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100万打記念企画SSS
※ジンベエさんと海兵



 俺が思うに、あの魚人は王下七武海の良心だと思う。
 正義の味方だとは言わないが、実際の『若い頃』を知らない俺からすれば、あまり悪事を働かない『いい』海賊だ。

「なんじゃ……まだわしだけか」

「はい、そのようです」

 案内した会議室を一瞥して腕を組んだ相手へそう答えて、どうぞ、と扉を開いたままで佇んだ。
 俺の促しを受けて室内へと入っていくその体を見送って、自分も室内へと足を踏み入れる。
 椅子に座る様子を横目で見ながら部屋の端へ移動して、そこに用意してあったカートをすぐに彼の傍まで運んだ。
 本当なら給仕の仕事だが、王下七武海の近くで作業させるわけにもいかないと言う上の判断で、海兵の当番制になっている。
 確かに、彼や『暴君』ならともかく、サー・クロコダイルや天夜叉相手に給仕をして何か粗相をしでかせば、何をされるかも分からないから仕方ない。

「お茶でよろしかったですか?」

 カートを傍に置いて尋ねると、テーブルの上に並べられていた書類を軽くつまんだ彼が、大きな牙の目立つその顔をこちらへ向けてから、ああ、と軽く頷いた。
 それを聞き、すぐ用意したお茶を彼の前へと置く。
 ついでに、きっと今回も彼が一番だろうと思って用意してあった茶請けも一つ、その隣へ置いた。

「小さいですが、よろしければ」

 俺の生まれた『あの世界』でも『この世界』でも饅頭と呼ばれる小さな和菓子に、彼の目が向けられた。
 礼を言いながらその手がひょいと湯呑を掴み、飲みやすい温度になっているだろうそれを軽く啜ってから、もう片方の手で茶請けの饅頭をつまむ。
 小さなそれはたった一口でその口の中へと消えていき、甘味を味わったあとでもう一度湯呑に口を付けた彼は、それからちらりとこちらを見やった。

「…………お前さん、この前もおったな」

「はい」

 寄越された言葉に、一つ頷く。
 前回の王下七武海の召集の時に、きちんと来訪の一報を返して来たのは彼と暴君の二人だけだった。
 とはいえ、突発的にやってくるだろう他の王下七武海を怖れてか、その給仕係に立候補する海兵はあまりいない。
 それを見越して、俺は前回も給仕係になれるよう立ち回ったのだ。
 その時も俺が淹れた茶を飲んでくれた彼は、ほとんど中身の無くなった湯呑を置いてから、軽く顎に手を当てた。

「あの時に出た茶請けは、ヨーカンと言うたか」

 呟く言葉へ、そうですと頷く。
 全ての魚人がそうなのかは分からないが、少なくとも王下七武海である彼は、甘いものが嫌いでは無いらしい。
 和風の味わい恋しさに俺がワノ国専門店から買い求めた和菓子は甘味が強いものが多いが、今日も前もその前も、その口でしっかりと食べてくれていた。

「お気に召しましたか? もしそうなら、次はそちらにしますが」

 だからそう述べると、ぱち、とすぐ傍で丸いその目が瞬きをする。
 やや置いて、少しばかりその眉が寄せられて、彼は窺うようにこちらを見つめた。
 どうしたのだろうかとそれを見つめ返せば、しばらくそうやって視線を交わした後で、何に疲れたようにその目が逸らされる。

「…………お前さん、何というたか」

「自分はナマエと申します」

 誤魔化すように寄越された問いにきびきびと返事をすると、そうか、と彼が一つ頷いた。
 覚えておこう、と呟かれたのが何だかとても嬉しくて、ありがとうございます、と返した言葉の弾みようが我ながら恥ずかしい。

「何じゃ、変な奴じゃのう」

 ちょっと顔を赤らめてしまった俺を見やり、そんな風に言った彼が笑う。
 その顔はどことなく優しげで、俺も思わず顔がゆるんでしまった。



end


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