▼ネイさまへ捧げます
※中身チェンジでお贈りします(多少の捏造を含む)
「Hey,小十郎。お前にいいもんをやる」
政宗様はそう言いながら後ろ手に近付いてきた。しかしこの小十郎、貴方様の悪戯を企んでいる表情くらいお見通しですぞ。何年ご一緒に過ごしてきたとお思いか…!
「して政宗様、今度は何をやらかすおつもりで?」
「おいおい、何だそのつれねぇ返答は。初めっから疑い深いのはあんまり良くないぞ」
「政宗様をお守りする身であればこそです」
やれやれと肩を竦める主にこちらの頭が痛くなる。この方は幼少期の頃からそうだ。いつだって無茶をして怒られても懲りずに何度も悪戯を仕掛けてくる。ただ、その相手が政宗様の信頼たる者のみに向けられる感情だからこそ変にこそばゆいのだ。幼き日の、母上である義姫様から向けられた一方的な憎悪が内向的だった性格に拍車をかけてしまったが、今ではその逆境を乗り越えて強く立派になられた。その時に気付いたと言う。誰が自分にとって信頼できる人物か、と。この小十郎や俺の姉上である喜多、それに欠かせないのはお待たせしました><という政宗様と同い歳の女中が一番の支えになっていたと嬉しそうに告げられた際は思わず涙腺が刺激されたってもんだ。
だから余計に目が離せない。俺たちが守らずして誰がやるんだ。
「そんな肩肘ばっかり張ってても疲れるだけだろ。偶にはこれでも食って休め」
照れくさそうに頬を掻きながらそっぽを向く目の前の政宗様を思わず凝視してしまった。それに対して不貞腐れた顔して此方を睨まれた。すみません、あまりに驚いたものでつい…。まぁ次いでとんでくる照れ隠しの罵倒雑言は聞かなかったことにする。
「さっき前田の風来坊と城下に行ってきたんだがな、」
「また執務を放って行かれたのですか!」
「Shut up!最後まで聞け」
「ぬぅ…」
「そんときvery beautifulな菓子を見つけたんだ。ほら、これを見ろ。“金平糖”って言うんだぜ」
とても誇らしげな政宗様。そ、そんなに胸を張ってもこの小十郎は許しませんぞ…!黙って勝手に城を抜け出すなんて言語道断!みっちりお仕置きが必要な様ですな。これも全て貴方様への愛故に、で御座いますれば、
「これ、持ってってやったらお待たせしました><も喜ぶだろーなー」
「……!」
「“小十郎ありがとうっ!”つって抱きつかれたりして、ぷぷっ」
「………」
お待たせしました><が喜ぶ…。
想像に容易い表情が目に浮かんだ。あのお天道様みたいなきらきら輝いた笑顔と細められた瞳が瞬時に頭を過る。十近く歳が離れた女だが、妹の様にそれを想うよりずっと強い気持ちで俺はあいつを好いていた。
「一緒に食ってこい、説教ならその後聞いてやるよ」
放心状態の俺をそのままに背を向けて去っていく主はしっかりと俺の手に金平糖とやらが入った箱を渡し、握らせてきた。思わず蓋を開けると視界に飛び込んできたのは色取り取りの小粒な菓子。見たことのない代物に大の男が見ても感動したのだ。若い女なら絶対喜ぶに決まってる。
政宗様は俺の気持ちに気付いていたのか…。あの方だってお待たせしました><を好いているというのに。
折角のお気持だ、無碍にしない為にもありがたく頂戴しておこう。何せ今頃返しに行ったって受け取らないだろうからな。
「早く食ってくれねぇかな」
一人盛り上がる中、そんな言葉が投下されていたなんて誰が気付けるというのか。普段なら反応出来たかもしれないが微妙な興奮状態に全然耳に入ってこなかった。冷静になった今思うと初めの“前田の風来坊と”ってところで疑うべきだったのに。
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「おい、お待たせしました><は入るか?」
「片倉様!はい、お待たせしました><めはここに」
「仕事中すまねぇな、この後空いてるか?」
「はい、後ではなく今からでも大丈夫でございます。私の担当分は今し方終わらせたばかりなので」
言うが早いか素早く姿を現すお待たせしました><。その彼女を連れてこの場を後にする。この金平糖は他の奴に配り渡れるほど多くは入ってないしな、喧嘩になる前に移動したほうが賢明なのはとうの昔に学んだこと。
連れたお待たせしました><の手を握り歩きだす。次期女中頭に一番近いとされているだけあってその触れた働き者の手はかさついていて真冬でもないのに皸などで酷く荒れていた。若い奴がこんなにして。
ある程度来た所でそっと掴んでいた手を放す。そして改めて痛々しいそれを丁寧に攫い直し、そっと静かに先程の箱を手渡した。
「?これは…?」
「今し方政宗様から頂いたものだ、二人で食べろとよ」
「開けてもいい?」
「あぁ、」
政宗様からの頂き物と聞いて綻ぶ表情。期待に満ちたそれは幼い頃から何一つ変わっていなかった。政宗様の信頼を寄せている顔ぶれの前ではお待たせしました><も自然と素に戻る。だが誰一人として指摘するものはいなかった。皆こいつを見て癒されるのは一緒らしい。愛らしい表情を惜しげもなく曝し飛び跳ねて喜びを表す。
