かほさまへ捧げます


※現パロ





「…ねぇねぇ沖田くん、なんだかここの距離感スッゴく近くないですか?」

「そう?僕は全然そんな事ないと思うけどね」


ニッコリ、そんな効果音が聞こえてきそうなある晴れた日の午後。私が良く利用させてもらっているカフェテラスにて。目の前に座って、こてん…と音が付きそうな雰囲気で小首を傾げるのは可愛くも憎らしい職場の後輩。この男は相も変わらず私にだけは手厳しい。こちらの意見や意思、意向はまるで無視。今日だって一人のんびり休暇を楽しむ筈だったのに。何で恰も当たり前の様な顔してそこに座ってる訳。気付いたら居るとか何このホラー。

…だからさっきから何度も言ってると思うんだけど、テーブル越しに顔寄せすぎだからね、キミは。言っておくけど、私達もの凄く近い事分かってる?もう、このまま地震でもなんでもきてみなさいよ、私と沖田くんの顔はそのままごっつんこは必須。真正面からぶつかったなんて事になったら…、って!もう!何変な事考えさせてるのよ!これじゃぁ私只の変態妄想家だわ!!

しかも、絶対に確信犯よねこの子。分かっててやってる感バリバリなんだけど。


「ってゆーかお待たせしました><ちゃん、痩せたい痩せたい言ってるけどさ、そんな甘いものばっかり食べちゃっていいわけ?まーた太るよ?」

「(い、言わせておけば…!)別にいいじゃない!一週間頑張って働いた自身へのご褒美だもの、た、偶には…だから、文句ないでしょ?!」

「偶にじゃないから言ってるんだけどさ。確か昨日も隠れて仕事中にチョコレート摘んでたよね。まあ、勿論ばれてるのは知ってると思うけど。…ははっ、それにしても先週よりもまた顔丸くなったんじゃなーい?」


元々端正な造りをしている目の前の顔が愉快だと言わんばかりに歪む。ほんっと憎たらしいったらありゃしない。私に対しては憎まれ口しか叩けないのかっつーの!

あ、でも今だけは職場で見せる上辺だけの笑みじゃなくて本当に(心底?)沖田くん会話を楽しんでる様に見える。まぁ、リラックスしてるの、かな?お互いにキチンと隠せてるかどうかは別として、社内では常に被り続けてるネコという名の被りものは本日珍しくも限りなく薄着と思われる。勿論それはこちらとて同じ。寧ろほぼ素に近かったりするんだなこれが。

いつもいつも彼のその口から出るセリフは意地悪ばっかりなのが難点なんだけど、それでも何だかんだこうやって(一応)慕ってくれている模様。これでもとか言ったら本人は怒るかも知れないが、顔の造りだけは特別良かったりする為、社内外問わずにモテるんだろうな、とは素直に思う。そう、見て呉れだけは至高の作品と言っても過言ではない。
ここだけの話、実は好みの問題で言ったら私のストライク―しかも直球ド真ん中―だからこんなにも困るのだ。その近すぎる距離感に動揺が隠しきれないかもしれない。仕事だけに留まらずこうやって会えたのは本当はとても嬉しい。…のだが、素直でない私が口それを口にする日が来るのは絶対に無いのだろうな。あくまで今の段階では、だけれど。

これで万が一彼の口から小学生みたいに『好きな子ほど苛めたいんだよ〜』的な台詞を言われた暁には絶対驚きでその場に腰抜かすと思う。何となく言い切れてしまう私の気持ち、分かるかな?


「そう言えば会社の方はもう慣れたの?」

「まぁね」

「お待たせしました><さんという名の先輩の教えが良かったからかな?」

「バカ言わないでよ、そんな事ある訳ないじゃない。全く現実逃避ばっかりで本当可哀想だよね。お待たせしました><ちゃん頭大丈夫…?」

「…そうだよね、キミはそんな子だったわ。沖田くんに聞いた私がバカでした」

「あ、認めるんだ。こんなに早く白旗上げるなんて珍しいね、明日雨でも降るんじゃない?」


ころころ、ころころ

喜怒哀楽を惜しげもなく見せてくれるその表情はまさに万華鏡の様だといつも思う。


「…ねぇ、お待たせしました><ちゃんはさ、その、」

「ん?なに?」

「あのね、」

「?沖田くんが言い淀むなんてそれこそ明日雨でも降るんじゃないかしら…」

「う、煩いな!僕だって言いにくいことくらいあるし!」

「そ、そうよね。ごめんなさい」

「……」

「……」

「……」

「沖田くん?」


暫く言うか言うまいか悩んでいた目の前の彼。世話しなく視線をさ迷わせ終いには一人勝手に赤面しだす。え、本当一体なんなのよ。そんなに言いにくい事を私に聞きたい訳…?言いかけて中途半端に会話を途切れさせるの止めてくれないかな、すっごく続き気になるんだけど。


