100万打記念企画SSS
※ほぼミホーク不在
※主人公は何気にトリップ系男子
クライガナ島のシッケアール王国跡地。
何だかいろいろと言いたいことが思い浮かぶこの地名を得た場所が、今の俺の生活圏だ。
何故なら、俺を拾った誰かさんが、俺をここへ連れて来たからである。
「……お、出かけるのか」
住んでいる人数からは考えられないくらいに広い城の窓ガラスを磨いているところで、ふと見えた中庭に気付いて手を止める。
風を通すために軽く開いた窓から見下ろせば、手入れのあまり行き届いていない中庭を突っ切っていく緑色の頭が見えた。
随分昔に読んだ『漫画』で『マリモ』だの『藻』だの言われていたのを何となく思い出して、少し口が緩んだのを感じる。
いくらか俺が知っていた未来をなんともあっさりと通り過ぎて、ロロノア・ゾロが鷹の目と呼ばれる王下七武海に弟子入りしたのは数か月前のことだ。
自主的な鍛練も怠らない彼は、どうやら今日は城から少し離れたところで鍛練を行うつもりらしい。
また迷子になって帰ってこないんじゃないか、なんて思いながら見下ろしていたら、ふわりと宙を漂うように現れた女性が、片手に傘を持ったままで何かをロロノア・ゾロへ怒鳴っている。
窓の位置が高いせいでその声はよく拾えないが、多分また、『一人で出かけるな迷子になるだろ!』とでも言っているんだろう。
我儘な癖に面倒見の良いペローナは、ロロノアが来るしばらく前にこの城まで飛ばされてきた女の子だ。
可愛らしい恰好で可愛い我儘を言って騒ぐ彼女が来てから、この城は格段に騒がしくなったと思う。
今みたいに率先して彼の世話を焼くし、かと思えば、この城の家事の殆どを任されている俺の手伝いもしてくれる。結婚もしないうちから父性と言うのがわくとは思わなかったが、娘がいたらこんな感じだったんだろうかと思ったこともあった。『一回だけお父さん大好きって言ってみてくれ』と言ったらとてつもなく酷い顔をされたのでとんでもなく傷付いたことまで思い出して、はは、と小さく笑いを零す。
それから、さっさと窓の手入れを終えようと、手にしていた布を握り直した。
この部屋の片づけが終わったら、四人分の昼食を作るのだ。
俺は簡単な料理しか出来なかったし、ミホークは何の文句も言わなかったから少ないメニューのローテーションだったが、ペローナが注文を付けたりレシピ本をミホークに要求して俺へ押し付けるようになってから、レパートリーもずいぶん増えた。
今日は何を作ろうか、などと考えながら手を動かして窓を拭いて、最後の一隅の汚れを擦り落とす。
「……よし」
満足いく美しさになった窓を前に一つ頷き、次は床を掃くか、と窓から離れかけたところで、ふと視界の端に何かが過る。
目を引いたそれを追いかけてもう一度中庭を見下ろした俺は、城から出ていくもう一人を見つけることが出来た。
ロロノア・ゾロを呼び止めて説教を続けているペローナとそれを仕方なさそうに聞いているロロノア・ゾロの方へ近寄っていく人影は、この城の主でもある大剣豪の物だ。
「……何だ、今日は稽古をつける日だったか」
その背中の夜へ手を伸ばしたミホークに、呟きながら指を折り曲げて日付を数える。
まだ一週間も経っていないが、ロロノア・ゾロならそろそろ傷も回復しただろう。
ペローナが慌てたように距離をとるのと反比例して、緑頭の剣士が片手を自分の腰へと動かす。
高い場所から見ても楽しげな顔をしているのが雰囲気で分かって、思わず小さく笑ってしまったら、ミホークが少しばかりその顔を動かした。
「ん?」
交わす言葉も聞こえないくらい離れているのに、何となく目があった気がして首を傾げる。
すぐにミホークは視線をロロノア・ゾロへ向けたので、もしかしたら気のせいだろうか。
よく分からないが、ミホークともう一人が真剣な様子で剣を構えたので、何となくその様子をその場から眺める。
始まった二人の斬り合いは本当に『稽古』なのかと問いたくなるようなものだったが、互いに譲らぬ真剣勝負に、思わず視線が集中してしまう。
「コラ! ナマエ! お前なんでこんなところで見てるんだ!」
しかし、ふわふわと飛んできた幽体の彼女に遮られて、それもすぐに見えなくなってしまった。
『お前が見てるとアイツの気合いが入るから怖いんだよ!』と声を上げたペローナの目に少しばかり涙が浮かんでいたような気がしたが、それは俺のせいではないと思う。
end
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