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サーチ&デストロイ
※転生系トリップ主人公はペンギンの幼馴染
※ペンギンに対する捏造ありあり
※続く


 ペンギンには、幼馴染がいる。
 ナマエという名前の彼は、ペンギンが物心ついたころからずっと一緒にいた、いわば『兄弟』と呼んでも差支えないような近さの相手だった。
 どこへ行くにも一緒で、何をするのも一緒。
 ナマエはペンギンを何より一番大事にしていたし、ペンギンにとってもナマエは特別大事な『友達』だった。
 だから彼が自分以外の誰かと一緒にいることには無性に苛立ったし、ナマエの髪の毛からつま先までがいつまでも自分の傍らにあるべきものだと信じて疑ったこともない。
 ずっとずっと昔、一番初めにあんな提案をしたナマエも、また同じだろう。

『……なァ、ペンギン。それじゃあさ、俺と練習しようぜ』

 どういった話の流れだったのかは思い出せないが、そんな風に言ったナマエの声は、少しばかり上擦っていた。
 二人きりの隠れ家になっていた町はずれの廃屋で、差し込んでいた夕日は赤く、室内の殆どを満たしていた暗がりは埃っぽかった。
 むき出しの大地から漂っていた湿った土の匂いを、ペンギンは覚えている。
 すぐそばにあるナマエの体温が落ち着かない気持ちにさせて、そわそわと体を揺らしたペンギンへ向けて、ナマエはその手を伸ばした。
 触れたその掌が熱くて、腕を掴まれたことにびくりと震えたけれども、あの日のペンギンは逃げなかった。
 そこで逃げたら、何かを失ってしまうような気がしたからだ。
 それは自分の手の上にある筈のもので、だけどいつだって誰かから奪われるという可能性を秘めていることを、小さな頃からペンギンは知っていた。
 恥ずかしくてたまらなかったが、それでもペンギンが近付いてきたナマエの顔をじっと見つめたのは、ナマエがその目でじっとペンギンのことを見ていたからだ。
 あの日、幼かったペンギンの唇に触れたナマエの唇は随分と柔らかくて、少しだけ震えていた。

『練習、しよう』

 そう言って誘ってくるナマエに流されるまま、ペンギンはナマエを相手に色々なことを経験した。
 年齢から考えても随分と早熟だったナマエが仕入れてきたことをペンギンはあれこれと試されたし、同じように試しもした。
 今となって思えば、おかしな話だ。ナマエは男で、ペンギンも男。異性が近くにいなかったわけでもない。
 けれども、ペンギンにとってはそれが自然だった。
 跨られて恥ずかしげに目を彷徨わせるナマエを見るのは気分が良かったし、余裕の無い顔でペンギンにのしかかる顔を見るのも気に入っていた。ナマエの手がペンギンの体に触れるのも、自分と同じ男であるナマエの体に触れるのも、どちらにも嫌悪を感じたことなど一度もない。
 ナマエの言う『練習』は、ペンギンがナマエと共に大きく育ってからも続いていた。
 トラファルガー・ロー達と共に島を離れてからは頻度は随分と減ってしまって、そのことに何だかモヤ付いたものを感じたペンギンが珍しく『練習』に誘えば、ナマエは普段より妙に張り切って『練習』をこなしていた。
 嬉しげな顔で傍らに伸びて眠るナマエを見て、いつになく穏やかな気持ちになっていたのが、一昨日のこと。
 そして今ペンギンの手は、怒りを握りしめて震えている。

「なァ、ちょっとだけ練習させてくれって。頼むよ、この通り」

「だから、ヤァだって言ってんだろ」

 倉庫の扉の内側から聞こえてくる会話は、ナマエとシャチのものだった。
 ナマエがシャチへ『練習』を強請って、それをシャチが断っている。
 他のクルーが聞いたところで、ただ単に雑談だとしか思えないだろう。さては剣術の稽古か、シャチに習うなんてやめておけと、そんな風に言いながら雑談に混じってくるかもしれない。
 けれども、ナマエの『それ』が何をさしているのかなんてこと、ペンギンは嫌と言うほど知っている。
 目の前が真っ赤に染まったような気がして、は、と気付いた時には、ペンギンは倉庫の中に乗り込んでいた。
 ひりひりと手が痛み、どうしてだと眉を寄せて見やった先で、倉庫の床にしりもちをついたナマエがいる。
 驚いたような顔をしたその頬が真っ赤になっていて、自分がその頬をはったのだ、ということをペンギンは理解した。

「お、おい、ペンギン?」

 困惑したように声を掛けてくるシャチを無視して、すう、と息を吸い込みそして吐き出したペンギンの口が、低く唸るような声を出す。

「…………しばらく、おれに近付くな」

 苛立ち交じりに吐き捨てながらも、『金輪際』ではなく『しばらく』なんて曖昧な言葉でしか言えなかったのがどうしてか。
 それにペンギンが気付いたのは、『どうしたんだ待ってくれ』と後を追ってくるナマエの声を振り切り、どかどかと煩く足音を立てながらその場から逃げ出した、その後のことだった。

『…………『練習』、しないか?』

 誘いかけたペンギンに伸ばされた手、余裕のない顔に感じた優越感、唇を合わせただけで感じた確かな高揚。
 いつの間にかペンギンにとって、それは『練習』などではなくなっていた。
 しかし、ナマエにとっては他に相手を見繕っても構わないことでしかない。

「……っ」

 すなわちペンギンの中に芽生えていた恋心は、そこにあると気付いた瞬間に殺されたのだった。


end


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