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優しくしてね
※時間軸が捏造気味



「ナマエ〜、飲んでっか〜」

「はいはい」

 ふらふらと近寄ってきた酔っ払いに絡まれて、ナマエはひとまず返事をした。
 その手に持っているグラスにはぬるい茶が入っているだけだが、横で見てもそれに気づかないエースが、そうかそうかとけらけら笑う。
 そしてどかりとそのまま隣に座り込んで、ナマエと同じ皿から二つ三つほど食べ物を口にした。
 水も飲むか、と尋ねて『いらねェ』と返され、ため息を零したナマエは、恐ろしいことになっている甲板を見やる。
 今日は、不死鳥マルコの誕生日であったらしい。
 人数が多い白ひげ海賊団では、誕生日を祝って宴を執り行うのは、隊長格の十数人と船長のみだ。
 そうしてその一人である本日の主役は、ナマエたちから少し離れたところでなんやかんやと周囲に構われ酒を飲んでいる。
 船長に対しても『飲みすぎだ』と注意をしたいところだが、マルコのアレは一体どうやってその体に収まるのか尋ねたいほどの飲みっぷりだ。

「……すっげェよなァ……」

 ナマエの隣に座り込んだエースが、先ほどまで自分がいたあたりに誰かが座っているのを眺めながら、ぽつりとそんな風に呟く。
 そちらへナマエが視線を向けると、酔っぱらってぼんやりした視線をマルコ達の騒いでいる方へと向けたエースが、更に口を動かした。

「たんじょーび、祝ってもらえるってよ〜」

 呟くその顔にはわずかな羨望すら滲んでいるように見えて、ナマエは首を傾げた。
 少し考えてから、その手がぽんぽんとエースの肩口を叩く。

「お前の誕生日もこんなもんだろう、エース。一月一日だったか」

 つい最近『二番隊隊長』になったエースへそう言い放つと、エースがちらりとナマエを見やった。
 何かを言いたげな顔をした彼にナマエが首を傾げたのを見て、やや置いてからエースの顔にへらりと笑みが浮かぶ。
 いつもの快活な彼にしては弱弱しいそれに、ナマエがぱちりと瞬きをした。

「……もしそうなるんなら、たのしみだなァ」

「エース?」

「よし! おれと勝負だビスタァ!」

 けれどもどうしたのかと尋ねる前に、立ち上がったナマエはそのままビスタの座っている方へと駆けていく。
 酔っているがゆえに手前で一度転んだ彼を、慌てて受け止めたクルー達の何人かが叱ったり笑ったりしていた。
 見送る格好になってしまったナマエが、一体どうしたのだろうかと首を傾げたところで、傍らから恐ろしく強烈な酒の匂いが漂い始める。

「…………うわ、マルコ」

「なんだよい、うわって」

 思わずそちらを見上げれば、先ほどまで騒がしく酒を飲みまくっていたマルコが、少し据わった目つきでナマエを見下ろしていた。
 体から随分と酒の匂いが漂っている。あれだけ飲んでいたのだから当然だろう。
 その割に体の動きににぶりはなく、ひょいと先ほどまでエースのいたあたりに座る様子にも普段との違いはない。

「……酒、強いんだな」

 それを確認して呟いたナマエに、お前は弱いみたいだねい、と言い放ったマルコがナマエのグラスを見やった。

「せっかくなんだから飲めよい」

「いや、俺には明日の大事な仕事があるから」

 言いつつ酒を注いで来ようとする相手へ断って、マルコの手から酒瓶を奪い取ったナマエが、それをマルコの握るグラスへと注ぐ。
 仕事ってなんだよい、と呟くマルコに、ナマエの視線がちらりと周囲を見回した。
 広い甲板には、相変わらず酔っ払いがひしめき合っている。
 この分では、明日の二日酔い患者数は随分なことになるだろう。
 船医としてこの船に籍を置くナマエは、明日、その対処をしなくてはならないのだ。
 あえて口が曲がりそうなほど苦い薬を出しているのだが、文句は言う癖に誰も改めようとはしてくれない。
 酒を飲むなとは言わない。船長からして酒好きだ、飲まないでいることなどありはしないだろう。
 けれども、できれば加減や限度を考えてくれないだろうか。
 一度か二度進言しては却下されてきた思いを胸に抱きつつ、ナマエがマルコへ視線を戻すと、不思議そうにしながらもマルコがグラスの中身を口にしていた。
 言動は普段と変わらないが、額まで赤くなったその顔を見れば、酒が入っていることは一目瞭然である。
 この場で一番飲んでいるのは彼であるので、明日は一番初めに薬湯を出してやろう、とナマエは決めた。
 明日は誕生日の翌日であることだし、特別にあまり苦くないものを作ってやろう。何も用意できなかったナマエからの、せめてもの誕生日プレゼントだ。

「……誕生日おめでとう、マルコ」

 言い放ったナマエの横で、一番最後の誕生日プレゼントが何になるかなんて知りもせず、ありがとうよい、とマルコが笑った。


end


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