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誕生日企画2015


『マルコが好きなんだ』

 真っ向からそう言ってきたナマエは、冗談など入り混じった様子も無い、とてもまじめで切羽詰った顔をしていた。
 だからこそマルコは、きっぱりとそれを真っ向から断ったのだ。

『悪ィが、おれァお前を『家族』としか思えねェよい』

 すっぱりと切り捨てるような言葉を述べたと言うのに、どうしてかナマエは少しばかり嬉しそうな顔をして、これからもマルコを好きでいるのは構わないか、と続けてきた。
 好きにしろとそれへ答えたのは、マルコにナマエの胸の内をどうにかすることが出来ないからだ。

「マルコ、これ」

 そっと差し出された包みを受け取りながら、マルコはぼんやりとそんなことを考えた。
 見やった先でマルコが自分の顔を見つめていると気付いてか、マルコの手に贈り物を乗せたナマエが、じわりとその顔を赤くする。

「な……何かついてるか?」

 焦ったように顔に触れて言葉を紡いだ相手に、目がついてるよい、と答えてやってからマルコは手に乗せられたものへと視線を移した。
 シンプルな包みをされているそれを引き寄せて、断りもせずにぺり、と包み紙を剥がす。
 破かないよう丁寧に指を動かして、出てきたものは箱に入ったインク瓶だった。
 ひょいと中身を開いてみれば、その様子を眺めていたらしいナマエが、『切れたって言ってたから』と言葉を述べる。

「どこだったかの艦隊の航海士ご用達らしい。使い心地がいいと良いんだけど」

「へえ」

 言われた言葉に感心したように頷きながら、マルコはインク瓶を掴んで確認した。
 確かに海の上でも使いやすいようにか、瓶の底は広く、滑り止めのようなものが着けられている。
 後で物書きに使ってみるかと机の端へそれを置いてから、マルコの目がナマエを見やった。
 それを受けて、ナマエが微笑んで言葉を述べる。

「誕生日おめでとう、マルコ」

「ああ、ありがとよい」

 今朝から何度も寄越された言葉へ同じように返事をしながら、マルコは目の前の男の双眸を見つめた。
 穏やかな雰囲気を持つナマエの顔の中で、少しばかりその目が異質に煌めくのは、そこにマルコを宿している時だと言うことをマルコは知っている。
 何故ならナマエは、マルコに恋愛感情を抱いているからだ。
 好きだと言われて、悪いと返した。
 好きでいていいかと問われて、好きにしろと応えた。
 それから後、ナマエはマルコへ好意を持っているようなことは口にしても、好きになってくれとは一言だって言いはしない。
 早く諦めてくれないだろうかとこっそり思ってはいるが、きっと諦められたら諦められたで少し面白くないんだろうと自分を冷静に分析して、結局マルコはナマエに冷たくすることだって出来ないままなのだ。
 ただ狡いだけの自分に気付いていても、マルコにはどうしてやることも出来ない。

「今日の宴、何時からだか聞いてるかよい」

「もうすぐだよ。大体七時くらいだって言ってたかな。何時まで飲むんだろうなァ」

「さァねい」

 尋ねたマルコへナマエが返して、その言葉にマルコが肩を竦める。
 熱を持ったナマエの視線を全て無視して、笑ったマルコはそれから彼と他愛も無い話をして、宴までの時間を潰すことにしたのだった。


end


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