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君と一緒が一番 (1/3)
※『賢い子供』『日常茶飯の風景』の続き
※主人公は転生幼児(知識有)で孤児
※ほぼクザンさんでクザンさんが少々不憫



 これは一体、どういうことだろうか。

「……くじゃんたいしょー」

 事の弁明を求めて名前を呼ぶと、はいはい、と自分より少し上から声がする。
 それを受けて身を捩り、俺は俺を小脇に抱えて歩いている大男を見上げた。

「ここ、どこ?」

 見上げて尋ねた俺に対して、大男は島の名前を口にする。
 まるで聞いたことのない島だ。
 気候は今のところ暑くも寒くもない穏やかなもので、俺を小脇に抱えたままで海軍大将が歩いている街中も良い穏やかさを持っている。
 そのうちの数人が不審そうに俺達の方を見ているので、はたから見たら誘拐犯にでも見えているんじゃないだろうか。何せ誰かさんは、どうしてか海軍のコートも着ていない。

「なんで、ここ?」

 どうして自分がここにいるのか分からず、俺はそんな問いを口にした。
 俺は先ほど目が覚める前までは、間違いなくマリンフォードにいたはずだ。
 センゴクさんとみんなが呼ぶ海軍元帥の執務室で、大人しく本を眺めているうちにこっくりこっくりと船を漕いでしまったのは覚えている。
 ここ最近は寝不足だったから、仕方ないと判断して眠る姿勢に入ったのも覚えている。
 いつもならそうやって眠っていると気付けば『サカズキ』の執務室に連れて行かれているのだが、今日はそうじゃないということも分かっていた。
 だって俺の保護者である『サカズキ』は、もう二週間も外出している。
 子供を連れて行けない海軍の仕事というのは一体どんな恐ろしいことなのか分からないが、連れて行かんと言われたならば俺はそれに従うしかない。
 なので大人しく、『サカズキ』が帰ってくるのをマリンフォードで待っていた。
 俺の身柄は海軍元帥に預けられていて、寝るのにも食べるのにも困っていなかった。
 『サカズキ』からは電話も来ないし、もうすぐ帰ってくるよという話はもう三回は聞いた。
 別に寂しくなんて無いけど、分かった、と毎回頷いていた記憶も確かにある。
 しかし、やはりどう考えても、俺の知っている体験や記憶と、自分がこの島にいる理由が結びつかない。

「センゴクさんが、どうせ視察に行くんなら連れてけって言うからさァ」

 首を傾げた俺に答えてか、そんな風に言った大将青雉が俺をひょいと抱き直した。
 小脇に抱えるような姿勢から、子供が大人に抱かれる姿勢に動かされて、とりあえず目の前のスーツを捕まえる。

「しぇんごくさんが」

 寄越された言葉に、俺は少しだけ眉を寄せた。

「……おれ、めーわくだった?」

 大人しくしていたつもりだったのだが、サボり大将に押し付けるくらい邪魔だったんだろうか。
 そうだとしたら戻ったら謝らねば、と肩を落とした俺の傍で、なんでそうなるの、と大将青雉が笑う。

「お前さんはちゃんと頑張ってるでしょうや。みィんなちゃんと分かってるよ」

「ほんとう?」

「そーそー。ボルサリーノも褒めてたよ、あー……ほら……なんだっけ」

 寄越された言葉に目を輝かせた俺をよそに、頷いて俺を慰めようとした大将青雉が、言葉の途中で軽く首を傾げる。
 そのあとに『忘れた』と続けられて、俺はがくりと体を傾がせた。
 どうしてこうもこの海軍大将は適当なんだろうか。ひょっとしたら口から出まかせを言ったんじゃないかと思うほどだ。

「……あららら、ひょっとしておれ疑われてる?」

 じとりと見つめた俺の顔を見てそれに気付いたのか、笑った大将青雉が動かした片手で俺の頬を軽く引っ張る。
 むにりと唇を歪められて、やめて、と漏らした声が不明瞭な音になった。
 それでもちゃんと俺の言葉は届いたのか、頬を手放した大将青雉が、ゆったりとした歩みのままで街の中を進んでいく。

「サカズキがいなくて寂しいんでしょうや。おれが嫌だってんなら、ガープさんが構うって言ってたけど」

 あの人の『構う』は過激だから連れ出してやってんの、と続いた言葉に、俺は目を瞬かせた。
 それから、むっと眉を寄せて目の前の顔を睨み付ける。

「……べつに、さびしくない」

 見た目はともかく、一応俺だって心は大人なのだ。
 海軍元帥の家でだって、ちゃんと寝起きしていたし、食欲だってある。
 日課になった散歩ではよく『サカズキ』の家の前を通るようになったけど、それだって誰もいなくなった家が少し心配だったからで、『サカズキ』の姿があることを期待したことなんてない。
 確かに『サカズキ』が近くにいないからか、夜中にふと目が覚めるようになってしまったけど、それだってトイレに行って戻ったらまた眠っている。その時にちょっと玄関の方に行ってしまうのは、ただの気分だ。
 別に、決して、迎えが来ていないか確かめているわけじゃない。
 胸のうちでちゃんと弁解している俺をよそに、へえ、と声を漏らした大将青雉は、俺の顔を見てからその唇に笑みを乗せた。
 動いたその手が俺の顔にもう一度触れて、ぐりぐりと俺の眉間を刺激する。

「サカズキみてえな顔」

「う」

「まァとりあえず、今日はこの島でも楽しみなよ。向こうに大道芸も来てるらしいから」

 言葉と共に、大将青雉は俺の顔から手を離した。
 どうやらその『大道芸』のいるほうを目指して歩いているらしい大将青雉に抱き上げられたままで、きょろりと周囲を見回す。
 本当に穏やかで、のどかそうな島だ。
 店に並んでいる食べ物もおいしそうだし、忙しくしている人間が羽を伸ばすにはちょうどいい場所かもしれない。

「…………」

 少し考えてから、ちらりと下を見下ろした。
 随分と遠い位置に石畳があって、飛び降りるのは無理そうだ。

「ねえ、俺あるくから、おろして」

「いいじゃねェの、このままで」

 面倒くさいし、なんて言い出す面倒くさがりに俺はとても抵抗したが、大将青雉が俺を降ろしてくれたのは、大道芸がいるという広場にたどり着いてからだった。







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