※468訓直後の設定。
※坂高


一応連中の顔を立てて出向いた高杉は終わるやいなや帰路についていた。

喜喜公から『送ろう』と声をかけられたが高杉なりに丁重にお断りした、なぜなら・・・

「首尾はどうだった?」

この様な連中が行く手を阻むからだ。ビルの隙間に立つ僧服に身を包んだ人影。

「ヅラか」

「ヅラじゃない桂だ・・・で?喜喜公に会えたのか」

「まぁな・・・」

煙管を口から外して紫煙を夜空に撒き散らす。

「今の甘っちょろいお殿様よりは俺ら寄りのお方だったぜ」

懐からフロッピーディスクを出して桂に投げ渡す。それを受け取って桂が何かを投げ返してきた。手に取り高杉は眉根を寄せる。

「これは?」

手に納まっていたものは派手なピンクの下地に『すまいる』と書かれた店の名刺、そこには乱暴に書かれた電話番号が記載されていた。

「まぁ今回は流石に無理をさせたのでな、お守りが代わりだ」

「ふぅん・・・」

そう言って懐に入れる。高杉が歩みを進めると桂はビルの闇に消えていった。高杉はそのまま己の船を止めた川縁を目指す。最初はあまり気にしなかったが歩みを進める毎に見覚えのある船が寄り添っている。もう少しで船に着くという所で寄り添っていた船が飛び立ち瞬く間に夜空の中へ消えていった。轟音が耳の残った状態で船に入ると貯蓄庫から木島また子が出向いてくる。

「晋助様お疲れ様です」

「ああ、客が来ていたのか?」

「商船ッス、一通りの品は買い揃えたッスよ。いつでも出発出来ます」

「そうか・・・」

そう言って貯蓄庫に顔だけ入れて武器や食料の箱と量を見渡す。

「晋助様?」

「ああ、充分だ。俺は料亭で寝る」

そう言って踵を返して今歩いてきた道を戻る。



船から出て少しばかり歩いた所で知っている男の気配が感じられた。

「やぁ・・・」

夜にも関わらずサングラスをかけた男がヘラヘラとした表情を崩さずに近づいてきて肩を組みそのまま路地裏に連れ込まれた。他の連中がいたら一触即発ものの行為だ。高杉は振り払う事をせず、代わりに口を開ける。

「離せ、坂本」

「いいや、離さん。おまん、ここんトコ何しちゅう?」

「何って、相も変わらず・・・」

「どこぞの毛並みの良いボンボンにしっぽば振っとったっちゅうのは本当がか?」

笑みが消えた顔が低い声を出して問い詰める。高杉は溜息をついて無理やり坂本との間に隙間を作りその腕から逃れた。

「お前には関係無い、用がそれだけなら俺は帰る」

黒い羽織を翻して踵を返そうとしたその刹那、がしっと襟首を捉えられた。

「あ?」

「話は終わっとらんぞ高杉・・・」

暗くても坂本の目が怒りに燃えていたのが感じ取れた。高杉はヤレヤレと先程桂から貰った手札を使う事にした。

「坂本」

目の前に見せると坂本の怒りが落ち着いてくる。

「テメーが言った事をそのまま返してやるぜ、ここに来る前何してたんだ。何だこの番号?」

坂本はそわそわと落ち着きなく頬をかく。

「いや・・・おりょうちゃんトコのすまいるに・・・それは電話番号で・・・」

一瞬、暗闇の中で刃が閃めき坂本の頭頂の毛が少し削れた。

「じゃあ、おあいこだな??誰かがどこで女と乳繰りあおうと俺はとやかく言わねぇ。だから俺がどこで何をしようとガタガタ言うんじゃねーよ」

「っ・・・高杉!」

坂本が手を差し伸べてくる。

「寄るな、女臭い」

「たかすぎ・・・」

「っつ!!首筋に息をかけるな!!」

振り返ろうとしたががっちりと後ろから抱きかかえられていて身動きが取れない。

グリグリと腰に硬い物が当たり高杉は身を固くした。

坂本の荒い息がかかる。

「たかすぎ・・・儂は一切コレをおまん以外に使っちょらん」

「使ってないんじゃなくて、使えなかっただけだろうが・・・」

「高杉!」

「・・・っ!!わかった!わかったから!!」

叫んだ瞬間に坂本は壁にある取ってを引いて扉を開き高杉は坂本に放り入れられた。

ご都合良く二人分の布団が敷かれた部屋だ。

高杉は溜息をついて片方の足を上げ坂本を挑発する。

「で?今日は何をするんだ?」

坂本はニヤリと笑ってコートを脱ぎ、上げられた高杉の足に唇を這わせた。


<終>





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