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たまごのなかみ
※愛鳥週間最終日に卵の中身にしていたマルコの話
※マルコが外見のみ幼児化
※あんまり意味ないけど異世界トリップ有知識主人公(高校球児だった成人)は白ひげクルー



 マルコ隊長が小さくなった。
 俺にはそれだけでも衝撃だったが、何が原因なのかは分かっているらしく、数日で元に戻るから、と他のクルーが大して慌てた様子もないのが更に衝撃だった。
 さすが『ワンピース』のグランドライン、俺の常識では計り知れない未知の海だ。

「……で、なぜこちらへ」

「ん? 何だ、邪魔かよい」

 とりあえず呟いた俺の横で、マルコ隊長が首を傾げた。
 ぱっと見て十歳にならないだろう年齢のマルコ隊長の髪型は、小さくなってもそのままだ。
前の開いていないシャツを着ているから、刺青はどうなのか分からない。
 俺はこの白ひげ海賊団のヒエラルキーで言うと最下層の辺りに位置していると自負している。まあいわゆる新入りクルーで、ただの雑用係だ。
 一番隊所属ではあるものの、そんな俺がマルコ隊長と話をする機会は、そう多くない。
 今回の、俺の中では大事件に分類される出来事だって、遠目に確認して終了だったはずだ。
 それがどうしてか、船倉で小船の点検なんて雑用をこなしている俺の横に、マルコ隊長が座っている。

「いえ、邪魔だなんてことはありませんが……」

 言いつつ何か面白いものがあるかと思って周囲を見回してみても、いつもと変わらない船倉の風景があるだけだった。
 何で、わざわざこんな面白味のないところに来たんだろうか。
 よく分からず首を傾げた俺の横で、やれやれ、と言った風にマルコ隊長がため息を零す。
 呆れたようなそれにマルコ隊長へ視線を戻せば、こちらを見やったその目が、カンテラに照らされてわずかに光をはじいていた。

「……とりあえず、こんな状態になったおれを慰めろい」

「あ、はい。お疲れ様です。俺にはよく分からないですが、すぐ治るらしくて良かったですね。体調不良にはならなくても、色々と感覚が違ってやりづらいと思うんで、この際周りに頼って過ごしてくださいね、マルコ隊長」

 指示を出されたので、ひとまずはそう言葉を放った。当然、全部本心だ。
 すらすら言葉を紡いだ俺の前で、マルコ隊長が少しばかり変な顔をする。

「……よくもまァ、そんなすぐに出てくるねい」

 呟かれて、俺は首を傾げた。
 慰めろと指示をしたのはマルコ隊長のほうじゃなかっただろうか。
 よく分からないでいる俺の横で、まあいいよい、と俺には意味の分からない妥協を漏らしたマルコ隊長が、軽く頭を掻いてから、もう一度その目をこちらへ向ける。

「じゃあ、付き合えよい」

「え?」

「こんな状態になっちまって、仕事を取上げられてんだ。暇なんだよい」

 言い放つマルコ隊長に、ああ、と声を漏らす。
 そういえば、この姿になってすぐ、他の隊長格達がマルコ隊長から仕事を奪っていっていた気がする。
 この姿でもデスクワークくらいできる、とマルコ隊長は不満げだったが、一番隊クルーだけだったとしてもそうしたと思うので仕方無い。
 しかし、暇なんだとしたら、もっと暇つぶしの相手にふさわしい人材があるんじゃないだろうか。
 それとも、俺には他の仕事が割り当てられないが、みんなは随分と忙しくしているのか。
 改めて首を傾げた俺に、いやなのか、とマルコ隊長がむっと口を尖らせた。
 無意識なのかも知れないが、すねた子供のようなその様子に、慌てて首を横に振る。

「いえ。俺でよければいくらでもお付き合いします」

 言い放ってから、手元に広げていた用具を片付けた。
 俺は基本的にこの船倉にいるし、今日の作業は終了している。今日は時間があるからと、念のために点検していただけだ。
 俺の回答に、ならいいんだよい、と頷いたマルコ隊長が俺より先に立ち上がった。

「それじゃ、甲板にでもいくよい」

「あ、はい。何をするんですか?」

 与えられた指示に頷いて、手元の工具を片手に俺も立ち上がる。
 まだ決めてねェよい、と呟いて、マルコ隊長が足元のカンテラを拾い上げ、ちらりとこちらを見た。

「……毎日毎日こんなとこにいちゃあ、カビが生えちまうからねい」

 日光にでも当たりにいくよい、と寄越された言葉の意味がよく分からない。
 だって、マルコ隊長はあまり船倉までは降りてきていないはずだ。毎日ここにいる俺が言うんだから間違いない。
 戸惑う俺を見やったマルコ隊長は、幼いその姿には似合わないため息を零して、なんでもねェよい、と呟いて歩き出していく。
 結局何をするかも決まらずに、その日はただ、甲板の日陰に並んで座って話をしただけだった。
 マルコ隊長の話を聞けた俺は楽しかったが、俺の話を聞いたってつまらなかっただろうに、それから元の姿に戻れるまでの数日間、マルコ隊長は毎日、俺を誘いに来ていた。
 多分、周りが忙しくてよっぽど暇だったんだろう。


End


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