「なぁに、これ!すっごく可愛い!」
「“金平糖”と言うそうだ」
「こんぺいとう…」
ほぅ…と感嘆の息を付くお待たせしました><。瞳はきらきらと輝き、まるで周りに花でも飛んでるみてぇだ。こんなに感動で裡(うち)震えてるんだ、早く食って政宗様に感想を伝えに行こう。きっと豪快に笑って『良かったな』っておっしゃる筈だ。
「ほらお待たせしました><、口を開けてみろ」
「あー」
ころん、とその小さな口に放りこんでやる。ぱちぱち瞬きして動きを止めたかと思ったらいきなり涙を流し始めた。
「お、美味しい…」
「な、泣くほど美味かったか?」
「…うん」
「ほら、遠慮せずもう一つ食え」
先程と同じ行動を繰り返す。ふにゃりと崩れた頬を両手で包んで何とも嬉しそうだ。お待たせしました><の姿を見て更に興味が湧く。小さな菓子を一つ摘んで太陽に翳せば光を反射して虹彩を放つ宝石の様な金平糖。丁寧に自身の口に入れれば疲れも吹っ飛ぶくらいの甘さが一気に広がる。…こりゃ美味いな。城下でこんなものが売られているなんて知らなかった。
「お二人さん久し振り!元気にしてたかい?」
突如背後に感じた気配に振り向く間際、一瞬早くそいつが俺の背中をバシッと叩いた。衝撃の強さからは叩くというより殴るに近かったかもしれねぇ。声からして前田の風来坊の様だが如何せん中途半端に振り返ろうとした為、情けなくも体制を崩しちまった。ぐらり、と前に傾く体を止められずお待たせしました><の方に傾(なだ)れ込む。
「きゃっ…!」
「お待たせしました><っ」
「おいおい、大丈夫かい?!」
勢いのまま倒れればお待たせしました><の小さな頭に頭突きをかましてしまう。お、思ったより石頭だなこいつ。そんな事を考えていれば視界がぼやけ、接地個所がずきずきと痛み始める。まさか政宗様の右目であるこの片倉小十郎が頭突きごときで気を飛ばしそうになる、だと…?あり得ないと現実逃避を図るも閉じる瞼に抗えない。お待たせしました><はどうなった…?同じく被害者であるこいつの状態確認に移ろうにも己の意識が限界を迎え地に膝をつく。前田の風来坊が何か叫んでいるがもう耳には届かなかった。
「あれ?俺余計な事しちゃった…?」
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「…ぃ、…ろぅ、」
「ぅ、」
「しっかりしろ、小十郎!」
「はっ、ま、政宗様!!」
大きな声で脳が覚醒する。勢いよく飛び起きればほっと安心した表情の政宗様のお姿が目の前にあった。頭はまだ鈍く痛みが残り眉を顰めるが、付いた手の下には柔らかい布団があり、どうやら寝かされていたらしい。未だぼやける頭(かぶり)を振って視線を下げれば、目に鮮やかな蒼色の着物が飛び込んでくる。驚きと混乱で声にならない叫びが自身から発せられる。
「政宗様、こ、これは一体…」
「おっと、今はお前“小十郎”じゃなくて“お待たせしました><”だったな」
今までに無いほどの高い声で主に問う。「わりぃ、わりぃ」と、にやにや効果音が付きそうなくらい厭らしい笑みを湛え、悪戯に成功した時の癖である鼻の下を擦る仕草をしている政宗様。もしや俺は…
「また私を嵌めたのですか!?」
「そんな目くじら立てんなよ。Beautiful faceが台無しだぜ?」
「政宗様っ!!」
「独眼竜の言う通りだよ、眉間に皺寄せない!幸せが逃げちゃ…「てめぇにだけは言われたくねぇな、前田の風来坊!そもそもお前が…」
「あ、小十郎起きたの?」
俺の声に被せる様に放たれた台詞に勢いよくそちらに顔を向ける。するとそこには髪に花を付けた…
「お、俺じゃねぇか…」
「うんそうだね、何か中身?が入れ替わっちゃってるみたい」
こてん、と首を傾げる目の前の片倉小十郎。き、気持ちわりぃ。
「この花ね、慶ちゃんがくれたんだよ。綺麗でしょ」
「………」
「お待たせしました><ちゃんが喜んでくれて良かったよ。持って来た甲斐があったってもんだ!」
「Thank youな、前田の」
な、何故違和感なく会話をしてるんだ…?そこに居るのはお待たせしました><であってお待たせしました><ではないんだぞ。それともあれか、これは悪い夢なのか、そうか、そうだよな。こんな非現実的な事が…
「それにしても小十郎はやっぱ背が高いんだねー。景色が全然違うや。あ、政宗様、ちょっと失礼しますね」
俺が未だにこの状況についていけない中、俺(中身がお待たせしました><)は神妙な顔をし、そう呟くと素早く政宗様の元へ行き、
「男に抱きつかれても嬉しくねぇな」
「なんか暑苦しい画だね」
「慶ちゃんには言われたくないかな」
…あろうことか政宗様に抱きついた。
「おい、お待たせしました><やめろ!そんなところを家臣に見られたら…!」
「片倉様、何か御用、で………あ、し、失礼しました!自分は何も見てません!」
「くそっ、言わんこっちゃねぇ…!」
今のは完璧に誤解されたぜ。この竜の右目を自負する片倉小十郎が実のところ政宗様に色目を使ってその地位を得たなんて変な噂が広がったら…。俺はどうしたらいい?!そんなのは全く事実無根だ!
