千洋さまへ捧げます


※学パロ





「お待たせしました><ちゃんってさ、僕のコト好きだよね?」


彼に言われてドキリとした。
このドキリと心臓が跳ねたのは言い当てられたからでは決してない。何故かと言えば私と沖田くんは同じ学年とはいえ、今までクラスが同じになった事もなければ顔を合わせて仲良く会話した覚えもない。多分、そう、私の記憶が正しければの話だけど。その感情を持つまでの情報量を私は得ていないのだ。


「ねぇ、黙ってちゃ僕が大きな独り言吐いているみたいで不気味じゃない?返事ぐらいしたらどうなの」

「あ、あの…」

「どもっちゃってかーわいい。…なんて言うとでも思った?キミのそれって態とだよね、計算高いとかマジありえない」


どうして一方的に文句を言われなくてはいけないのだろう。私が直接彼に何かしたとは思えない。だって接点がこれと言って何もないのだから。そんな沖田くんに謂れのない言い掛かりをつけられるのは、こちらとしてもいい気分でないのは確かだった。


「お言葉を返すようで申し訳ないんだけど、私、あなたとのこれといった面識もなければ、いざこざ起こした様な覚えもないよ?逆に聞くけど、何処からそんな適当な言葉を出してくる訳?私が沖田くんの事が好きだって」

「へー面識ない割には僕の名前知ってるんだ、何で?」

「何でって、それは同級生だからでしょ」

「ふぅん、只のストーカーかと思った」

「適当な事言わないでくれる?」


何をどう勘違いしたらそういう発想に至るのか聞いてみたいものだが、生憎彼にこれ以上時間を取られるのは憚れる気がする。沖田くんがこんな人だとは思わなかった、と言うのが正直な感想だ。ただ単に私が勝手に友達の話を聞いて『甘えん坊で猫みたいな顔の造りが整ってる男の子』というイメージを持っていたので、少なからずショックというか幻滅していた。確かに本人を前にして得た情報でないにしろ、そのイメージを鵜呑みにしていたが為に現在痛い目に会っている私って…。
一方的なお互いの理解でこんなにも腹立たしいことは今後一切起こしたくはないので、逆にとてもいい教訓になったと思いたい。そう思わなければやっていけない程には頭にきていた。


「あれ、もう行っちゃうんだ。…僕から逃げるの?」

「馬鹿言わないで、直に予鈴が鳴るから教室に帰るだけ」

「強気な子は嫌いじゃないよ」

「…私はあんたみたいな嫌味な奴、大っ嫌いだけどね」


くるりと顔を背け己のクラスに足を向ける。怒りが治まらないままドスドスと大股で廊下を闊歩し、周りからの視線をたくさん集めてしまったが、それすらも気にならなかった。

だから私は残された背後で悲しそうに顔を歪めた沖田くんなんてこれっぽっちも知らない。







「お待たせしました><ちゃん」


あんな意味の解らない会話の後の授業は正直言って全く内容が頭の中に入ってこなかった。今がテスト期間でないことに心底安堵していれば、近くで聞こえる可愛らしい私の親友・千鶴がすぐ傍まで来ていた。


「どうしたの?」

「それは私の台詞だよ!前の休み時間に沖田さんと揉めたんだって?」

「揉めたも何も、向こうの勝手な言い掛かりだよ」


先程の出来事を思い出しては自然と眉間に皺が寄る。正面の空いた座席に静かに腰を下ろした千鶴は苦笑いしながらもゆっくりとそこを解してくれた。


「お待たせしました><ちゃん、綺麗な顔が台無しになってる」

「今はそう言う気分なの」

「そっか、上手くいかなかったんだね…」

「どう言うこと?千鶴、何か知ってるの?」


訳も解らず、素直に首を傾げてみる。思わず呟いてしまったのだろう彼女は一体何を知っているのだろうか。此方としては甚だ疑問である。そわそわと忙しなく視線を動かしていた様だったが仕舞いには諦めてのだろうか、観念したように眉を下げ、愛らしいその顔をそっと内緒話をするように寄せてきた。


