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初恋プレゼント (1/2)
※ドリィと父親に対する捏造炸裂
※主人公は海兵さん(何気にトリップ主)
※19歳ドレーク



「それじゃあ、俺が」

「何だって?」

 話し合いの途中で片手を上げた部下へ女海兵が視線を向けるのを、ドレークはその傍らに佇んで見ていた。
 雪の降り積もる冬島の海域にあった軍艦へと連れていかれて、少し経つ。
 今いる場所は軍艦の中の筈なのに、冷え切った室内の空気が冷たくて、体に巻き付けた毛布の下で腕が震える。
 怯えを宿したその目を周囲へ向けてしまうのは、周囲の人間が誰もかれも海兵で、ドレークよりも大柄な人間が多いからだった。
 寄り集まり、今回の『事件』の被害の報告がなされていたのだ。
 出てくる言葉の中に『ドンキホーテ・ドフラミンゴ』の名前と『ディエス・バレルズ』の名前が出たことでドレークは父親の仇を知ったが、父親を殺されて憎めばいいのか、それ以外の感情を向ければいいのかももうよく分からない。
 いつか認めて貰えるだろうと、海軍を辞めた父親についていった。
 悪事に手を染める父親を止めたくて、その『商談』で使おうとしていた悪魔の実を食べた。
 こっぴどくドレークを殴りつけてしかりつけた父親が、それでもドレークを見捨てなかったのは、今思えば恐らく、ドレークをただ利用したかったからだ。
 しかし、初めて使った能力を使いこなせずに暴れ回り、周りから畏怖の視線を向けられたあの時、ドレークにはそれが分からなかった。

『みんながお前を怖がってる。……だがなドリィ、安心しろ、おれはお前の味方だ』

 元海兵らしく暴れていた未熟な能力者であるドレークを抑え込み、耳元で囁いたドレークの父親は、だからおれの役に立てとドレークへ言った。
 力というのは絶対的なもので、それさえあれば相手を屈服させることができる。
 ドレークが父親の下でやってきたことは、『正義』の側からすれば許されないものだ。
 ドレークの身の上はまだ知られていないようだが、いつ捕縛されるかも分からない。
 身構えるドレークをよそに、腕を組んだ女海兵が、自分の向かいの部下へと言葉を投げる。

「前に、家庭を持つ気はないと言ってなかったかい」

「言った気はしないでもないですが、いや、子供くらい引き取れますよ」

「嫁もいないのに子持ちになるってのかい?」

 放たれた上官らしい女海兵の言葉に、その向かいの部下が困った顔をしていた。
 その目がちらりとドレークを見やって、向けられた視線にドレークは身を竦める。
 ドレークが悪魔の実の力を発揮すれば恐らくは簡単にねじ伏せられるだろう見た目の海兵だが、そうやって見つめられることがドレークには恐ろしかった。
 目を伏せてしまったドレークの向かいで、海兵が軽くため息を零す。

「つる中将、俺が一番最適だと思いますよ。中将が後見人になると、多分後でとても面倒臭くなります」

「なんだい、偉そうに」

 きっぱりとした部下の言葉に、つると呼ばれた女海兵が肩を竦めた。
 そしてそれから、仕方ないねと呟いて、その口が向かいの海兵へと命令を紡ぐ。

「それならナマエ、この子はアンタが責任をもって預かりな」

 寄越された命令へすぐさま『分かりました』と返事が放たれて、ドレークの身柄はナマエという名前の部下へ引き取られたようだった。







「それじゃ、明日部屋を作ってやるから、今日はここで寝てくれ」

「え……」

 連れていかれた一室で、ドレークはぱちりと目を瞬かせる。
 その視界に収まったのは、明らかに使用者のいる寝室だった。
 綺麗に整えられたベッドに、物の少ない戸棚と本棚。
 軍艦の中では、雑務に追われていたらしいナマエとほとんど交流も無いままだった。
 ドレークの方もまた、軍医に検査を受けたりいくつかの質問をされたりして日々を過ごしていたから気にしていなかったが、自分の後見人になると言った相手と会話すらほとんどしなかったという事実に気付いたのは、海軍本部で二人きりにされてからだ。
 海軍本部へと連れていかれた後、軽い書類の手続きをしたナマエと食堂らしきところで食事をとり、その後でナマエがドレークを連れて行ったのがこの家なのだから、ここは恐らく彼の家だろう。
 困った顔でドレークが視線を向けると、それに気付いた相手が軽く首を傾げる。

