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うちのパパのこと
※『100万打記念企画SSS』と同設定
※ペローナとゾロより先に城在中だったミホークの同居人は何気にトリップ系男子
※シッケアール組が仲良し
※ほぼペローナ、ミホークが少ししか出ないので注意
※主人公がペローナを可愛い女の子(父性愛)だと思っているので注意?



 バーソロミュー・くまによってペローナが弾き飛ばされたのは、『暗く』『湿った』『怨念渦巻く様子の古城』のほとりだった。
 『旅行に行くなら』なんてわけのわからない問いかけに答えた願望そのもののそれに目を輝かせたペローナが、それからすぐさまへこたれたのは、彼女がその場に一人だったからだ。
 今まで周囲に召使を置いて世話を焼かせてきたペローナが、こんなどこなのかも分からない場所で、どうやって生きていけばいいものか。
 体を城の中の安全そうな場所へと隠し、幽体になって辺りを探索してみても、城の外には物騒な装備をしたヒヒたちが群れを成してうろついている程度で、滅びた王国らしい島には召使に出来そうな人の姿も見当たらない。

「……どうしろってんだよう」

 ふわふわと漂いながらため息を零したペローナは、仕方なく自分の体へと戻るべく城へと帰還した。
 いくつかの壁を通り抜けて進んでいくペローナがふと動きを止めたのは、あと二つほど進んだところで体にたどり着くだろう、とぼんやり考えながら顔を壁へめり込ませたところだった。

「わっ」

「え?」

 耳に届いた驚くような声に、ペローナの目がそちらを見やる。
 そこには、どうしてかエプロンを着込んだ男が一人立っていた。
 掃除をしていたのか、モップを片手にしていて、目がまん丸く見開かれている。
 幽体として移動するペローナの体が壁からはみ出しているのだから、驚くのは当然だろう。
 しかしそれよりもとてつもなく嬉しいものを見つけたと知って、ペローナの顔には笑顔が浮かんだ。

「……人!」

 どうやらこの城には、『人』が住んでいたらしい。
 外のヒヒ達や、明らかに滅びているらしい島の様子からするとおかしな話だが、今はそんなことに構っている場合ではない。

「おいお前! 私にベーグルサンドとココアを用意しろ!」

 ぬるりと壁から抜け出て、まだ驚いた顔をしている相手へ近寄って言い放ったペローナに、男はただぱちぱちと瞬きをしていた。







 『ナマエ』と名乗ったその男は、最初こそペローナの幽体に驚いたものの、妙にあっさりとペローナのそれを受け入れた。
 この『城』の主から管理を任されているのだという彼は料理上手で、温かいココアもおいしいベーグルサンドも、それ以外も簡単に用意してくれた。

「よし、ナマエ、私の召使いになれ!」

「うーん、それはちょっとなあ」

 出されたものを平らげて、そう言葉を放ったペローナの向かいで、ナマエは軽く首を傾けた。
 何だよ私の召使いが不満なのか、と唇を尖らせたペローナへ笑いかけて、彼の手がペローナの前からカップを奪う。

「ココアはおかわりするか?」

「する!」

 寄越された言葉にペローナが頷くと、分かったと答えたナマエの手がすぐにココアをいれ始めた。
 甘い香りを漂わせるそれを作りながら、ナマエの口が言葉を零す。

「召使いにならなくても、君がここにいる間、食事も飲み物も用意するし世話をするよ」

 『城』を任されているのは俺だから、と言って笑う相手に、何だよ、とペローナが眉を寄せる。

「先に『雇い主』がいるから、私の召使いにはなれないっていうのか?」

 この素晴らしい城の主がどんな人間なのかは知らないが、そちらと自分を比べられた気がして不満顔になったペローナに、雇われてるわけじゃないよ、とナマエが答えた。

「『任されてる』んだ」

「……何が違うんだ?」

 自信に満ちたその言葉に首を傾げたペローナへ、うまく言えないなあ、なんて言いながらナマエがココアを差し出す。
 温かくて甘いそれを受け取って、そっと一口を飲みながら、少しだけ考えたペローナの脳裏に、は、と一つの閃きが過った。

