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恋人の戯れ
※『チューインガム』のデリンジャーとその恋人のイチャイチャ
※有知識転生トリップ系主人公は悪者
※ドンキホーテ・ドフラミンゴ、およびデリンジャーに対する捏造マシマシ
※ご都合主義のお薬がある
※ネタ/小話からの再掲載



 いつかはね、弟分が出来るんだって思ってたの。
 久しぶりに楽しんだベッドの上で、機嫌の良さそうな顔で転がりながらそう言い放ったデリンジャーに、俺は同じように転がりながら視線を向けた。
 俺の腕や肩に噛みついていた歯を晒して、シーツへ頬を預けたデリンジャーの目がこちらを見る。

「だってあたし、一番年下じゃない?」

 今でも少し幼さの見える顔で、そんな風に言葉を紡がれて、まあそうだな、と頷いた。
 ドンキホーテファミリーの幹部のうちで、デリンジャーは一番年下だ。
 とは言え、入った歴が短いということは無い。
 なぜなら俺の恋人は、赤ん坊のころからファミリーに在籍している。
 生まれてすぐに捨てられたと思わしき幼い命を拾ったのがドフィの気まぐれだったとしても、デリンジャーを俺に会わせてくれた俺達の神様には感謝してもしきれないくらいだ。

「ローの奴が入った時だって、あいつが年上だったから結局あたしが弟扱いだったもの」

「あァ……そういや、構われてたか」

 『妹がいたんだ』と言っていたチビ助のことを思い出して、俺は軽く顎を撫でた。
 随分と遠い、過去の話だ。
 確かに兄だった人間らしく、あの子供はデリンジャーを『赤ん坊』扱いしていた。
 目につくもの全てを破壊するんだと言ったくせに、幼い命を可愛がる手つきは優しかったし、それにキャッキャと喜ぶデリンジャーは可愛かった。今ももちろん可愛いが。
 懐かしいなァとわずかに目を細めたところで、がぶりと腕に痛みを感じ、天井へそれていた視線を戻す。
 注意を引くために俺の腕へ噛みついたらしいデリンジャーが、俺の腕についた跡に舌を這わせたところだった。

「ナマエ、いまベッドの上で、あたし以外の人間のことを考えてたでしょ」

「そっちは他の男の名前を呼ばなかったか?」

 理不尽なことを言いながら笑う相手へ微笑みつつ、俺はごろりとその場で寝がえりを打った。
 動かした手でベッドに転がる恋人を抱き込むように引き寄せると、大人しくシーツの上を滑ったデリンジャーが俺の胸に収まる。
 角の先がちくりと胸板を押しやって攻撃したが、別に耐えられないほどでもない。

「それで、弟分がなんだって?」

「うん、だから、若様はもう『子供』を身内にしないんだなって思って」

 俺の胸元で紡がれた言葉に、まあそうだろうな、と俺はベッドに転がったままで相槌を打った。
 北の海で生きていたあの頃、ドフィが何を求めていたのか俺が知ったのは、明らかに怪しかった『弟』をその手元へ受け入れた時だった。
 来たものを拒まなかったファミリーが子供を拒むようになったのは、ドフィがその手で『弟』を殺してからだ。
 なぜならそう、もう『代わり』なんて必要なくなったから。
 そうなると必然的に、俺達の可愛いおチビさんは俺の腕にいる恋人ひとりになってしまう。

「どうしても弟分が欲しいのか?」

「弟分が欲しいっていうか、赤ちゃんが見たいの。ジョーラがあたしにしてくれたみたいにお世話したり、遊んだり」

 ままごとを好む幼女のようなことを言い放つ相手に、ふむ、と俺は一人で頷いた。

「そいつはつまり、子供が欲しいってことか」

 恋人の発言を簡単にまとめると、なんとも無茶なおねだりだ。
 俺とデリンジャーは確かに恋人同士で、子作りに該当する愛情表現も行ってはいるが、しかし同性だった。一般的に、男同士で子供は出来ない。

