小ネタ
習作・未完な作品置場

10/02/21
卵かけご飯


第二百八十訓ネタバレ有


「……神楽ちゃん神楽ちゃん。また卵かけご飯?いやね、銀さんも好きだけどね?卵かけご飯。でも流石に1週間連続は普通きついよね?俺さ、5日目辺りで挫けそうになったわ。いや、もう挫けてるか」


死んだ目は、一旦白飯の頂上に鎮座している卵から神楽へ。
口元にご飯粒を付け幸せそうに頬張る神楽からはなんの不満も感じられない、寧ろ幸せの絶頂を思わせる表情が銀時の気持ちをますます萎えさせた。


「つうか、この前にお妙達と料理教室行ったんじゃねぇのかよ。なのに何これ?料理が下手というステータスはお妙の特許だからお前は良いんだよ。そんな欲張んな」

「別に下手じゃねーモン。美味いだロ?卵かけご飯」

「………」


腹に入れば基本なんでも良いのだろう。
ある日お妙から言われた「神楽ちゃんはずっと万事屋に居てくれるみたいよ」という台詞を思い出した。
こんなんじゃ嫁の貰い手ないんじゃねぇのかと思いつつ、卵かけご飯のデスローテーションは愛でしかカバーできないとまじまじ思った。
――愛があってもこれは無理かもしれない…。

奇妙な空気が漂う中、インターホンが万事屋に響き渡る。
はいはーいと卵かけご飯を手にしたまま神楽が客を出迎えに出た。

銀時はもそもそと涙目で卵かけご飯を口に含み始めた。しかし、しんとした静けさを疑問に思い醤油を垂らす手を止め、ソファを立ち上がった瞬間お椀が割れた音が聞こえてきた。


「銀ちゃァァァァん!塩!塩持って来ォォォい!」


万事屋には塩もねぇよと、焦燥した顔で神楽が叫ぶのを聞く。


「うっせぇぞ神楽!こちとら栄養偏ってて血管ぶちぎれそうなんだよ!……え、誰?」

卵かけご飯を顔にぶっかけられてる客が一人。その横では神楽が目角を立てていた。その手にはビニールの袋がぶら下げられており、銀時にそれを差し出した。
持つ所もベタベタになっていたので、銀時は顔を顰めながら受け取った。


「おたくどちらさん…?」

「旦那、俺でさァ俺。つうか娘にどんな教育してるんでさァ。訪問した客の顔に卵かけご飯を投げ付けるなんて」

「あぁ沖田くんね。いらっしゃい」

「それ、武州に帰ったお土産でさァ。良かったら皆で…って言ってもチャイナ抜かしたお二人で食べてくだせェ」


爽やかに微笑みながら言う沖田に反し、神楽はみるみる顔に怒りを表していった。
心底憎たらしいといった感情がひしひしと銀時にも伝わってくる。

渡された袋の中身を見て瞬間目を見開いた。

「沖田くん、こ、これ!」

「あぁ、飯ん時の肴にでもしてくだせェ」

中には幾つかの瓶に入った佃煮。銀時は目を爛々と輝かせながら、沖田にタオルを渡して万事屋内に招き入れた。


「ホント沖田くんは気が利くよなァ。ここ1週間ずっと卵卵卵でさァ。神楽が食事当番だと節操なく卵で参ってたんだよね」

「それはそれは。チャイナも一応女なんですよね?なのにそれはどうなんですかねィ。俺と同じモン付いてんじゃねぇの」

「………殺ス」


ぼそっと呟かれた物騒な言葉に、沖田は冗談めかしておぉ怖っと肩を竦めて言った。

「そんなんじゃ嫁にいけねぇぞ、って言ってんだけどね」

「あぁ」

「“あぁ”じゃねぇヨ!私はクッキンゲ親父みたいな人と結婚するんだもんネ!」

「「しゃくれてる奴が良いのか?」」

「ちげーヨ!料理できる人アル!……もういいアル。ドSコンビと話ししてると疲労感が半端ないネ。さだはるぅ〜」


ソファの裏でうたた寝していた定春を連れ、出ていってしまった。




「……で、どうよ。沖田くん貰ってくんない?」

「時給出るんですかィ」

「神楽に?」

「なんでチャイナにでさァ。俺に決まってんでしょう」


沖田には出涸らしのお茶を出し、自分は食べかけのご飯に土産の佃煮をかけて頬張る。
さして気にする様子もなかったが、今の質問に対して沖田は何を言っているんだという顔をした。
茶を一口飲み喉を潤し、視線を逸らしながら話す。

「あんな暴飲暴食なガキと一緒に居たらあっという間に財布が空になる」

「って事は神楽に餌付けしちゃってんのね。どうりでアイツは毎日卵かけご飯でも飽きねぇ訳だわ」


後ろ頭で手を組み、愚痴る風でもなく分かってた様に呟く。

「沖田くん、よ・ろ・し・く」

「断固拒否します」

「今なら365日卵かけご飯付きだよ」

「いりません」


暫しの押し問答が行われ、銀時が折れ話しが終わった。

何か考えているかのように難しい顔をして俯く沖田は、思った事を口に出したのだろう。その言葉は銀時を驚かすのには十分な威力だった。


「チャイナが…、チャイナが卵かけご飯しか作れなかったらどこにも娶られないんですかねィ……。だったら――、」


――だったら、良いや

と続きそうな表情で語る沖田。
だが実際には言葉にしなかった。

十代男子の気持ちは複雑だなと思いながら銀時は美味しい佃煮に舌鼓をうった。




+++

リハビリ文
佃煮食べたい。




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