「俺は立派な男だ、女じゃあるめぇし色なんて使わねぇ…。この絶対的な忠誠心と実力を持ってしてここまで上り詰めてきたんだ…」
「あっはは、今の面白かったですねー政宗様。あれ絶対勘違いしましたね」
「Ha!You are so mean!」
「ゆーあ?」
「お前も悪い奴だな、って意味だ」
「えー、だって政宗様の幼馴染みたいなもんですからね、似ちゃうのはしょうがないじゃないですか」
「おいおい、そりゃねーぜ。ま、でも全否定も出来なさそうだがな」
「さっきのあの人の顔見ました?面白かったですね」
「あぁ傑作だな!」
「…失礼、お二人で和まないでいただきたい」
今はそれどころではなく、一刻も早く元に戻って弁解しに行かなきゃならねぇってのに、政宗様はともかく当事者であるお待たせしました><まで随分余裕みたいだな。こりゃかなりきつくお灸を据えてやらんと。
体からバチッと電流が迸る。ほぅ…知らなかった。そうか、お待たせしました><にも雷の婆娑羅技を使う素質があったのか。
「お待たせしました><、お前はどうやら雷の属性を操る素質があるようだぜ。折角だから今までにないくらいきっつい修業をしてやったっていいんだぞ、この俺直伝のな。明日は足腰立てねぇ様にしてやる。精神的にも鍛えてやりたいから戻らねぇってんなら俺の体を遠慮なく使え」
「ひっ…!」
「まぁ待ちなって!女の子をそんな乱暴に扱うもんじゃないよ!」
「…前田の、お前もこの一件に関わってるんだよな。ついでにその腐った根性も叩き直してやる。そこに直れ」
「お、俺そろそろ帰んないとまつ姉ちゃんが…」
「遠慮するな、今夜はゆっくりしていけ。特別に俺の部屋に泊めてやる」
「本物のお待たせしました><ちゃんの部屋なら大歓迎なんだけどー…」
じりじりと圧力を掛けながらにじり寄る。顔を青ざめて壁際に追いつめられる二人そこから先には逃げられねぇぜ。ざまぁ見ろ、いい気味だ。あと、少々離れたところで口元がヒク付いてる政宗様も御覚悟下さいませ!
「こ、小十郎っ?」
「なんだ、覚悟が決まったか」
「いや、ほら、ね?あんまり怒ると良くないよ…?と、特別に触らせてあげるから機嫌直して」
俺の顔して泣きそうになるな、みっともねぇ。
でかい図体で小さく一歩を踏み出してお待たせしました><が前田慶次を庇う。その局面に血液が沸騰しそうになった。俺も小さい男だぜ、こんなことで嫉妬しちまうなんて。
「これで許して?」
「なっ…!」
お待たせしました><は思考が漫(そぞ)ろになっている俺(体はお待たせしました><)の手を取って、その、当人の、胸の位置まで持ち上げて…
「な、何してやがるっ!」
「え?男の人って女のおっぱい好きなんじゃないの?政宗様だって…」
「おい!こんなところで言うんじゃねぇ!」
「お、お邪魔しました。また来るね独眼竜」
「ててててめぇは加賀から二度と出てくんにゃ!…!!そ、それよりお待たせしました><、いい加減手ぇ放せ」
「あれ、もしかして私結構小十郎のこと煽っちゃった?かみかみだね!」
「Ah…いろいろやべぇな」
あまり反省の色を見せないお待たせしました><は掴んだ俺の(体はお待たせしました><)の手の上から胸を揉みだした。お前はいつからこんなはしたない女に成り下がった…!
