ゴーストシップより (1/4)
※マルコ短編の『ゴーストシップにて』続編
※主人公の不思議なトリップ特典
※出張る名無しオリキャラ注意
「よろしくなァ、息子よ」
なんということだろう。
どうやら俺は、『海賊』になってしまったらしい。
「…………え?」
グララララと笑う大きな相手を前に間抜けな声を出した俺を、相手は咎めなかった。
ただ『あとはマルコに聞け』と言いながら退室を促されて、訳も分からないままに部屋を出る。
外には俺をここまで連れてきた『不死鳥マルコ』が立っていて、俺の視線を受け止めた相手が、軽く眉を動かした。
「何だよい」
白々しく思える声音に問いかけられて、あの、と声を掛ける。
「……俺のこと、息子って言ってたんだけど」
言葉と共に指で示したのは、今閉じたばかりの扉の向こう側だった。
これから真夜中へと向かっていくこの時間、寝酒なのかいつものことなのか酒を飲んで機嫌よさそうにしていた大きな体の海賊は、俺の記憶が確かなら、『白ひげ海賊団』の船長『白ひげ』だ。
多くの仲間達を『息子』と呼び家族扱いしていたということは漫画で読んで知っているが、俺が『息子』と呼ばれる意味が分からない。
いつの間に俺は海賊になったというのか。
困惑ばかりを顔に浮かべているだろう俺を前に、マルコはその唇ににやりと笑みを浮かべた。
「この船にはいくつか掟があるが、そのうちの一つに、『見つけた宝は見つけたやつのもの』ってのがあるんだよい」
「へえ」
「つまり、お前」
笑いながらの言葉に相槌を打つと、マルコの指が俺の方を指し示す。
それを見て後ろを見やるものの、俺の後ろには閉じた扉しかない。
何より今の発言からして、マルコが示しているのが扉の向こうでないことは簡単にわかった。
「……え?」
無遠慮に指をさされて目を瞬かせた俺は、言葉の意味を吟味してから、もう一度間抜けに声を漏らす。
思わず自分のことを指さすと、マルコは満足そうに頷いてその手を降ろした。
「それで、だ。とりあえず甲板に行くから、ついてこい」
それからそんな風に言葉を寄越されて、マルコが先に歩き出す。
俺がついてくると疑いもしない様子だが、まさかこんなところに置き去りにされてはたまらず、俺はすぐにマルコの後を追いかけた。
時々すれ違うのは、誰がどう見ても『海賊』だ。まるで旧知の友を見るように何気ない視線を寄越されるが、その強面に思わず身を竦めてしまう。
逃れるように小走りになってほとんど隣に並ぶと、俺をちらりと見たマルコがその口元の笑みを深めた。
「にしても、一日寝倒すとは思わなかったよい。昨日は一睡もしてなかったのか」
「いや、だから、俺は昼間は起きられないんだ」
寄越された言葉に応えながら、せっせと足を動かす。
目が覚めてすぐの会話と似通ったそれに、今度はマルコが反応した。
「完全に夜型の生活なのかよい」
「そうじゃなくて……なんて言うか」
問いかけに眉を寄せて、うまい説明を見つけようと努力する。
『この世界』に迷い込む形になってから、俺の生活は随分と変わってしまった。
太陽が空にある間は起きられないし、腹も減らない。食べたり飲んだりすることは出来るがあっても無くても変わらないからと、最近はたまに口さみしくなった時に食べ物を手に入れようとするくらいだった。
そして誰も、俺がそこにいることを不審に思わない。
「普通は夜になると眠くなるだろ。あれが、俺は太陽が昇ると眠くなるってだけ」
「だからって話してる途中で寝るかよい」
「睡眠は人間の三大欲求のうちの一つだから仕方ない」
呆れた様な声音にそう言い返したところで、俺はマルコと共に開けた場所に出た。
顔に触れた潮風は慣れた香りをまとっていて、見上げた空は月と星で照らされている。
いい天気だ、今日は晴れだったんだろうかとそれを見上げた俺の肩を軽く叩いて、マルコが俺の注意を引いた。
「あっちに用事があんだよい」
「あっち?」
言われて、誘導された方へと視線を向ける。
そこにあったのは、大きなモビーディック号と並ぶようにして停泊している、一隻の船だった。
どことなくおどろおどろしい雰囲気を醸し出す帆船が、あちこちにかがり火をたかれている。
とても見覚えのある船に目を瞬かせた俺をよそに、マルコが俺の腕を掴んでそちらへと引っ張った。
別に振り払って逃げるようなこともないので、同じ方向へと足を動かす。
二隻の間には何枚かの板が渡されていて、見やった向こう側の甲板にも何人かの人間がいた。どうやら『幽霊船』は大人気のようだ。
あれこれと確かめている様子のそれを見やって首を傾げると、マルコが俺の横で軽く首を掻いた。
「宝はあらかた持ち出したから解放してやろうとしたんだが、縄を解いてもついてくる」
「え」
「船倉にいた『奴』も顔を出さねえしよい」
言葉をそんな風に寄越されて、俺はぱちぱちと瞬きをする。
戸惑い交じりの視線を側へ向けると、俺を見下ろして笑ったマルコが、何か知ってるか、と口にした。
しかし、そんな話はまるで知らないので、ひとまず首を横に振る。
『いつも』なら、俺に気付くことなくあの船に興味を持った海賊達のやることを後ろから眺めて回った後、俺はまたあの船に乗って海賊達を見送っていた。
『昼間』ではなく『夜』に別れたこともあるし、俺がどうしようと気にせず好きに海をさすらうあの船が、海賊船を追いかけたことなんて一度だって見たことがない。
それに、あの変な奴はいつだって海賊達を脅かすように顔を出すのだ。出てこないなんて、そんな馬鹿な話があるだろうか。
困惑を顔に描いた俺を見て、知らねえのか、と頷いたマルコの足が板を踏む。
「そんじゃあまあ、二回目の探検と行くか」
腕を掴んだままで寄越されたそれに、俺は自分が強制的に連行されるらしいということを把握した。
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