愛され天使
※『目覚めたら天使』の元腐女子とマルコ隊長
※主人公がいわゆる腐男子(心は女子だけど)状態なので注意
「……マルコ、大人気だ」
思わずぽつりと呟いたナマエに、どこもこんなもんだろい、とマルコは肩を竦めた。
ちらりと見やった傍らの机の上には、所狭しと物が置かれている。
乱雑に並んだそれらの中にはリボンのかかっているものも数多くあり、それらがマルコの私物ではなく、誰かからの『贈り物』であることは明白だった。
もうじき訪れるマルコの『誕生日』のためのプレゼントだ。
白ひげ海賊団において古株であり、一番隊を任された責任ある立場にいるマルコは、それ故に慕ってくる『弟分』も多い。
傘下の海賊団にも居るそれらから届いた物を眺めて頬杖をついたマルコの横で、ナマエと言う名の青年がしげしげと『贈り物』達を眺めていた。
「愛されマルコ……」
「ん? 何だって?」
ぽつりと呟かれた声が聞き取れずにマルコが視線を向けると、何でもない、とナマエが慌てたように首を横に振る。
椅子に座ったままでそれを見上げ、別に何でもねえならいいけどよい、と呟いたマルコの体が背もたれに背中を預けた。
マルコが見やった先に佇む青年は、どうしてか海の上の小舟に立っていて、危うく海王類に食われそうだったところをマルコが助けた青年だった。
行くあてが無いと言った彼がマルコの『弟分』になったのは、マルコ達の敬愛する船長の判断だ。
どことなく周りから一歩引いている様子の彼の世話は彼を拾ったマルコの仕事で、最初の時よりは随分と、ナマエも白ひげ海賊団になじんできたように思える。
「ナマエ」
そんな彼を見上げてマルコが微笑むと、ナマエが不思議そうに首を傾げた。
どうしたのかと問いかけてくる視線を見つめ返しながら、マルコの右手がひょいとナマエの方へと向けられる。
「お前は、おれに何かねェのかよい」
机の上の物達のうちのいくつかは、ナマエがマルコの部屋まで運んできたものだった。
誰かが教えたらしく、マルコの誕生日を知っていたナマエが、『誕生日プレゼントだって』と口にしたのをマルコは聞いている。つまりナマエは、マルコの『誕生日』を知っているのだ。
年齢的にも、欲しいものは自分で手に入れることが出来る。別に『贈り物』が欲しいわけでは無くて、マルコにそう言われたらナマエはどう反応するだろうかと、ただそんな興味を引かれての言葉だった。
マルコの問いに、ぱちぱち、とナマエが瞬きをする。
それからどうしてかマルコから顔を逸らし、ふるりとその体がわずかに震えた。
「ナマエ?」
どうしたとマルコが訊ねれば、すぐにナマエの顔がマルコの方へと向き直る。
その顔は先ほどと変わらず、どうして一度顔を逸らしたのかも分からないほどにいつも通りだ。
「おねだりされると、思わなかった」
「オネダリ……まあ、確かに」
その状態で呟かれて、強請った自覚のあるマルコは頷いた。
しかし、別に物が欲しいわけではないのだ。
だから手をおろし、肩をすくめて、で、と漏らした声をナマエへ向ける。
「ねェのかい?」
訊ねながら口元に笑みを浮かべると、えっと、と呟いたナマエがたじろいだのが分かった。
少しだけ困ったような顔になり、それからきょろきょろと周囲を見回して、ちょっとごめん、と謝罪のような物を置いてその場から弾かれたように走り出す。
バタンと扉を開き、そして部屋の外へと出て行った相手を見送る格好になったマルコは、壁にぶつかった扉が戻ってきて閉じたのを確認した後、一人になった部屋で軽くため息を零した。
「……走って逃げてくこたァねェだろよい」
慣れて来たと思っていたのだが、まだまだナマエをからかうには時間が足りなかったらしい。
しばらくしたら元通りになるだろうか、それとも探して落ち着かせるべきかと考え込んだマルコの耳に、扉を叩く脳天気な音が響く。
それから返事も待たずに扉が開かれ、マルコー、と声を掛けながら顔をのぞかせたエースが、そのまま室内へと侵入した。
「何持ってんだよい」
「これ、赤髪からだってよ」
言いつつ抱えて来た荷物に、マルコの眉間に皺が寄る。
