愛と言うのは
※やっぱり主人公はバラされているので注意
「おれには、頼らないのか」
そんな風に言いながら見つめられて、ナマエはとてつもなく困った。
どうしてペンギンは、こんなにも寂しそうな顔をしているのだろうか。
わけがわからず、何も言えないでいるナマエの上で身じろいだペンギンの片手が、そっとナマエの頬へと寄せられる。
少し荒れた掌で頬を軽く撫でられて、ナマエはそちらがペンギンに打ち据えられた方の頬であることを思い出した。
腫れていた頬はもうすでにすっかりその腫れも引いていて、ペンギンに叩かれたことなんて鏡を見てももう分からない。
慰めるように撫でてくるその手つきは優しくて、そしてただ撫でているだけだと言うのにくすぐったさ以外の物を感じてしまったナマエは、あさましい自分に悲しくなりながら軽く肩を竦めた。
ナマエの肩口と頬に挟まれそうになった手を逃がして、改めてペンギンが両手をベッドへつく。
ベッドへと乗り上げ、ベッドへ背中向きに倒れたナマエの上へと乗っているペンギンの両手が、ナマエの顔の両側を挟むようにそびえた。
「……悪かった」
真正面からそんな風に言葉が落ちてきて、ナマエはぱちりと瞬きをする。
唐突な謝罪に、何の話かと見つめれば、そんなナマエの様子を感じ取ったらしいペンギンが更に言葉を続けた。
「急に叩いただろ。悪かった」
重ねられた謝罪は、どうやらペンギンがナマエの頬を打ったことらしい。
そう理解して、慌ててナマエが首を横に振る。
「いや、ほらあれは、俺だって悪かったんだ。ごめんな、気持ち悪くて」
確かに打たれた頬は痛かったが、あの時のペンギンの顔を見るに、ペンギンだって混乱したし傷付いたことだろう。
そう言えばもう『しばらく』は経ったと判断していいんだろうかと、ふとそんなことを考えたナマエの上で、何の話だ、と言葉が落ちる。
「え?」
それを聞いて逸らしかけていた視線を戻したナマエは、怪訝そうな顔をしているペンギンを自分の正面に発見した。
何か自分は可笑しなことを言っただろうかと、困惑を絵にかいたような表情になったナマエへ向けて、ペンギンが囁く。
「何が気持ち悪いんだ」
「……え? ほら、あの時ペンギンが叩いたのは、俺がシャチに練習を持ちかけたからだろ?」
眉を寄せたペンギンへ向けてナマエが言えば、そうだ、とわずかな間を置いてペンギンが頷く。
きっぱり、はっきりと肯定してきた相手にナマエの胸は更に痛んだが、そりゃそうだよな、とも思った。
元はと言えば、ナマエがペンギンを好きになってしまったのが悪かったのだ。
そしてそれをペンギンに聞かれて、ナマエをただの幼馴染だとしか思っていなかっただろうペンギンを混乱させてしまった。
結局ペンギンはあれを無かったことにするようだが、もうこれからはナマエの『練習』の誘いにだって乗ってくれないだろう。
シャチの言う通り正面から言って玉砕したらきっと死にたくなるのだろうから、それでいいのかもしれない。
「告白の練習なんて、聞かせてごめんな」
それでもそんな風に言葉が出てしまったのは、『無かったこと』にしようとしているペンギンに対する抵抗だったのか。
ナマエにはどちらかも分からないが、ひとまず理解できたのは、それを聞いた瞬間に、目の前の相手が大きく目を見開いたことだった。
驚いたようなその顔に、ナマエも困惑してしまって、戸惑ったように首を傾げる。
「……ペンギン?」
「……告白?」
名前を呼んだナマエを無視して、ペンギンがナマエの先ほどの言葉をなぞる。
確認するようなそれにナマエが頷くと、見る見るうちにその目を眇めてしまったペンギンが、それからわずかに低くした声を零した。
「告白って、誰にだ」
「誰に……って……」
囁かれたそれに、おかしい、とナマエは戸惑った。
あの時のナマエとシャチの会話の流れで、告白する相手が『ペンギン』以外に予想できる人間がいるだろうか。
ひょっとするとナマエは勘違いをしていて、もしやあの時、ペンギンはナマエとシャチの話を殆ど聞いていなかったのか。
しかし、だとするとどうしようもない疑問が残った。
打たれた覚えのある頬へ自分の手を伸ばし、軽く撫でてから、それじゃあ、とナマエが言葉を紡ぐ。
「ペンギンは、なんで怒ってたんだ?」
ナマエの中で膨れ上がった疑問がその唇から紡がれて零れて、それを聞いたペンギンがわずかに眉間のしわを深くした。
end
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