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0406

 今日は俺が腕を奮う日である。

「…………いや、ナマエ……作りすぎじゃねェかい」

 気合を入れて作り上げたそれを見あげて、マルコが少しばかり呆れた声を出した。

「そうか?」

 軽く首を傾げて、俺もマルコの隣からそれを見あげる。
 甲板に置いた大きなその塊は、誰がどう見たってケーキだった。
 一度だけ元の世界にいた時に作らせて貰ったウェディングケーキを元に、ただひたすらにでかくでかくしたものだ。
 何せ貰う相手が相手なのだ。大きいに越したことはない。
 俺の掌より大きいチョコレートプレートに書いた名前を見やって、ほら、とそれをマルコに差し出す。

「届かないから、上に置いてくれ」

 言葉も共にかけると、しげしげとチョコレートプレートを眺めたマルコが、わかったよい、と呟いてそれをケーキの上へ置いた。
 すぐに手を引っ込めたマルコは、自分の手についてしまったクリームを見やってぺろりとそれを舐める。

「甘さ控えめにしたんだがどうだ?」

「……悪くねェよい」

 つまみ食いに値するが、でかくしたんだから上に物を載せるときにそうなるのも仕方ないので見逃すことにした俺の問いに、マルコが呟いた。
 美味しくないとは言わなかったから大丈夫だろうと判断して、それなら良かった、と俺は笑う。

「生クリームが余ったから、今度マフィンかクレームダンジュでも作るよ」

「クレームダンジュってのは食ったことねェない」

「じゃあクレームダンジュにするか」

「………………よい」

 俺の言葉に少しだけ周囲を見回してからこくりと頷いて、マルコの目がこちらを見やった。

「それで、その手のは何だよい」

「ケーキだよ」

「見りゃわかるよい。じゃなくて、ケーキはこれだろい?」

 巨大ケーキを指差しつつ、マルコが怪訝そうな顔をして見つめてきたのは俺が手に持っている普通サイズのケーキだった。
 細いろうそくを何本も立てたそれを見つめるマルコに、材料が余ったから作ったんだ、と答える。

「だから、ろうそくを吹き消すのはこれでやってもらおうと思ってな」

 あんな大きいケーキにろうそくを立てていたら、火をつけるのが大変だ。
 俺の言葉に、マルコが首を傾げた。

「ろうそく?」

「…………ん?」

 とてつもなく不思議そうなマルコを前に、俺も軽く首を傾げる。
 誕生日と言えばバースデーソングとケーキとろうそくとプレゼントだろう。
 どうしてそんな不思議そうな顔をしているのかとその顔を眺めて、は、と気付いて口を動かす。

「…………マルコ、もしかして誕生日にろうそくを吹き消す、って知らないのか?」

「知らねェよい」

 俺の言葉を、こくりと頷いたマルコが肯定した。
 カルチャーショックっていうのはこういうものを言うのだろうか。
 衝撃を受けて思わずケーキを取り落としそうになったのを、慌てて堪える。たべものを犠牲にするなんて勿体無さ過ぎる。

「あー…………ろうそくに火をつけて、みんなでバースデーソングを歌って、最後にケーキに立てたろうそくの火を誕生日の人が吹き消すんだ。吹き消すときに願い事をしておくと、その願いが叶うらしいぞ」

 とりあえず自分が知っている限りで説明すると、なるほどよい、と頷いたマルコが、それからもう一度首を傾げた。

「……で、バースデーソングってのは何だよい」

「……………………ああ、うん」

 寄越された言葉に、色々と諦めた俺は、その日初めて音楽教師の真似事をした。
 むしろ幼稚園の保育士の真似事だったかもしれない。
 その日の夜、大きな鯨の姿をした船で、野太い男たちの声が揃って『ハッピーバースデーディーアオヤジー!』と叫んだことだけは、ここに記しておきたいと思う。
 グラララと笑った船長殿は、この上なく幸せそうで嬉しそうだった。



end


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