ロジャー海賊団にいた頃から騒がしい顔なじみの『贈り物』は、どうやら酒瓶であるようだった。
それもマルコ達の敬愛する白ひげが好きな酒であるらしいとラベルで判断して、マルコの口からため息が漏れる。
顔を合わせるたび仲間に誘う不届きな四皇は、どうやらこれならマルコが捨てたりしないということを見越して贈ってきたようだ。つくづく食えない男である。
リボンを結んだそれをテーブルの端に置き、たくさん来てんなァと贈り物を眺めて羨ましげな声を出したエースが、それから、あ、と声を漏らした。
「さっきナマエと会ったんだけど、なんかあったのか?」
すごい勢いで走ってたぞと寄越された言葉に、ああ、とマルコが声を漏らす。
「会ったのかい。どんな顔してた?」
座ったままで問いかけると、どんな? と首を傾げたエースが、少しだけ自分の記憶を確かめるように目を逸らして考え込んだ。
「あー……あれだ、ほら、前におれが風呂に連れてこうとしたときみたいな…………マルコ、何かしたのか?」
どうやら記憶を探りながら言葉を零していたらしいエースが、そこではたと気付いたようにマルコへ向けて問いかける。
その目がマルコを観察するように注がれたのを見上げて、何にもしてねェよい、とマルコは肩を竦めた。
確かに少しからかいはしたが、マルコはナマエに指の一つも触れていない。
だからこそのマルコの回答に、しかしエースが胡散臭そうに視線を注いでいる。
何だいおれが信じられねェのかよい、とそれへ言葉を投げようとしたところで、どたどたと何かが通路を駆ける音がした。
「マルコ!」
言葉と同時に扉が大きく開け放たれ、騒がしいその音に驚いたらしいエースが、うお、と声を零す。
それを聞いてすぐに室内のエースに気付いたらしい騒がしい青年が、片手に何かを抱えたまま、肩で息をしながら、室内へ踏み込もうとしていたその足を止めた。
「え、エース……?」
何でここに、と言いたげなその視線に、エースが机の上のひときわ大きい酒瓶を指差す。
「これ持ってきたんだよ。赤髪からだって」
「赤髪……シャンクス……?」
さすがに常識に疎いナマエでも四皇の名前は知っているのか、ぱちりと驚いたようにナマエが瞬きした。
どうして四皇が、と言いたげなその顔にエースが笑って、ぽん、と軽く酒瓶を叩く。
「マルコとあいつ、仲良いんだってよ」
「よくねェよい」
酷い誤解にマルコがぴしゃりと否定すると、ナマエがどうしてかわずかに目を見開いた。
それから、すぐにマルコとエースからその目が逸らされて、室内をきょろりと確認する。
そして、二人だけであることを確認した上で、恐る恐ると言いたげにその視線がマルコとエースへ戻された。
「じゃ……邪魔した?」
そうっと問いかけられた言葉に、マルコとエースが顔を見合わせる。
何の話だとマルコが先に問いかけると、何でもない、とナマエは慌てて首を横に振った。
それから、ふらりと踏み出した足が室内へと侵入して、その手が支えていた扉が改めて閉ざされる。
大きな荷物を抱えたナマエを見やって、その抱えている袋の端から覗いたカラフルなリボンに中身が何なのかに気付いたマルコが、にやりと笑って足を組んだ。
傍らの机に肘を置き、頬を支えながら、何持ってんだい、と分かりきった問いかけを口にする。
それを聞き、マルコの方を見やって息を吸い込んだナマエが、それから意を決したように顔を引き締めた。
「マ、マルコ」
「よい」
「た! 誕生日、おめでとう!」
言葉を放ちながら、袋から取り出した物をナマエが両手で差し出す。
店員が女だったのか、女性的な色合いの包装紙とリボンが使われた『贈り物』に、マルコの左手が伸ばされる。
掴んだそれは大きさの割に軽いようで、マルコは簡単にそれを自分の膝の上へと乗せることが出来た。
まだ『誕生日』までは日があることだし、贈り物を用意されているとまでは思わなかった。
軽くその手で包みを撫で、にんまりと笑ったマルコの方を見やったエースが少し呆れたような顔をしているが、まあ問題はない。
「ありがとよい、ナマエ」
当日にもまた言ってくれよい、と言葉を放ったマルコに、ナマエはこくりと一つ頷いた。
end
戻る | 小説ページTOPへ