にして言いたい。そして沖田には自分の妻を家の柱に括りつける位しとけ、愛してやれ、と酒を飲みながらでも言ってやるかと思う。


「神楽が、」

「はいはい、神楽が?」

「子作りに消極的なんでさァ…」

「ぶほぉっ!!」

結婚してから名前呼びをするようになった違和感は最近漸く拭えてきたと思ったが、沖田のこういう保護者を前にしても遠慮ない発言には未だに馴れない。
銀時は思わずお茶を吹き出した。


「あのね、沖田君。そういう事は夫婦間で解決しなさい」

「ちゃんとヤる事はヤってるアル」

「ギャー!そんな事神楽の口から聞きたくねェェェ!」

「でも、いざってなるとコイツ拒否るんでさァ。ちゃんとつけろっ「お前の口からも聞きたくねぇ」


嫌がらせに来たのかコイツ等。
某ボクサーよろしく灰になりかけた銀時は辛うじて意識を保ち、こっちの世界に留まる事ができた。
預かり物の娘のような神楽が拒んでるという事は、それなりの理由がある筈。もしかして沖田の性癖に問題があって、神楽が無理矢理を強いられてるのかもしれない。旦那さんドSだし。

(いかん、それはいかん)

幾ら夫婦の事だとしても、そうとなれば口出しせねばと銀時は変な使命感を抱いた。

「えーと、神楽?なんで子供作んのやなんだ?」

「だって赤ちゃんを産むって、鼻からスイカを出す位痛いんだロ?」

「……あくまで比喩だろ。誰から聞いたんだよ、んな事」

「姐御」

何時もは神楽の姉的位置として、的確なアドバイスをしてくれる彼女だが今回は可哀想な卵焼き位余計な事してくれたらしい。だが一番厄介なのはこんな事をあまりにも深く受け入れてしまう神楽自身だった。あまりにも純心というか、無垢すぎるというか。

「沖田くんも大変ですね。こんな嫁だと」

「まぁ、こんなとこも可愛いんですけでね」

「はいはいごちそうさま。勝手にやってろ。もうあれだ、沖田くんが産めば良いじゃん。はい解決な」

「いや、無理でさァ、旦那」


早くも匙を投げられ、何の解決も見いだせないままの沖田は明らかに困った顔をして銀時を見た。


「俺が持ってきたケーキ食べたじゃねぇですかィ。それ相応のアドバイスくだせェよ」

「知らねえよ!俺はパチンコに行きてぇんだよ!それなのにいきなり押しかけられてテメエ等の床の話なんて聞きたかねぇっての!」


面倒くさいと全面に表現している銀時に、今まで黙って男達のやり取りを聞いていた神楽がようやく口を開いた。

「銀ちゃん、ごめんアル…」

「あ?あ、あぁ…別にそんな怒っちゃいねぇよ。気にすんな」


神楽の小さい頭に大きい手のひらをのせ、あやすかのように頭をゴシゴシしてやる。昔からそれが大好きだった神楽は、子ども扱いするなと頬を膨らませながらも柔らかく微笑み、小さく頷いた。

一方沖田はその台詞は俺のだろうと思いながらも、二人のやり取りに口は出さなかった。あれが今までの二人のスタイルであり、神楽が素直になってそれを大人の銀時が許す。そうやって二人が今までやってきたのが容易く想像できた。
沖田はこの性分ゆえ、妥協という事を神楽に対し一切してこなかった。相手も負けず劣らずな性格なので、ブツかっては自然の成り行きに任せる、よく今まで離縁の話がでなかったもんだと思う。


――少し頭を冷やそう

少し距離を置く。
それが沖田の出した決断だった。
これは一人で焦ってどうなる問題ではないし、神楽の意志が一番大切だ。子供は授かり物だと言うし、無理強いするもんじゃない。

「旦那、暫くチャイナを万事屋で預かってくだせェ」

「あ?」

一斉に銀時と神楽は沖田に顔を向けた。台所からお盆で四人分のお茶を運んで来た新八も、三人の違和感に気づき首を傾げた。

「あれ、沖田さん?もう帰るんですか?」

すれ違いざまに聞いてみたが、沖田は右手を挙げるだけで返事はせず、隊服用の革靴をひっかける程度に万事屋を出て行ってしまった。
もう仲直りしたのかな?と新八は思ったが、神楽が一緒に帰らない事を直ぐに不思議に思った。