「あのね、お待たせしました><ちゃんって付き合ってる人居るのかなぁって思って。どうやって聞こうか悩んだんだけど、なかなか質問文決まらなかったからそのまま聞いてみた。で?どうなの?」

「どうって…」

「だから彼氏が居るのか、居ないのかってこと。言ってる意味分からない?」

「いや、意味は分かるけど何で沖田くんがそんな事気にするの?」

「気になったから」


…どうしよう。
今までも散々同じ事思ってきたけど、全くもってこの子と会話のキャッチボールが出来ない!しかも何?これではまるで私の理解能力が皆無みたいじゃない。


「ふーん、先輩は後輩の疑問に答えてくれないんだ」

「ち、違っ」

「じゃぁ、教えてくれたっていいじゃん」

「ほんと我儘ね。い、今の私に彼氏なんて居ないわよ」

「………」

「どうせ彼氏の一人も居なくて寂しい奴って思ってるんでしょ。黙ってないで何とか言いなさいよね、…逆に私が虚しいでしょうが」


周りに他のお客さんが居るにも関わらず言いたいことをノンブレスで告げてやる。悪かったわね、この歳で独り身で。
一方相手方の沖田くんはと言えば、下を向き何やらプルプルと小さく震えている。え、何で?冬でもあるまいし、まさか寒いって訳じゃないよね。


「お、沖田くん?」

「じゃぁ今お待たせしました><ちゃんはフリーなんだよね?嘘じゃないんだよね?」

「…えぇ、まあ」


恐る恐る聞いてみた所、いきなり顔を上げたと思った次の瞬間矢継ぎ早にそう問い掛けてきた。しかもその表情ときたら何処と無く嬉しそうで。訳が分からない私は一人首を傾げるしかなかった。


「じゃぁさ、僕と付き合ってみない?絶対後悔させないから!」

「は、え?」

「僕ってば好きな子程苛めたくなるタイプらしいけど、ついこの間左之さんに言われて初めて気付いたんだよね、この気持ち。何か自覚したらお待たせしました><ちゃんにすぐ伝えたくなっちゃって。ね、ダメ?」


またもや可愛らしくこてん、と、小さく首を傾け、更には今まで以上に近い距離。ばくばくする心臓は否でも鼓動を伝えてきて。思わず口をあんぐりと開けて間抜けな顔を曝してしまった。


「お待たせしました><ちゃん聞いてる?」

「え、あ、うん」

「何その返事、まだ理解できてないんだ?」

「あまりに急すぎて理解が追い付かないって言うか…」

「ま、ホントはすぐにでも返事が欲しいところだけど、僕優しいから少しの間なら待ってあげてもいいよ」


今度はいつものにんまりするような笑い方じゃなくて、綺麗にふんわりと笑って見せる。彼のこんな表情は未だかつて見たことはない。本当にどうしたんだろうか、私も彼も。こんなにもキラキラした格好良い沖田くんを私は知らない。だから赤くなった顔なんて見せてやんない。


「…大人をあんまりからかうんじゃないよ」

「んー別にからかった覚えはないんだけど。お待たせしました><ちゃん僕の言葉信じられない?」

「そりゃ、まぁ今までが今までだからね。すぐに信用しろって方が無理じゃないかな?」

「やっぱそうかー」


ほんの少しの哀愁と落胆を滲ませ肩を落とす。私の今の行動が羞恥から来るものだって気付いてないの、かな。だとしたら、このままではいけない。彼に勘違いさせたままじゃ私が嫌だ。だってホントは私、彼のコトー…


「なら僕はお待たせしました><ちゃんが信じてくれるようになるまで、気持ちを伝えるしかないよね」

「!!」

「近い将来絶対に僕の事惚れさせてみせるから、覚悟しててよ」

「ちょっ、沖田くん!」

「また明日会社でね」


あんまり食べすぎちゃダメだよ、今のお待たせしました><ちゃんぐらいが一番好きなんだから。

席を立った彼は後ろ手にひらひらと手を振り、その場を静かに去って行った。さらっと告げられた甘い台詞に微動だに出来ない。これがあの屁理屈男から出てきた言葉なのだろうか。加えてさらりとスマートにさらわれた会計伝票。女の子の憧れるシチュエーションにまさか自分自身が遭遇するとは思わなかった。初めに思っていた『好きな子ほど苛めたいんだよ〜』的な台詞にも心底驚かされたばかりだというのに。言われた当初は吃驚しすぎて可愛らしい反応なんて微塵も出来なかった。現時点で驚愕に身を置き、腰を本当に抜かしているのではないだろうかと疑ってしまうほどには、呆然としていたと思う。先程の姿が良い例だ。

目をパチパチさせながら暫し思考を巡らせる。考えれば考える程に身体は自然と熱くなり、早く人前から居なくなりたかった。明日からどんな顔して会えばいいのだろうか。その堂々廻りも意味をなさない程にはとても普段通りの態度で接してきた後輩を一つど突いた私は何も悪くないと思う。



(乙女のトキメキ返しやがれッ)


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