「あのね、本当は私の口から話すのはいけないと思うんだけど仲がもっと拗れちゃうのは嫌だから…言っちゃうね。沖田さん…お待たせしました><ちゃんの事が好きなんだよ」


今の一言に思考が一瞬でフリーズする。え?何だって?私はとうとう耳までも悪くなってしまったのだろうか。身体を駆け巡る戦慄に『明日から大好きなエビフライが一生食べられなくなってしまう、』と告げられた様な衝撃を受けたのは言うまでもない。







それから数日、彼は毎日の様に私に会いに来ては辛辣とも言える台詞を残し去っていく。あの男は一体何がしたいのだろうか。千鶴の言葉が正しいのであれば、彼は(恥かしながら)私にホの字の筈だった。なのにどうだろうか、このやり取りは。毎度毎度厭きないのかしらね。


「今日はいつもと髪型違うんだ」

「どんな格好したって私の勝手でしょ」

「それもそうだけど。何、可愛い自分をアピールしたかったの?」

「誰もそんなこと言ってないじゃない」

「うん、だって全部僕が勝手に言ったんだから」


ホント、そろそろこのやり取りにも辟易してきた。いくら此方にその気がなくったって、一方的に寄って来ては必ずいちゃもんを付けて帰る。いい加減終わらせてもいいだろうか。キミに纏わり付かれているせいで妬みからくる嫌がらせだって増えたのだ。これ以上精神的負荷を与えなくてもいいのではないのだろうか。もう十分でしょ。


「ねぇ、毎回文句言いに来るのやめてくれない?ほとほと呆れてるって言わなきゃ解らない程子供じゃないでしょ?」

「そうだね、言われなきゃ分からない程子供でもないけど、コミュニケーションを取るのは駄目な訳?」

「あなたのそれがコミュニケーションだって?笑わせないでよ。そんなの只の暴言じゃない」

「お待たせしました><ちゃんは全部真に受けていたの?」

「あれを真に受けずに何を受け取ればいいのよ…」


この男は一体何を考えているのか心底理解に苦しむ。最近増えつつある彼との接点に友人達からは羨ましがられるものの、変わってもらえるのなら変わってもらいたい。こんな言い掛かりばかりに付き合っていられる程私だって暇な訳ではないのだ。この辺でチェックメイトにしてしまおうか、沖田くん。


「用がないなら私もう行くから。今後一切関わらないでね。迷惑だし」

「そんなの僕は認めないよ」

「キミに認められなくても結構。彼氏でもあるまいし、行動を制限する権限でもあると思ってるの?そんな事される筋合なんてない」

「僕だってそんな事言われる筋合いなんてないよ」

「じゃぁ、お互い様だね。なら次どういう行動取るべきか勿論解ってるでしょ?」

「うん、分かった。なら僕たちは今日からお付き合い開始って事でいいんだよね」


くらり、効果音が付きそうなくらいには衝撃を受けた。こいつ一体今まで何を聞いていたのだろうか…。何処をどう間違えたらそんな発展に至るのか至極不思議で堪らない。誰か翻訳こんにゃく持ってきてよ、お願いするから。


「お待たせしました><ちゃんに拒否権なんてないのは当たり前だけど、特別に一つだけなら言うこと聞いてあげないこともないかな」


何がいい?と訊ねてくるが選択しなんてあってないようなものだ。既に第一志望を潰された私に何を選べと言うのか。…もう帰ってもいいかな。疲れたんだけど。


「ないようなら決まりね。まずはお互いをもっと深く知るためにお昼は一緒に食べよう」


とてもじゃないけど沖田くんに付いていくことは出来ないだろう。が、こんなに嬉しそうに手を握って笑われたら拒絶なんて出来ないじゃないか。



(いつの間にか私の日常)


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