「どうかしたか?」

「…………あの、リビングではないんですか」

「リビング? あ、もしかして腹減ってるか?」

 戸惑い問いかけたドレークへ、育ち盛りだもんなとナマエが呟く。
 その足がするりと何処かへ行こうとしたのを慌てて呼び留めて、そうではなくて、とドレークは言葉を続けた。

「おれは、別に椅子でも、床でも」

 どう見ても同居人のいないナマエの家に、ベッドが余分にあるとは思えない。
 だとするなら、この寝室はこの家の主のものであるべきだ。
 一部屋は物置になっていると言われたし、何ならその物置の片隅でも構わないと言葉を重ねたドレークに、何を言ってるんだと男が目を丸くする。

「ベッド、嫌いなのか?」

 それじゃあ明日買うのは敷布団にするかと続いた言葉に、ドレークは首を横に振った。
 好きか嫌いかで問われたなら、ドレークもベッドで眠ること自体に不満はない。
 父親の元にいる時に使っていたベッドはぎしぎしと軋んで嫌な音を立てる寝心地の悪さだったが、それだって冷たい床の上に転がって眠るよりは幾分ましな睡眠時間を取ることが出来た。
 けれども、罰だと言われて床の上に転がされることだってあったし、ほとんど不眠の番をして椅子に座ったまま寝こけたこともある。
 最悪でも毛布一枚さえあれば問題ないのだ。
 ドレークのことを引き受けると言ってくれた相手に、それ以上の不便は掛けられない。
 けれども、その考えをドレークの口が漏らそうとしたところで、ぱむ、とその口が何かによって押さえ込まれる。
 唐突に接触されたことに驚いてドレークが身を引くと、その距離を積めるように一歩前へと踏み出した海兵が、ドレークより少し高い位置からドレークを見つめた。
 厳しい顔をしているのに、どうしてかその眼差しが優しげに見えて、ドレークはわずかに目を見開く。

「嫌いじゃないんなら、今日はここ」

 いいな、と言葉を置いてさらに体を押しやられ、戸惑いながら後退したドレークは、真後ろにあったベッドに足を取られてしりもちをついた。
 ドレークが使っていたものよりずいぶんと上等なのだろう、急な重みに軋みの一つも上げなかったベッドの柔らかさが、ドレークの体をそっと支える。

「あの、でも……」

「いいから。明日は早起きしなきゃだし、もう寝な」

 ドレークからようやく手を離したナマエがそう言って、その足が部屋の入口に向かう。
 薄暗い部屋の中へ廊下側から差し込んでいた光を遮るようにそこへ佇み、お休み、とドレークへ声を掛けた家の主は、そのまま部屋を出て行った。
 扉がそっと動いて、半開きの状態で止まる。
 固定されたのか、それ以上動きのない扉の向こうでナマエが去っていく気配を感じて、ドレークは薄暗い部屋の中でもう一度瞬きをした。
 扉が少しばかり開いているせいで差し込む灯りが、部屋の中を少しだけ明るくしている。
 廊下の向こうで聞こえる物音は、ナマエが何かをしている音だろう。
 片付けやらがあるのなら手伝いに行った方がいいだろうと思いながらも、部屋を出ると叱られるような気がして、ドレークはそっと自分の口元に手を触れた。
 先ほどドレークの言葉を抑え込んだ温もりを思い出して、自分の唇に触れた手がそのまま拳を握る。
 ドレークに優しいあの海兵は、一体何を企んでいるのだろう。
 例えばドレークの父親のように、ドレークを懐柔して利用しようとしているのではないか。
 素直だったころの己を実の父親に叩き潰された猜疑心が、そんな風にドレークの耳元で言葉を囁く。
 もや、と何かが胸の内側を満たして、その不快感を忘れたくて目を閉じたドレークは、そのままごろりとベッドの上へと倒れ込んだ。
 ふわりと漂った香りは、先ほどまで一緒にいた海兵からわずかに香ったものに似ている。香水でも着けていたのか、それとも悪魔の実を食べたことで嗅覚が鋭敏になっているのかはドレークにも分からない。
 柔らかなシーツに懐く方に頬を押し付けて、それから眉を寄せたドレークは、そのまま何も被らずに眠りへと落ちていった。






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