100万打記念企画SSS
※レイリーさんと人魚に転生したトリップ主人公
「……ナマエ、『ここへは来るな』と何度言えば分かるんだ?」
「だって会いに来てくれないレイリーさんが悪い」
呆れたように言われて、俺はそう主張した。
体の半分をシーツで覆い隠して、上着だってしっかり着込んだ俺の向かいでは、シャッキーさんが微笑んで煙草の煙を零している。
近寄ってきたレイリーさんが俺の手からシャッキーさんの淹れてくれたアイスティーを奪い取って、俺の手の届かない場所へと置いた。
「人攫い屋のいい獲物だ」
「男の人魚ってそんなに価値ないんじゃない?」
女の人魚ならその美しさから狙われるのもまあ分かる気がするけど、だって俺は男なのだ。
胸だって平たいし、と軽く自分の胸へ手を当てたところで、物好きはどこにでもいるんだとレイリーさんが呟く。
その台詞に少しだけ胸が痛んだ気がしたけど、俺が顔をしかめるより早く、ひょいと体が持ち上げられた。
「送って行くから、さっさと海へ戻りなさい」
言いつつレイリーさんは俺を抱えて歩き出している。
せっかくハチに運んでもらったのに、どうやらもう地上とはお別れのようだ。
じゃあねシャッキーさん、と軽く手を振ると、またいらっしゃいねと彼女が優しく返事をくれた。
建物を出て、海へ向かって歩くレイリーさんに両手で抱き上げられながら、少し揺れる視界でヤルキマングローブがふわふわとシャボンを飛ばす様子を眺める。
綺麗だな、なんて思いながらそれを見上げていたらすぐに海へ着いたようで、全く、と言葉を零したレイリーさんが俺の体を両手で支えて少しばかり体から離した。
「ちょっと助けて貰ったくらいで、海賊に懐くんじゃない」
私が良い人間だとは限らないだろう、と続いた言葉に、軽く首を傾げる。
「大丈夫、レイリーさんは主人公の味方だからいい人だよ」
そうしてそう返事をしてしまうのは、俺が『前世の記憶』とやらを持っているからだった。
『この世界』が『漫画』だった『あの世界』で読んだ限り、レイリーさんは『いい海賊』だった。
だからきっと、海賊に追われていた俺を助けてくれたのだ。
すごくすごく嬉しくて、だからずっと一緒にいたくて告げた言葉は信じて貰えないまま、俺は毎回やきもきしている。
確かに俺とレイリーさんは結構な年離れてるけど、もう少し俺の言うことを真剣に取ってくれたっていいのに。
早く帰りなさい、とため息交じりに言いながらそっと海の中へ降ろしてくれたレイリーさんを見上げて、離れて行こうとしたその手を掴まえた。
「ねえ、レイリーさん」
「何だね?」
「好きだって、あと何回言ったら信じてくれる?」
男同士だけど、種族だって違うけど、こんなに年齢も離れてるけど。
『そういう意味』で大好きですって俺はしっかり言ったのに、レイリーさんは振ってもくれない。
じっと見上げた先のレイリーさんは沈黙を保ったまま何も言ってくれなくて、小さく息を吐いてその手を放した。
「……今度はすごくきれいなの、持ってくるから」
指輪でも作って、それと一緒にレイリーさんへ告白してみよう。
レイリーさんは海賊だから、きっと綺麗なものだって好きな筈だ。
俺の言葉に返事をしないレイリーさんへ、またね、と軽く声を掛けて、それから海の中へと潜っていく。
グランドラインの海の中は相変わらず綺麗で、シャボンでコーティングされた船達の死角に入るように気を付けながら魚人島を目指していった俺は、だから。
「…………信じてはいるんだがね。こんな年寄りを相手に、愚かなことだ」
海面を見つめながらそんな風にレイリーさんが呟いたことを、知らなかった。
end
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