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お昼寝日和
※主人公はCPでルッチのちょっと先輩
※新人ルッチ


 俺の部屋は随分と日当たりがいい。
 窓の向きが日差しを取り込みやすい方向に向いているからだが、昼寝に最適なうららかさだ。
 よって、休みを得たときには、用事でもない限りは部屋に引っ込んでいるというのが俺の常だった。
 引きこもりかとあきれられたこともあるが、大体ほとんど毎日が訓練か任務で満たされているのだから、休みの日は休息をとるに決まっている。
 むしろ俺としては、休みの日に外へ遊びに行くなんて言う若さを保った友人たちの方がよくわからない。きっと同じCPでも、適性が違うんだろう。
 だから今日もいつも通り、休暇をとった俺は自室で休みを満喫しているところだった。

「お前も、ここ好きだよなァ」

 今までとの唯一の違いと言えば、最近よく部屋にやってくるようになった一人の存在だ。
 俺の言葉に、じろりとその目がこちらを向く。
 酷薄なまなざしが俺へ注がれ、何の話だ、とその唇が言葉をつづった。
 ロブ・ルッチなんて名前の誰かさんに微笑みかけて、俺は手元の読み飽きた雑誌を閉じた。

「だから、ここ、好きだろ?」

 言葉を放って示したのは、すなわち俺の自室のことだ。
 本日も日差しの柔らかな昼下がり、窓際に近いベッドの上は来訪者に占領されている。
 人様のベッドの上に転がって、こちらを時々ちらちらと気にする期待の新人の頭には、かわいらしい獣耳が生えていた。
 少々ずらしたスーツの裾からは、するりと長い尻尾も伸びている。
 可愛らしい猫ちゃんのようなそれらが示すのは、ロブ・ルッチが悪魔の実の能力者であるということだ。
 俺達CPのうち、悪魔の実を与えられるのは上からの期待を受けた実力派からと相場が決まっている。
 そして、闇の正義の名のもとにその力を蓄えたルッチは間違いなく今一番期待されているCPで、この間、ついに悪魔の実を食べたらしい。
 もともとそろそろルッチには悪魔の実が渡されるという話があったから、ひょっとしたら自然系能力者となるかもしれない、なんて噂話までまことしやかに流れていた。
 実際は動物系だったわけだが、身体能力がけた違いに増大するそれはまた、CP向きの能力だ。
 だがしかし、動物の力を体に宿すという分、いくらかの不都合は存在する。

「わざわざここまで遊びに来ちゃうくらいだもんなァ」

 ロブ・ルッチがここへやってくるようになったのは、一度俺がここへ彼を招き入れてからである。
 ふと通りかかった通路でうつらうつらとしていたから、どうやら陽気にあてられて眠いらしいと気付いて一番近かった俺の部屋へ誘ったのだ。
 夜まで人のベッドで寝て、起きてから慇懃に礼だけ言って帰って行ったルッチは、あれからというもの休みだったり休憩時間だったりするたびに、俺の部屋へとやってくるようになった。
 言葉遣いも、いつの間にやら『先輩』に対する敬意を込めたものから気安いものに変わってしまっている。
 そして、俺の部屋のベッドが目当てであるルッチは、そこに部屋の主がいようがいまいがお構いなしらしく、留守にしていた時に、一度扉をこじ開けられてしまった。
 あれからは、とりあえず合鍵を渡してある。まあ、盗まれて困るようなものもないのでいいだろう。

「……別に、そんなことはない」

 人のベッドになついたまま、半獣化した俺より年下のCPが、そんな風に言葉を紡ぐ。
 ふうん? と声を漏らしてから、俺は座っていた椅子から立ち上がった。
 すたすたと近付いてみると、俺の接近を見たルッチがむくりとベッドから体を起こす。
 それでも座るつもりはないのか、獣らしく四足をついてこちらをうかがう相手に笑って、俺はベッドの端に腰を下ろした。
 一番気持ちのいいあたたかさが注ぐところを奪い取った俺に、ロブ・ルッチがその目を眇める。
 何とも不愉快そうなそれを、しかし体のあちこちが獣と混じった姿が台無しにしていた。
 実際はレオパルドだが、猫耳に尻尾はただ可愛いだけである。
 さすがのロブ・ルッチでも能力の制御にはまだ慣れないのか、たまにそうやって無防備に能力の発露をのぞかせているからたちが悪い。
 ひょいとそちらへ手を伸ばすと、警戒する猫のようにルッチの目が俺の掌を睨み付けた。
 いくら俺より年下とはいえ、間違いなく俺よりロブ・ルッチの方が強い。
 だから本当に嫌なら俺の手くらい簡単に弾き飛ばせるはずだが、そのまま近づけた俺の手は簡単にルッチの頭に触れた。
 癖のある髪を軽く撫でつけるように撫でてから、指でこしょりと頭から生えた耳の付け根あたりをくすぐる。

「さっきはすごく喉鳴らしてたけど、本当に?」

 途切れた会話を復活させるように言葉を紡ぐと、ぱち、とルッチがわずかに目を丸くした。
 幼さののぞいたそれはしかしすぐさま顔をしかめられて霧散して、動いたルッチの頭がどすりとベッドの上へと落ちる。ついでに体を支えていた手や足が伸ばされて、その体は再び俺のベッドの上を占領した。

「そんなことはしていない」

 顔をシーツにうずめるようにしながら、ルッチが声を漏らす。
 やってたくせにやってないなんて言う子供っぽさに目を瞬かせてから、小さく笑った。

「なんだ、俺の聞き間違いだって?」

「そうに決まっている」

「空耳にするつもりか。うーん、どうかなァ」

 おちょくるように言葉を漏らしつつ、逃げた頭を追いかけて手を降ろす。
 そっと頭に触れて、それからするりと滑らせた手で軽く首筋のあたりを撫でると、ぴくりとルッチの尻尾が動いた。
 ぺたりとその体やシーツになつくようにしていた尾がぴんと伸びたのを見やりつつ、そのまま後輩殿の首から顎の下あたりをゆるゆると撫でる。
 しばらくそうしていると、ぐるる、と耳慣れた低い音がルッチの方から聞こえた。
 びく、と伸びていた尻尾が揺れ、そしてすぐに音はやむが、気にせず撫でているとまた数分もしないうちに音が漏れてくる。

「……はははっ」

 思わず笑い声を零してしまうと、身じろいだルッチが少しだけ視線をこちらへ向ける。
 じとりと俺を睨み付け、その手が俺の手を掴んで、ぎりりと力を込めた。

「あいたたた、おいおい、先輩の腕をつぶす気か?」

「うるさいぞ、ナマエ」

 低く唸り、俺の腕をつかんではいるものの、ルッチはそれ以上は何もしない。
 俺とルッチを比べるなら、ルッチの方が強いのだ。
 これは嫉妬するまでもない事実で、だからこそルッチが横に転がったままでいるということは、ルッチからの許容に他ならない。
 本物の猫みたいなやつだなと相手へ笑みを落として、俺は強く掴まれたままの腕を動かして、またもルッチを撫でた。
 可愛がってるうちに、ルッチの指からはだんだんと力が抜けていって、またルッチが喉を鳴らしては途切れさせる。
 数回それを繰り返して、無駄な抵抗を諦めたらしいルッチが俺の横でぐるぐるとのどを鳴らしながら眠り込んだのは、それから一時間もしないうちのことだった。
 穏やかな日差しに、柔らかいベッド。そこそこに気持ちよく吹き込む風。
 やはり、俺の部屋は最強である。


end


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