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目を惹く(1/2) ※エース寄り視点
このネタのロー夢勘違い主シリーズの主人公が白ひげ入りだったらIF
※以前リクエストいただいた『君をおしえて』(サッチ夢)とは別ver.でつながりはありません
※名無しオリキャラ注意



 エースがその男に気付いたのは、名実ともに『白ひげ』の息子になった後のことだ。
 数日かけての宴もようやく終わって、いつも通りになったのだろう船の上で、彼は目立たず、それゆえにどうしてか随分と目立っていた。
 見張り台の上からそれを見下ろし、軽く首を傾げたエースに、どうした、と声が掛かる。
 それを受けてエースが視線を向けると、今日の見張りをともに行うことになっていた相方が、いつものコックコートに身を包んだままの姿で少しばかり不思議そうな顔をした。

「いや、あいつ」

「あいつ?」

 行儀も悪く下を指さしたエースの言葉に、それを追いかけた『家族』の目が同じく甲板へ向けられる。
 見張り台の上から、甲板のあちこちに何人もいるクルー達を眺めて、エースが言いたかったのが誰なのかに気付いたらしい相手の口からは、ああ、と納得したような声が漏れた。

「ナマエか」

「ナマエ?」

 聞いた覚えのない名前だと、エースはその名前を繰り返した。
 『白ひげ海賊団』は、エースの知るどの海賊団よりも大所帯だ。
 エースもスペード海賊団のクルーもまだその『家族』になって日が浅く、確かにまだ名前を覚えきれてはいない。
 しかし聞いたこともない響きだとすると、ひょっとしたら自己紹介すらもまだかもしれない。
 そんな考えに至って傍らの相手と同じく下を見たエースの横で、『家族』が言葉を零した。

「あいつァ、お前らが来る少し前に船に乗ったんだよ。オヤジが見つけて拾ってきた」

 寄越された言葉に、へえ、とエースが相槌を打つ。
 その目はひたりと甲板の上にいる一人へと向けられていた。
 佇んで、作業らしい工程を行っているのは、ふと見た限りでは普通の男だ。
 筋骨隆々でもなければ目を引く美丈夫でもなく、大きすぎるわけでもなければ小さすぎるわけでもない。
 色々な人間が乗るこの船の上では、通常なら埋もれてどこにいるかも分からなくなるような男だ。
 しかし恐らく、ナマエと言うらしい彼がどこに立っていても自分にはわかるだろうと、エースは思った。
 エースの視線に気付いたように、男が顔をあげる。
 離れた甲板の上から見張り台にいるエースを見つめたその眼差しに、ざわりとエースの中の何かが騒いだ。

「無口な方だが、良い奴だぜ」

 傍らで、コックコートの海賊がそんな言葉を口にする。
 話しかけてみればいいと続いた言葉に、そうだな、とエースは頷いた。







「よォ、ナマエ」

 男の名前を憶えてから、エースがその名を口にしない日は無くなった。
 見かけるたびに話しかけて、相手の反応を引き出そうとする。

「……何か用が?」

 そのたびにナマエはそんな風に言葉を寄越してきて、どことなく怪訝そうな眼差しがエースの方へと注がれた。
 注意を引けたことに気をよくして、見かけたから声かけただけだろ、と笑って離れるのがエースの日課だった。
 たまにいくらか会話が続くこともあるが、それも随分とまれだ。
 エースの見た限り、ナマエはどうも、群れることを好まない人間であるようだった。
 エース達よりもいくらか先に入っただけの新入りだから遠慮があるのかとも思ったが、気さくな『家族』達に遠慮する必要がないことは、エースにだってわかる。
 それでも大概の場合ナマエは一人で、ひっそりとしていた。
 エースが傍へ寄ってみても、その雰囲気は変わらない。

「もしかして迷惑だったか?」

 ちらりとこちらを見やる相手へエースが問うと、ナマエがゆるりと瞬きをする。
 それからその目がエースから逸らされて、いいや、と少し小さな声がその口から漏れた。
 それでも、寄越された言葉にエースが喜ぶより早く、ふい、とその顔がエースから逸らされて、歩き出したナマエがエースから離れていく。
 まるで逃げていくようなそれに、エースは佇んだままそれを見送った。
 片手で軽く頭を掻いて、あー、と声を漏らす。

「……どうすりゃいいんだ?」

「何してんだよい、エース」

 どうすれば親しくなれるのか、と首を傾げたエースの方へ、そんな風に声が掛かった。
 声に気付いて顔を向けた先で、エースの方へと近寄ってきた『白ひげ海賊団』の一番隊隊長が、持っていたものをエースへと差し出した。
 大きな荷物を差し出され、思わず手を出したエースの腕へとそれが落下する。

「うお」

「後で向こうの倉庫までもってけよい。で、何してんだい」

 ぱんぱん、と少し汚れた手を叩いた男が通路の奥を指さして、それからエースを見やって問いかける。
 急に寄越された荷物を抱え直し、顎をその上へと乗せてから、いや別に、とエースは答えた。
 何かをしていたのかと問われれば、今のエースはただ佇んでいただけのことだ。
 しかし、相手はそう思わなかったのか、エースが先ほど見ていた先を追いかけるようにその目が通路の向こうを見やり、そして一番奥を曲がっていく背中を見てから、ああ、と声を漏らす。

「ナマエかい」

 背中だけで分かったらしい一番隊長は、どこか面白がるようにその視線をエースへ戻した。

「そういや、最近くっついて回ってるって話を聞いたねい」

「ん? なにが?」

「お前が、ナマエに」

 尋ねたエースへそう言葉を寄越されて、そうだったろうか、とエースは少し不思議そうな顔をする。
 確かに毎日話しかけてはいるが、付きまとった覚えはなかった。そんなことをすればきっと、群れることを厭うナマエがエースにうんざりしてしまうからだ。

「ナマエのどこがそんなに気に入ったんだよい」

「ん? いや、どこがってか」

 問われて答えつつ、エースはゆるりと首を傾げる。
 ナマエの顔を思い浮かべてざわりと胸の内が騒ぐのは、目の前に絶望的な何かが現れたときの高揚に似ている。
 しかし、ナマエのどこがエースにそう感じさせるのか、エースには分からなかった。
 『白ひげ』に見込まれて拾われ、そして今も船に乗っているのだから、きっとナマエは強いのだろう。
 それでも、負けるとは思っていない。
 ナマエより強さを感じさせるクルーも、モビーディック号には多かった。
 しかしどうしてか、エースはナマエに近付きたいのだ。
「……仲良くしてェって、言うか?」

 自分の気持ちが分からず疑問符を這わせたエースの言葉に、あいつとかよい、と一番隊長が笑う。
 そしてそれから、動いた手がぽんぽんとエースの肩を叩いた。

「仕方ねェな、おれがひと肌脱いでやるよい」

 任せとけ、と寄越された言葉に、エースはさらに不思議そうな顔をした。







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