「…組長、」

「なに?」

「本日の巡察の経路はそちらでなく、こちらかと」

「分かってるよ。ただちょっとこの先を覗いただけじゃない」

「す、すみません」


最近の僕は様子がいつもと何処か違う、といつかの誰かが言ってたっけ。平隊士だったか、はたまた同じ組長同士だったのか。今となっては思い出せないけれど自分自身でもこの奇怪な行動に疑問を抱いていた。


「みんな、今日はもう終わりにして屯所に帰っていいよ」

「しかしまだ残っている部分も…」

「僕に口答えしないで。君達にもう用はないんだから切られたくなければ早く戻ることをお勧めするよ」


そう言いながら刀の刀身を鞘から抜き出し口元だけで笑って見せれば一番組の平隊士たちは顔をサッと青くして急いで来た道を戻っていった。だから黙って言うこと聞いてれば良かったものを。そうすれば彼らはこんな恐い思いしなくて済んだのにね。





「こら、総司。何をそんなにイライラしてるのかな?」

「名前ちゃん…」


突然話し掛けられ多少驚いたりしたものの、声の主が誰かすぐに判明した為平素を装いゆっくり後ろの彼女を振り返った。


「彼らは自分たちの職務を全うしようとしただけよ?それなのにそんな八つ当たりは良くないわ」

「別に八つ当たりなんかじゃない。僕の命令に従えないのが悪いんだよ」

「何が気に入らないのか分からないけど、少しあそこの茶店で休みましょうか」

「僕はまだやる事が…」

「何もないくせに」


くすりと一つ笑みを零し自然な動作でこちらの手を握ってくる。彼女…名前ちゃんは僕の幼なじみであり片道通行の想い人だ。そんな人のお誘いを誰が断る事が出来ようか?まず僕は無理だからさっきまでの苛つきを抑え素直に付いて行く意思を示した。





茶店にて。

次々に運ばれてくる甘味に唖然としながらも、それを幸せそうに頬張る名前ちゃんに段々荒んだ心も落ち着きを取り戻してきた。こうやって見てると年上に見えないんだよね、この人。本当どんな事をしても可愛いんだから特だと思う。


「どう?少しは穏やかな表情になってきたみたいだけど、総司はちゃんと食べてる?」

「僕は名前ちゃんの幸せそうな顔見てるだけでお腹いっぱいだよ」

「あらあら、嬉しい事言ってくれるじゃないの」


でもせっかく頼んだんだから、少しは食べてよね。なんて極上の笑顔付きであーん、と匙を口元に持ってきた。


「えっ、」

「いいから食べなさい。総司は小さい頃から私が食べさせないと駄々こねてたのよね。懐かしいなぁ」


名前ちゃんは昔に想いを馳せながらも再び匙を近付けてくる。僕も好きな人が食べさせてくれるって事実だけで顔が真っ赤になりそうだったけど、それはそれで恥ずかしかったからいつもの軽い調子を保とうと必死になっていた。





暫く談笑して気分も大分落ち着きを取り戻した頃、名前ちゃんはいきなり真剣な眼差しでこちらを射抜いてきた。その強い光が灯った瞳に捕まった僕は動くことが出来ない。


「総司、何があったの?」

「………」

「溜め込むのは良くないわ。私でよかったら話してくれないかしら」

「……の…い」

「ん?」

「だから名前ちゃんのせいだってば!」

「わ、私のせい!?」


いきなりの大声に驚いたようで先程までの眼力がなくなったものの、今でさえ大きな瞳が目一杯広げられ零れ落ちるんじゃないかって程見開かれている。もう何したって名前ちゃんは可愛いんだから。思わず食べちゃいたい。


「そう、僕がこんなにイライラしてるのもきっと全部名前ちゃんのせい。…もしかして心当たりなかった?」

「ご、ごめんなさい。全然心当たりないわ…」


しゅん…とうなだれる姿はまるで小動物の様で。愛しさのあまりここが公共の場だというのも忘れ、ただひたすらに彼女を掻き抱いた。


「ちょっ総司!」

「この間名前ちゃん屯所に来てたでしょ?」

「みんな見てる…」

「見たい奴には見せてやればいいよ。まぁ名前ちゃんを他の野郎になんか見せてあげないけどね」


そう言って彼女を抱く腕に力を込める。最初こそ抵抗を見せてたものの、次第に大人しくなってきた名前ちゃんに気付き今度はゆっくりと彼女の肩口に顔を埋めた。


「総司…」

「名前ちゃんは新選組の幹部に好きな人でも居るの?」

「え?」

「だって土方さんと仲良く談笑したり、左之さんに髪弄ってもらってたり、平助をからかって遊んでたり、新八さんとお茶飲んでたり、後は山南さんと……」

「ちょ、ちょっと待ってよ。どうして総司が知ってるのよ!?」

「全部見てたからに決まってるでしょ?」


当たり前の事を聞かないで。と言えば僕が肩口に居るからそれはかなわなかったが雰囲気から察するに頭を垂れたのがわかった。


「それを見てから僕おかしいんだ」


一言呟けば離れる体。下から見上げてくる表情は疑問と不安の色に染まっている。


「仕事をしても身が入らないし、高揚した気持ちも一気に降下したり。情緒不安定の中で一日中名前ちゃんの事が頭から離れないんだ」



だからお願い、







(この気持ちが嫉妬だって)(すぐに気付いたんだよ?)


101210




← |

戻る



「#学園」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -