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海賊王生誕祭/ロジャー (1/2)
!注意!
※未来でのロジャー×ルージュが前提です
※赤の伯爵(ゲームキャラ)がちらっと名前だけ出るので注意?





 あの人が欲しいなんて、太陽を欲しいと言うようなものだ。

「よォ、ナマエ、何してんだ?」

 声を掛けられて顔を向ければ、赤い顔をしたこの宴の主役が、ふらふらと歩んで近寄ってきたところだった。
 別に何も、と肩を竦めた俺の横にどかりと腰を下ろして、笑ったその手には酒瓶が握られている。
 年の瀬に攻め込んできた白ひげ海賊団持ち込みのそれは随分といい酒だったらしく、ロジャーは上機嫌だ。
 その様子を眺めながら手元のコップを自分の口に当てて中身を一口飲んで、はあ、と軽く息を吐いた。

「あいっかわらず、この船の酒は強い」

「だっはっは! お前ェが弱ェのしか飲んでこなかったんだろうが」

 しみじみ呟いた俺の横で、我らが船長がそんなことを口走っている。
 それと共に伸びてきた掌に腕を掴まれて、まだ中身の入っているグラスごとぐいと引っ張られた。

「あ、」

「折角の宴なんだ、飲め飲め!」

 楽しそうに言いながら、ロジャーがもう片方の手で持っていた酒瓶を傾ける。
 明らかに違う銘柄の酒がそこで混ざって、解放された俺の手にあったグラスにはまたもなみなみと中身が満たされていた。

「……頑張って飲んだのに……」

「たまには羽目を外せ! ナマエはいっつも端っこでちびちび飲んでやがるからな、イケる口のくせによォ」

 呟く俺に笑って言い放つロジャーは、何とも酷い船長だ。
 さっきまで口を付けていた酒瓶は俺に残りを寄越したことで空になったらしく、そのまま酒瓶を呷ろうとしてそれに気付いたロジャーの動きが止まり、俺と自分の間にその空瓶を置いた。
 それから、俺の腕を手放した掌で俺の肩を掴まえて、ぐいと俺に体重を預けるようにしながら立ち上がる。
 酒を寄越せ! なんて笑っていいながらふらふらと宴の真ん中に移動していく背中を見やってから、やれやれ、と俺はもう一度ため息を吐いた。
 今日は年の瀬で、ロジャーの誕生日だ。
 俺がこの船に乗ってから何回か行われている今日という日の宴は、今年も随分と派手だった。
 ロジャー達と同世代だと言う海賊達がこぞって酒だの何だのを持ち込んだ船の上はすでに酔っ払いでいっぱいで、横づけにされた白鯨の船や『金獅子』の海賊船、横取りしてきたと言う海軍の船の上にも人が随分とたくさんいる。
 俺が知っている限り、よその船長達にまで誕生日を祝われるのはロジャーくらいなものだろう。
 船長達はそれぞれ何かを言いながらオーロ・ジャクソン号の上で酒を食らっていて、近寄ってきたロジャーに『白ひげ』から酒瓶が放り投げられ、受け取ったロジャーがそのまま座り込んだ。
 『金獅子』に話しかけられて返事をして、『赤の伯爵』に話しかけて笑うロジャーに、もう戻ってきそうもないな、なんて思いながら、さっき取り分けてきた皿の上のつまみをかじる。
 俺の周りには海賊がいっぱいで、何年か前のあの日この世界へやってくるまで、自分がこんな状況になりえるだなんて考えたことも無かった。
 訳も分からないままこの世界に落下し、どうやって生きていけばいいのかも分からないまま無人島で呆然としていた俺のところへ落ちてきたのはロジャーだった。
 自分は『ゴール・D・ロジャー』だと名乗った男に、可哀想に頭がおかしくなったんだなコスプレまでして、と思ってしまったが、俺は悪くないだろう。
 だってそれは、学生時代しかその漫画を読んでいなかった俺だって知っている、とあるキャラクターの名前だったのだ。
 アニメでだって、出番も無いのにオープニングの冒頭などでよくその名前が呼ばれていた。まあ出番のなさのわりにオープニングに出ていたという点では、さっきまで何人かのクルーを巻き込んでバギーと騒いでいたシャンクスにも言えることだが。
 とにかく、俺と同じようにどこかから落ちてきて頭がおかしくなったんだと思っていた『ロジャー』が『本物』だと知ったのは、海賊船がロジャーを迎えに来てからだった。
 つまり、この世界は『ワンピース』の世界で、俺にとっての『異世界』で、俺は帰り方もどうやってここへ来たのかすらも分からなかった。
 空島からの帰りで船からうっかり落ちたんだと笑っていた恐るべきロジャーは、帰りたいがどこに帰るべき場所があるかも分からないと言った俺を、あの無人島から連れ出してくれた。
 帰り方が分かるまでオーロ・ジャクソン号に乗っていればいいと言われたあの日から、俺は『ロジャー海賊団』の下っ端クルーの一人としてこの船に乗っている。
 ただの社会人で身を守るすべすら知らなかった俺は弱く、全く海賊らしくはなれないが、一応俺も、今ではいっぱしの海賊だ。
 帰り方が分からないと戸惑って、怯えて、困惑していたのは、もう随分と前のことだった。
 今の俺は『帰り方』すら探そうとしていないと、多分ロジャーは気付いてもいないだろう。