「そうか、この城の主はナマエの嫁か!」

「ぶふっ」

 女主人の伴侶だと言うのなら、当然城主の留守中の城を任されるだろう。
 どうもナマエは家庭的なようだし、相手は女傑なのかもしれない。
 そう考えてのペローナの言葉に、どうしてかナマエが口へ運んでいた水を噴き出した。
 ゴホゴホとせき込み身を丸めたナマエに、どうしたんだとペローナが慌てる。
 大丈夫かと立ち上がりかけたのを掌で制され、仕方なくペローナが見守っていると、多少落ち着いたらしいナマエは、そっと丸めていた背中を伸ばし、口元を行儀悪く袖口で拭った。
 どうやら笑いの発作だったらしく、その口が笑みを浮かべていて、少し困ったような笑い顔がペローナを見やる。

「あー……あれだ、城主を見たら、自分の今の発言を撤回したくてたまらなくなると思うよ」

「?」

 意味が分からず、ペローナは首を傾げた。
 不思議そうなペローナに、ナマエはまだ笑いの発作が治まらないのか、ふふ、とたまに漏れる笑いを片手で押さえ込んでいる。
 何なんだ、と眉を寄せたペローナが、ナマエの言葉の意味を知ったのは、それからしばらく後、ペローナと同じように飛んできたロロノア・ゾロを看病している最中のことだった。
 なるほど確かに、『鷹の目』ミホークが『嫁』だなんてこと、ありえる筈もない。







 新聞の記事から『メッセージ』を読み取ったロロノア・ゾロが王下七武海に弟子入りして、数か月。
 ペローナだったらまだしばらくはベッドの上に転がって甘やかされ三昧をしていたいほどの傷だったと言うのに、すっかり元気になってしまったロロノアは、今日も剣の修行とやらをしている。
 夕暮れ時、そろそろ戻る時間帯だ。

「こら、そっちは城の方向じゃねーぞ!」

 仕方なく呼びに来てやったペローナが注意すると、おかしな方向に進みかけていた足を止めて、ち、と舌打ちをしたロロノアがじろりとペローナを見やった。

「何しに現れやがったんだ、幽霊女」

「お前がちゃんと城まで戻るか心配してきてやってんだ」

 忌々しげに寄越された言葉に、ペローナは腰に手を当ててそう言い放った。
 ストイックに修行とやらをしているだけならペローナだって放っておくだけの話だが、放っておくと、神懸った方向音痴のロロノア・ゾロは、何処までも島の端へと移動していくのだ。
 一度打ち倒してから、ヒューマンドリル達も無差別にロロノアを襲うことは無くなったようだが、ロロノアの方から『修行』を仕掛けることも多いというのだからどうしようもない。
 怪我をして、帰る方向を見失ったロロノアはその辺で一晩を明かそうとするだろうが、それはとても大きな問題に発展する。

「お前がその辺で野宿とか始めたら、またナマエが探しに来るだろ!」

 大きな怪我をしていたら心配だから、なんて言って、ナマエは出来る限りの用意をしてロロノア・ゾロを捜しに出てしまうのだ。
 『鷹の目』ミホークを怖れて城の周辺には近付かないヒューマンドリルも、ナマエのことはちゃんと『獲物』として扱っている。ただ弱いだけでなく、食事すら持って外へ出てくるナマエなど、格好の標的だ。
 今日も城で美味しい食事を作っているだろう誰かさんの名前を出してペローナがそう言うと、やや置いて、ロロノアの口からもう一度舌打ちが漏れた。
 その目がきょろりと周囲を見回して、それからもう一度ペローナを見やる。

「……で、城はどっちだ」

「あっちだ」

 問われた言葉にペローナが答えて彼方を指差すと、頷いたロロノアはとりあえずそちらへ向けて足を踏み出した。
 その隣をふわふわと漂いながら、ペローナも一緒に城を目指す。

 


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