「あ、ねぇ神楽ちゃん、沖田さんが……ってうわっ!危なっ!」

出て行った沖田の後を神楽が走って追って行った。思わずブツかってお茶を零しそうになった新八が文句を言おうと振り向いたら既に神楽の姿はなかった。
何なんだよもう、とブツブツ呟きながら居間に戻ると銀時がソファに寝っ転がってジャンプを読んでいた。

「あの二人はなんで喧嘩してたんですか?」

「んー?喧嘩じゃねぇよ」

「?」

「アイツ等さァ、あんなんだけど意外にクソ真面目なんだよなぁ」















「……沖田!沖田ってば!」

探し人は直ぐに見つかった。
呼んでも返事はないが、あの栗色の頭と黒い隊服の持ち主は一人しかいない。


「うあっ、」


新調した靴が少し大きかったせいで、つま先を引っ掛けて豪快に神楽は転んでしまった。
額と顎は擦れ、靴も片方脱げてしまい、自分の見窄らしさに思わず顔が赤くなった。


「……沖田サン、大丈夫ですかィ」

「…え?」

「沖田沖田って…。テメエも沖田だろ」


沖田は屈み、神楽の脇に手を入れ立たせてやると、赤くなった額と顎に触れ、いったそーと目を細めた。

「こんなのすぐ治るヨ。夜兎だもん」

「でも今は痛てェだろ?」


――痛いヨ
胸がジクジクする。


「なんで、わたしを置いてったネ」

「…少しの間、嫁に休暇をあげようと思っただけでィ」

「わたしが…、わたしが帰る家はもう万事屋じゃないアル。お前の所ネ…もう、置いてくなヨ…」

最後の方は小さ過ぎて聞き取り難かったが、ちゃんと沖田には届いた。
今まで甘える事さえせず、気丈に振る舞っていた神楽が今目の前で涙をながしそうになっている。
沖田はそっと神楽に近づき頭を片手で抱いた。


「家、帰るぞ」


神楽は小さく頷いた。












沖田は結婚を決めると同時に一軒家を購入した。今まで物に無頓着だった沖田は、あまり給与に手をつける事はなかったので、十分な蓄えはあった。だが、さすがに余裕があったという訳ではなく、近藤や土方に少しの援助を受けていた。

その新居に二人で戻りソファに腰掛けた。

「神楽、わりィ。俺お前の気持ち考えてなかった」

頭をくしゃりとかきながら、沖田は神楽に頭をさげた。


「ううん…。わたしネ、本当は鼻からスイカ出す位痛くたって我慢できるアル」

「うん、」

「ただ、わたし怪我してばっかネ。さっきも転んじゃったし」

「まぁな。今でも生傷絶えないよな」

「だから心配アル。もしも赤ちゃんができても、わたしがこんなんだったら安心してお腹の中にいれないヨ…」


母親になる心構えはできている、だけどまだ若い神楽は子を宿すという事に少なからず不安を抱いていた。


「……大丈夫でィ」

「…なんでヨ?」

「大丈夫」

「だからなんで、」


根拠が欲しい、そういう目を沖田に向けると神楽の両手をとり、それを沖田は自分の頬へと運んだ。そして、バチンっと勢いよく頬を挟んだ。

「おわっ!ちょ、何してるネ!SからMに転向したのカ!?」

「今まで散々ブツかってきただろ?それなのに全然俺らは折れねェ。…あ、1回脚はやられたか」


自然と頬にあててた神楽の白い手で、自分で叩いて真っ赤になった頬をすりすりと撫でる。

「ま、俺がお前ごと、腹の中のガキも守ってやらァ。二人に守られるなら安心して寝てられるだろ?」

「……ぶふっ。月並みな台詞アルなぁ」

「難しい言葉使うじゃねぇか。俺一瞬意味分かんなかった」

真顔で言われ、思わず体の力が抜けてしまった。
でもコイツとなら、と決めたあの日の事を思い出し、誓いをたてた左手の薬指をそっと撫でた。


「わたし達の子供なら、ちょっとバカでも元気な良い子に育つヨ、きっと」

「おう………ってバカなの?」

「お前の子だしナ」






沖田家の夫婦事情







――――――
前半ギャグ後半シリアスに…。
大江戸事件ファイルは他のやつよりちょい甘め





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