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 マルコが元に戻ったのは、その日の夕食が終わって、早々に部屋で眠ってしまった後のことだ。
 ちなみに夕食はマルコの分だけ俺が作った。二回続けてオムライスだというのに、マルコは随分上機嫌だった。

「…………ん、ナマエ……?」

「おはよう、マルコ。苦しいだろうから、とりあえず着替えたほうがいいんじゃないか」

 もぞりと身じろいで目を覚ましたマルコの体へタオルケットをかけつつ、そんな風に言葉を落とす。
 ベッドの上でむくむく大きくなる様は、まるで植物の成長ビデオを早送りで見ているかのようだった。
 そしてただの既製品でしかない子供服がそれに耐えられるはずもなく、今のマルコの姿はあられもないことこの上ない。
 まだ寝ぼけているのか不思議そうな顔をしたマルコは、タオルケットをちらりとめくって自分の恰好を確認して、昼食の時に小さなマルコがやったような怪訝そうな顔をした。
 勝手に開けるぞ、と断ってからマルコの着替えを適当に棚からひっぱりだして、それを寝ころんだままのマルコの側へ置く。
 ありがとよい、と礼を言いつつ起き上がったマルコが破けた服を脱いで着替えだしたので、俺はとりあえずマルコからは目を逸らして置くことにした。
 不自然にならないよう、寝る直前までマルコが引っ張り出していたおもちゃ類を衣装ケースへしまいながら、昼間にあったことを覚えているかとマルコへ尋ねる。
 それへの返事が随分と曖昧だったので、覚えていないらしいと判断した俺は、大まかにマルコがどういった状態だったかを話して聞かせることにした。

「……すまねぇ、ナマエ、全然覚えてねぇよい」

「そうか」

 どことなく悔しそうにマルコが呟いたのは、着替えが終わって、俺の話があらかた終了してからのことだった。
 覚えていないなら荒唐無稽な話だろうに、それでも俺の言葉をあっさりと受け入れたマルコは、やはりグランドラインに慣れた海賊だ。
 明日、白ひげに詳しく話を聞いてみると言い放って、ベッドに座ったままのマルコが破れた服を一つにまとめる。
 こちらを向いているその体は大きくて、この部屋に入るまでのマルコの姿とは当然ながらまるで違っていた。

「迷惑かけちまったねい」

「いや、俺は楽しかったから気にしなくていい」

 申し訳なさそうに言われて、俺はそう答えた。
 言葉に偽りはなく、小さなマルコと一緒にいた時間は楽しかった。
まるで、元の世界でマルコと過ごしたあの一週間の延長のようだったのだ。
 俺の言葉に、そうかい? とマルコが首を傾げる。

「ナマエが楽しかったんなら、おれはそれでいいよい」

「そうか」

「でも、サッチの野郎は後で殴るよい。わけのわからねぇもんをナマエに渡しやがって。ナマエにそれが効いて、しかも副作用のあるもんだったらどう責任とるつもりだったんだよい」

 言葉の後半は低く唸って、マルコがじろりと睨んだのは確か、サッチの部屋がある方角だ。
 今頃、サッチは部屋でくしゃみでもしているかもしれない。
 白ひげは副作用などないものだといっていたが、けれども確かに、その可能性だってなかったわけじゃない。

「悪かったな、マルコ。次からは、もう少し気をつけて受け取ることにするから」

「……ナマエは悪くねえよい」

 だからこそ俺はそう発言したのだが、どうしてかサッチの部屋の方角を睨むマルコの眼光は鋭くなっただけだった。







「サッチ、待てよい!!」

「待てるかー!!」

 翌日、見張り台で見張りをしていた俺は、モビーディック号の上を縦横無尽に逃げ回るサッチと、それを追いかけるマルコを目撃した。
 まるで捕まれば死ぬと言わんばかりの、ずいぶんと真に迫った鬼ごっこだった。




end

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