「…………あ、しまった」

 そんなことをぼんやり考えてから、ロジャーの背中を眺めていてふと思い出し、思わず声を漏らした。
 そのままごそりとポケットを探れば、掌で覆えるほど小さい袋に触ることが出来る。
 ロジャーが寄ってくることがあれば渡そうと思っていたそれは、俺からロジャーへの誕生日プレゼントだ。
 しばらく前の島で見かけたそれはただの菓子で、欲しいものは自分で手に入れる主義のロジャーに何を渡せばいいか悩みに悩んでどうにもならなくなった俺が、いっそ消え物にしようと決めてから選んだものだった。
 ロジャーは大体の食べ物を喜んで食べるし、甘い物だって嫌いでは無いようだったから選んだ奴だ。
 さすがに他のクルーや海賊達に注目されながら堂々と渡せるほど心臓は強くないので、こっそりと渡すつもりだったのだが、うっかりしていた。
 まあ、乾杯した時に『おめでとう』は言ったし、リボンだってつけていない。もしもロジャーに渡せなかったらそれはそれとして、俺が食べてしまえばいいことか。
 そんな風に結論を付けて、ポケットから手を出しながら手元のグラスを見下ろす。
 先ほどロジャーに他の酒と混ぜられてしまったそれからは、強いアルコールの匂いがした。
 軽く嗅いだそれを確認して眉を寄せてから、一先ずグラスに口を付ける。
 衛生面を考えるとロジャーが口を付けていたものを飲むのは少しよろしくない気がしたが、まあいいかと思える程度には俺も酔っているらしい。
 口を付けたグラスの中身の強烈な辛味に眉を寄せつつ、更に一口二口と飲み進める。
 じわりと胃が温かくなって、さすがに一気はまずいかと眉を寄せつつ口を離したところで、頭の上に影が掛かった。

「何だ、不味そうな顔しやがって」

 けらりと笑う声も一緒に落とされて、目を瞬かせて顔を上げる。
 そこにはいつの間にか、先ほど俺に背中を向けて離れて行ったはずのロジャーが立っていて、俺に目視されてにやりと笑ったその体が俺の前に座り込んだ。
 投げ出した足に蹴られてしまった片足を折り曲げて、もたれていた背中を伸ばしながらロジャーを見やる。

「……ロジャー?」

「おう」

「何してるんだ?」

 つい先ほど、船長だけで固まっている何とも近寄りがたいあの辺りに移動して行った筈のロジャーが、どうして目の前に座っているのだろうか。
 戸惑う俺を前にして、ロジャーはにやにやと赤ら顔で笑ったままだ。
 何とも楽しそうで嬉しそうで仕方ない顔をしているロジャーに、ますますよく分からず首を傾げる。
 俺の視線を受け止めて、先ほど『白ひげ』に頂いた瓶に口を付けたロジャーが、それの中身を軽く呷った。

「はー……あそこにずっといちゃあ、おれァ酒漬けにされちまうだろうが。避難させろよ」

 酒を飲んだ後で息を漏らしてから、言葉を放つロジャーに成るほどと頷く。
 顔が赤くなるし歩みもおぼつかなくなるものの、まだろれつは回る分素面に近いらしいロジャーは、このままだと潰されかねないと考えて逃げて来たらしい。
 『金獅子』や『赤の伯爵』が酒に強いのかは知らないが、漫画で読んだ限りだと、確か『白ひげ』は恐ろしく酒好きだった気がする。まああの巨体だ、ロジャーより量を飲んでも仕方ないが、同じ量を飲むよう仕組まれたら、さすがのロジャーでも潰れてしまうだろう。
 うむと納得の頷きをしてから、目の前にロジャーがいると言う事実に、俺は一度周囲を見回して、酔っ払いだらけの船の上にこちらへ注意を払う者が居ないことを把握してからポケットを探った。
 包みを取り出すと、酒瓶を下へ置いたロジャーが、俺の皿からつまみをくすねようとしていた手を止めて不思議そうな顔をする。

「ん? どうした、ナマエ」

「アンタにあげようと思って」

 問われた言葉に返事をしつつ、包みを開く。
 船旅に備えて長期保存が可能らしい菓子が開口から顔を覗かせて、少しだけ甘いにおいがした。
 それをそのまま差し出せば、つまみを諦めた手が俺からそれを受け取る。
 不思議そうな顔のままそれを見下ろしているロジャーを見やってから、手を降ろした俺は言葉を紡いだ。



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