- ナノ -
TOP小説メモレス

ぼくにとっては
※主人公は白ひげクルーでマルコの恋人



 酒飲みへの贈り物と言えば、酒に限る。
 特に白ひげ海賊団の頂点に君臨する四皇『白ひげ』は恐ろしく酒好きで、その体格に見合った酒を好きなだけ飲むのだから、その手元に酒樽が集まるとなれば当然だった。
 見たことある銘柄も見たことのない銘柄も、『オヤジ』は嬉しそうに受け取ってグラララと笑ってくれる。
 しかしそれも、船長の体調が許せばこその話だろう。

「『酒は禁止』かァ……」

 ぽつりと呟いて、俺は頭を掻いた。
 それから傍らを見やると、俺の視線に気付いたマルコがこちらを見る。

「ぼんやりしてねェで、しっかりお前も探せってんだよい」

 あきれたような声音に、わかってるよ、と告げて周囲を見回す。
 モビーディック号からはるかに離れた島中央の街は、とても大きなものだ。
 あちこちに見たことのない品が置かれていて、いろんな人間がそれを眺めたり手に取ったりしている。
 その中に時折見知った顔があるのは、恐らくは『白ひげ海賊団』のほとんど全員が、この島や周辺の島々へ繰り出しているからだった。
 今日は、『白ひげ』と呼ばれる俺達船長の誕生日だった。
 俺があの船に乗ってからもう数回目になるこの日を、俺は去年と同じく何人かで出し合った金で贈り物を用意して、そわそわとしながら待っていた。
 しかしながら俺達のそれに水を差したのは、最近少しだけ体調を崩していた船長を診察した船医からの通達である。
 酒は薬と言い放つ『オヤジ』の方は何とも渋い顔をしていたが、いつも文句を言いながら少しは酒を許していた船医が『しばらく禁酒だ』と言い出すなんてよっぽどである。
 船内からは酒が奥深くに隠されて、『船長』はとても不満そうだった。
 俺達が用意していた贈り物も、当然渡すことはできない。
 そうなると、今日と言う日を祝うための贈り物がなくなってしまったということになる。
 『オヤジ』の体調を全員で心配して、安静にしてれば大丈夫だなんていう船医からの診断にほっと息を吐き、そこでようやく思い至った事実に何人ものクルーが船から駆け下りた。
 俺とマルコもそれを追いかけたうちに入っている。
 本当は別々に降りるところだったが、先に降りたマルコを俺が追いかけたのだ。
 だってせっかくの島なのだから、『オヤジ』のプレゼントを買うにしても、どうせなら一緒に歩きたいじゃないか。
 何せ俺達はいわゆる恋人同士と言うやつで、そしてマルコが忙しいせいで一緒に出掛けるなんてこと自体がめったにない。

『……何女々しいこと言ってんだよい』

 俺の主張に軽く呆れた声を出しはしたものの、拒絶をしなかったマルコは軽く笑っていたので、たぶん受け入れてもらえたんだと思う。
 惚れこんだ俺のほうが頼み込み、なんとか恋人になってはくれたものの、マルコにとっての一番はやっぱり『白ひげ』だった。
 だから今日のこれだって向こうはそう思っていないだろうが、俺にとってはまあ、デートのようなものである。

「でも、どうするかなァ」

 ほとんどあてもなく島を歩きながら、俺は口を動かした。

「こうして考えてみると、なかなかいいものって見つからないもんだな」

「そうだねい」

 俺の言葉に、マルコが真剣な顔で頷く。
 恐ろしい金額を担った賞金首が睨む先が露店と言うのはちょっとあれな光景だが、まあ仕方ない。
 今度の島はとても大きな島で、『船長』にとっては懐かしい場所でもあるらしかった。
 だから何かしらこの島のものを買って渡せば喜んでくれるだろうとは思うのだが、いかんせん『船長』の『酒』以外の好事品はわかりにくい。