「お、俺はもう駄目だ、」
受け入れがたい有様にまたもや意識が遠のいてくる。いっそこのまま気絶でもなんでもした方がいいのかもしれないな。俺は疲れてるんだ、そうだ、疲れているだけなんだ。次目が覚めたらきっと元通りに…
「…ぃ、…ろぅ、」
「?」
「小十郎!早くどけろっ!」
「!!」
▼
「な、なにすんのよ!いい加減にしなさい!」
政宗様のお声と突然の頬への衝撃に思わず星が飛ぶ。な、何が起こったんだ?!今日は本当にツイてねぇぜ。
「気絶していたとはいえ、小十郎…お前 Nice fight だな」
「は?」
「まさか何しでかしたか気付いてないのか?!」
「情けなくも、その、まさかで御座います政宗様。小十郎には何が何だか…」
目の前の政宗様がサァっと表情を凍らせる。刹那、後頭部が強い痛みに襲われる。
「奇襲か?!」
「漸く目が覚めましたか、片倉様」
頭上からは般若の様な面したお待たせしました><が身を乗り出し俺を冷めた目で見降ろしていた。口調が敬語って事は相当頭にきてるらしい。だがこの状況が飲み込めない。俺はさっきまでお待たせしました><の体に意識が入っていて、それで…
「私の体は鼻の下が伸びる程気持ちが良かったですか?」
「意味がわからねぇ」
「なら自分の体に聞いてみてっ!」
鳩尾に一発拳を喰らう。女だと思って甘く見てたら痛い目にあったぜ。仮にも伊達軍に所属してるんだ。俺たちが行軍などで城を離れる時、誰が来てもある程度持ち堪えられる様に訓練させたんだったな。これがこんな形で成果を証明されるとは。
怒ったお待たせしました><はそのまま襖がぶっ壊れる程強く閉め、大股でドスドスと廊下を去って行った。そう言えばどうして俺は布団の上に座ってるんだ?
「今から事情を話そうと思うんだが…それより前に、小十郎お前大丈夫か?」
「はい、そんなに残る損傷ではなかったので」
「なら良かった」
安堵の表情の政宗様はどかりと目の前の布団に腰を下ろす。
そしてぽつりぽつりと申し訳なさそうにこれまでの経緯を話しだした。
一つ目はあの金平糖は前田の風来坊と城下にこっそり買いに行ったこと。その際に業者から“中身が入れ替わる不思議なお菓子”と分かって購入し、俺とお待たせしました><を実験台にしたらしい。バツが悪そうにそっぽを向いてお話しされた。
二つ目に金平糖を食べたときに態と衝撃を与えるために今回の協力者である前田慶次に押させた事。それが思いのほか力強かったらしく風来坊が原因で俺は今まで眠っていたらしい。
「で、では私とお待たせしました><は入れ替わってはいないのですね?」
「?(意味分かんねぇな) Of course、なのにお前ときたら…」
その後は聞いていられない程恥ずかしかった。こんな俺でも顔から火が噴くかと思ったくらいだ。女の、それも嫁入り前のお待たせしました><にはとても申し訳ないことをしてしまった。
先程まで感じていた掌の柔らかい感触は、先に目が覚めたらしいあいつが俺に膝枕で介抱してる際に無意識にお待たせしました><の胸を揉みし抱いていたらしい。大声で喋っていた言葉に関しては正に自分が吐いた台詞と全く同じだった。って事は、だ。あれはすべて夢だったって訳なんだよな。勝手に気絶した揚句、何たることを。やっちまったもんはどうしようもねぇが、穴があったら入りてぇ。こりゃ切腹もんかもな。
因みに痛みに関しては頬は打(ぶ)たれ、後頭部に至っては膝枕から落とされた時のものらしい。
「まぁ、お待たせしました><も真っ赤にはなってたが心底嫌がってた訳じゃなさそうだ。恥ずかしかったんじゃねぇか?」
「この小十郎、腹を切る覚悟は出来ておりまする」
「大丈夫だ、俺が腹なんか切らせねぇ。それよりお待たせしました><に謝ってこい」
「はっ」
何よりまず謝罪が先だと思い、政宗様に頭を下げて御前を後にしようとすれば、ふわりと香る花の匂い。
「小十郎、その髪に刺さってる花は何だ?」
「?身に覚えがありませんが…お待たせしました><が悪戯で付けたのでしょうか?」
「いや、そんな筈ねぇ。あいつは何も持ってなかったぞ」
「……」
「「!!?」」
どう言うことだ?
(結局は夢オチ)(ギャグになれない代物になってしまい申し訳ありません><)