「誰かに産ませるか」

「あたし以外の誰かとこういうことしてたら、絶対アンタを蹴り殺すから」

「そいつは怖い」

「あたしに女を宛がったとしても同じ」

「貞淑な恋人を持てて俺は幸せだ」

 見下ろした先の恋人が歯を剥いてこちらを睨んでいたので、俺はそう答えてぽんぽんと恋人の背中を叩いた。
 想像しただけで苛立ったのか、むき出しの背中に生える背びれが少し開いている。
 横から指を滑らせてそれを宥めつつ、じゃあどうするかな、と考える。
 可愛い恋人のおねだりだ。是非とも叶えてやりたい。
 しかし、適当に赤ん坊をさらってくることは簡単だが、愛情表現の激しいデリンジャーの手にそこいらの子供を渡したとして壊さないとは言い切れない。
 なにより、赤の他人を構うデリンジャーを見せつけられるのは嫌だ。
 海兵が聞いたら顔を顰めそうなことを考えつつ恋人の背中を撫でていた俺へ、デリンジャーがしがみ付くように腕を回す。
 甘えるようにすりついた相手のこそばゆさに思わず笑ったところで、あのねナマエ、とデリンジャーが俺を呼んだ。

「だから、アンタがあたしの弟になって」

「……ん?」

 囁くように告げた相手の目に悪戯めいた輝きが浮かんだのを見て、俺は目を瞬かせた。
 それとほぼ同時に、ばしゃり、と何かが自分の体にかけられる。
 ぬるついたそれはどう考えても薬品で、するりと俺の胸から逃げたデリンジャーを追うより前に、じわりと体が軋んだ。
 まるで小さな箱に詰められるような痛みに眉を寄せた俺の体の下で、ベッドのシーツが動いて逃げていく。
 そう考えてシーツを掴んだところで、俺は自分の勘違いに気付いた。
 動いているのはシーツではなく、俺の体だ。

「……でりんじゃー?」

 鈍痛が少し弱まり、戸惑いながら起き上がった自分の目線の低さに、眉を寄せて視線を向ける。
 起き上がって俺を見下ろす恋人殿の手には、何やら薬瓶のようなものがあった。いつの間にあんなものをベッドへ持ち込んでいたんだろうか。
 体が濡れているのを感じてふるりと身を震わせ、自分の体を見下ろす。
 シーツの上へ座り込むそれは、誰がどう見ても子供のそれだった。
 赤ん坊とまでは言わないが、少年というにもまだ幼い掌だ。ふくふくと丸みのあるそれは愛されて育つ子供のものに似ているが、俺の見知った傷跡がいくつも残っている。
 裸だったが為に見下ろした先のものが幼子のそれになってしまっているのを目撃し、俺は改めて視線を恋人へ向けた。
 起き上がったままで動きを止めたデリンジャーは、じっとこちらを見つめている。両目がしっかりと開かれていて、らんらんと光り、集中してこちらを見ているのは見れば分かった。
 下から見上げても俺の恋人は可愛いな、とそれを見つつ濡れた体をシーツの端で拭いたところで、ばっと動いたデリンジャーの手が俺の体を捕まえて引き寄せる。

「キャー! ナマエ、可愛い!」

 嬉しそうに言い放って、ぐいと頬へ頬を押し付けられた。
 すりすりと頬ずりされるのは構わないが、ごちごちと角が頭に当たっている。
 可愛い可愛いと繰り返して、デリンジャーは両手で俺を持ち上げた。

「シーザーもたまにはいい仕事するじゃない!」

「くすりのでどころはそこか……」

 またおかしな薬を作りだしたものだ。

「大丈夫、悪い副作用は出ないって言ってたわ。もって二時間くらいだって」

「にじかん……」

 ため息を零した俺は、しかし今度はまん丸い腹を構い始めたデリンジャーに、仕方ないな、と言葉を零した。
 よくよく考えたら、これならデリンジャーが構うのは俺なので、不満など持てるはずもない。

「でりんじゃー、ふくをくれないか?」

「もっと可愛く言って!」

「でりんじゃーおにいちゃん、はずかしいからおようふくきせて?」

 リクエストを受けて言葉を紡ぐと、嬉しそうな顔をしたデリンジャーが俺をベッドへ降ろした。
 すぐさまベッドの下から取り出した紙袋を逆さにして、そこに入っていた何着かの服を宛がわれる。
 女物かと尋ねたくなる服が多いが、これはジョーラから培われたデリンジャーの趣味だろう。
 となれば、受け入れる以外の選択肢などあるはずもない。

「これと……あ、でもこっちも似合う! どうしよ、迷っちゃう!」

 うきうきとした顔で言葉を紡ぐ恋人があまりにも可愛いので、それを受け入れることにした俺は、それからしばらく可愛がられて過ごすことになった。

 二時間と言われていた効果が半日続き、デリンジャーの可愛い悪戯がドフィ達にバレて叱られてしまったのは、少し可哀想だった。



end


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