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 とりあえずその日は俺の部屋で二人で寝て、翌日の昼ごろに白鯨の船へと移動する。
 俺の予想をよそに、白ひげ海賊団は俺を歓迎のムードだった。

「お前がナマエかァ!」

「よく来たな、ナマエ!」

「おー、ナマエってアンタだったのか!」

 わいわいがやがや、初めて会う船員にすら俺の名前がなぜか知れ渡っている。

「……俺ってそんなに有名だったか?」

 名も無い一般人を自負してきた俺がぽつりと呟きつつ傍らを伺うと、俺の左腕を掴んでいるマルコが、ふいとその目を逸らした。
 原因は確実にこいつだな。

「……マルコ、」

「ほら、さっさとオヤジに挨拶してこいよ!」

 問い詰めようとしたところで笑顔の船員達に背中を押され、慌てて歩いた俺が辿り着いたのは白ひげ海賊団の船長室だった。
 俺の左腕を手放したマルコは扉の前で他の船員に捕まっていて、そこがパタンと閉ざされれば、室内は俺と白ひげの二人きりだ。

「お前がマルコの言ってたナマエかァ」

 俺を見下ろす白ひげは、予想よりずいぶんと大きい。
 やっぱりシャンクスが買っていったあの瓶は一口か二口分で終了だったんじゃないだろうか。

「初めまして」

 とりあえず頭を下げると、グララララ、と白ひげが大きく笑う。

「家族にそんなかしこまってどうすんだ! この船に乗んならお前はおれの息子だ、もっと気を楽にしな」

 懐の深いことを言って、少しばかり白ひげが前かがみになる。
 近づいたその顔を見上げると、なぁナマエ、と白ひげが俺を呼んだ。

「マルコが『異世界』ってのに行った時にゃあ世話になったそうじゃねェか」

 マルコは、そんなことまでこの白ひげに話していたのか。
 むしろ、それを信じてくれている大男に俺は驚いた。
 普通なら、何の空想だと思うところだろうに。
 反応が分かっていたから、俺は誰にも言えなかったのだ。

「『こっち』に帰ってきてからも、あいつァよくお前を探してたぜ。一緒に持ってきたっつうコップを大事にして、何度も何度も、忘れねェようにおれへお前のことを話しながらな」

 俺の知らないマルコの話をして、白ひげがぐびりと大きな杯を傾ける。
 どんな気持ちで、マルコはそうしていたのだろうか。
 青いコップを持ち帰っていなかったら、自分の空想だと片付けることだって出来たかもしれないのに。
 想像することしか出来ないマルコの姿に、何だか切なくなって、小さく拳を握る。
 そんな話を聞いたら、もう、自分から船を降りたいなんて言えやしないじゃないか。

「これからもマルコの奴をよろしく頼むぜ、息子よ」

 優しい目をした海賊は、俺を諭すようにそう言って、にんまりと笑った。





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