「次、冬島のほうに行くって言ってただろ、コートはどうだ?」

「それは前の島で買っただろい」

「あ、そうだった……」

 渡しに行ったら『あったけェなァ』とグラララ笑っていたことを思い出し、俺は軽く肩を竦めた。
 ついでに指折り数え上げながら考えてみるも、長刀は最近研いだばかりで、ブーツはイゾウ達が買うと言っていた。ほかの衣類をあげても似たようなもので、そういえばナース達がみんなでマフラーを編んでいると言っていたような気もする。
 聞いた話によれば、サッチたち四番隊は体にいい食材を買い付けて回っているらしい。

「かといってあんまり甘いのも食わないもんな」

 呟きつつ足を動かしたところで、ふと俺は傍らにいたはずの海賊が足を止めているのに気が付いた。
 驚いて振り向けば、一つの露店の前に立ち止まったマルコが、じっと何かを見つめている。

「マルコ?」

 どうしたんだ、と声を掛けつつ近寄ると、どうやらそこは酒類を扱っている店のようだった。
 おいおい、と声を漏らしてマルコの肩に手を触れたところで、マルコがちらりとこちらに何か目くばせをする。

「?」

 それに気付いて視線を店先に戻した俺は、いくつか並ぶ酒瓶の中に、何度か二人で探し回った一瓶があるということに気が付いた。
 『オヤジ』がいつだったかまた飲みたいと言っていた、どこを探しても見つからない幻の逸品である。

「…………なんてタイミングだ……」

 誕生日と言う今日に発見してしまうあたり、『オヤジ』が世界に愛された海賊なのではないかと思えるほどだが、しかしどうやら神様はうちの船長限定で意地悪を働くようだ。
 ため息を零しつつ屈み込んで、一瓶をひょいと捕まえる。

「おっさん、これ一つ」

「ん? あいよ」

 俺の言葉に店主が頷き、なかなかな値段を提示してきたのに金を払う。
 そうして受け取った酒瓶を大事に包んで持ってきた鞄へ入れると、ナマエ? と傍らでマルコが不思議そうな声を出した。

「酒は駄目だって言われてんだろい」

「わかってるって、まあこれは『オヤジ』の快気祝いだな」

 しばらくは後になるだろうが、船医が『酒を飲んでもいい』と言ったら、まずはこれを楽しんで貰おう。
 そういってマルコを見上げて笑うと、俺の言葉にマルコが眉を寄せた。
 それから、その手が自分のポケットへと入り込み、掴みだしたベリー札を俺の襟首へと押し込む。

「うわっ」

「おれが見つけたってのに、手柄を独り占めは許さねえよい」

 慌ててベリーを抜いた俺へ言い放ったマルコに、せめて手渡せよ、と笑いながら立ち上がった。
 それから軽くマルコの肩を叩いて、向こうの方に行ってみようぜ、と道の向こうを指さす。

「『オヤジ』の誕生日祝いになりそうなもん、早く見つけないと」

「わかってんだよい」

 俺の言葉に軽く唸りつつ、マルコが先に歩き出した。
 鞄を肩に下げたまま、マルコからもらったベリーをポケットに押し込んで、同じ方向へ足を動かす。
 そのまま、大きかった街をほとんど一周し、どうにか二人で一つの贈り物を買った後も、満足いかなかったマルコは俺を連れて周辺の小島へも足を運んだ。
 さすがに手は繋がなかったものの、あれこれと見ながら飯を食ったり話をしたりして、本当にあっちこちを二人でうろついた。
 『オヤジ』の為に一生懸命だったのに納得のいく贈り物を見つけられなかったマルコには申し訳ないが、長い時間一緒にいられた俺としてはとても楽しい一日で。





「…………いや、それ普通にデートだろ? マルコだって楽しんでんじゃねェか」

「………………あれ?」

 宴の準備で大わらわな厨房を手伝いに行った先で、俺に芋とナイフを持たせたサッチからそう言われ、目を瞬かせてしまったのは、その日の太陽が沈んだ頃のことである。


end


戻る | 小説ページTOPへ