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いわゆる愛の一つ
※微妙に異世界トリップ主人公(戦争編終了くらいまでの知識な感じ?)
※コミックス最新刊ネタバレ?もあり
※シュガーの能力が若様に作用していない捏造あり



 庭師が来たと報告を受けて、ドフラミンゴはすぐに私室にしていた部屋の窓から庭へと飛び降りた。
 ばさばさと着込んだコートを揺らして降り立った人影に、驚いた様子も無く庭師が振り返る。

「こんにちは、国王様」

 言葉を放ちつつも、どう見ても気落ちしたその顔に、ドフラミンゴは軽く肩を竦めた。
 相変わらず、ナマエは失礼な男だ。

「そんな顔するなよ、傷付くじゃねェか」

 笑いながら言い放ってのしのしとドフラミンゴが近づけば、いくつかの道具を広げて庭木の一つに向かっていたナマエは、だってモネさん達じゃないですし、と呟いた。
 最近城へ出入りするようになったこのやとわれ庭師が、女好きであることはドフラミンゴも知っている。
 特に美人が好きだと言葉を放ち、モネやベビー5やヴァイオレットを相手に笑顔を振りまくナマエは、基本的にドフラミンゴを前にしたときには今のような少し暗い顔をしている。
 特に今日はドフラミンゴが城内の女へ『近づくな』と言い渡してあるので、庭へ来る間も誰にも遭遇できなかったのだろう。

「むしろ、何で国王陛下がわざわざ庭師の様子を見にいらっしゃるんですか? 普通は、せめてベビー5さんとかヴァイオレットさんとかだと思います」

 片手で大きな鋏を持ちながら言葉を投げられて、ドフラミンゴが首を傾げた。

「何だァ? おれが邪魔か」

 尋ねながら威圧するように見下ろせば、いえ、と答えた弱いナマエが簡単にドフラミンゴから目を逸らす。
 その代わりにその手が道具の横にあった薄手のシートを掴み上げ、それをそっとドフラミンゴの方へと差し出した。
 手を動かしてそれを受け取り、ドフラミンゴがそれを自分の後ろへ放り、そのままその上へと座り込む。
 以前は直接腰を下ろしていて、『汚れますよ』とドフラミンゴへ毎回注意をしていたナマエも、今はただ座る場所をドフラミンゴへと提供するようになった。
 もう少し柔らかければ言うこと無いが、そこまで贅沢を言っても仕方がない。
 そのうちベンチでも作らせるか、と座り込んだままそんなことを考えながらドフラミンゴが見やった先で、ナマエがドフラミンゴへ背中を向ける。
 そのまま仕事を始めたナマエを見やってから、ドフラミンゴは自分の膝に肘を乗せて頬杖をついた。
 しばらく、伸びた枝を落とす作業を繰り返している小さな背中を見やってから、やがてドフラミンゴの口が言葉を零す。

「そういや、この間言ってた女はどうなった?」

 前回この庭を訪れた時、世間話を振ったドフラミンゴへナマエが言っていたことを、ドフラミンゴはちゃんと覚えていた。
 気になる女性がいるんだと言って、誘ったらデートに応じてくれたとあの日のナマエは随分と浮かれていた。
 あの後、二人はどうやら親しい仲となったらしいことも、ちゃんと調べて知っている。
 しかしドフラミンゴの言葉に、その背中を向けたままでナマエが首を傾げた。

「『この間』?」

 それから手を止めて、ちらりとその顔がドフラミンゴを振り返る。

「……俺、そんな話しましたっけ?」

 尋ねながら、向けられたのは何とも不思議そうな視線だった。
 その様子に、ドフラミンゴがその唇をつり上げる。
 問題なく『措置』は行われたようだ。命じたのだから当然だが、こうもあっさりと済んでいると、おかしくて仕方ない。
 フッフッフ! と笑いを零してから、ドフラミンゴは軽く両手を上げて見せた。

「いいやァ、悪いな、おれの勘違いだったみてェだ」

「? そうですか」

 ドフラミンゴの言葉に不思議そうにしながらも、それは『いつものこと』だったので、ナマエはあっさりと納得を示す。
 そうしてまた作業に戻り、庭木の一本が美しく整えられた。
 よし、と小さく声を漏らして鋏を降ろしたのを、ドフラミンゴが後ろから眺める。

「うまいもんだなァ」

 箒で落とした枝を掃き集めるナマエへ言葉を投げれば、そりゃ本職ですからね、とナマエは作業をしながら頷いた。

「いやあ、手に職があるっていいことですよ国王陛下。おかげで食うには困りません」

 なんともしみじみと言葉を放つナマエに、そういえば彼が『移民』であったことをドフラミンゴは思い出す。
 トレーボルへできる限りの調査をさせたが、ドレスローザへ来る前のその足取りはまったく分からなかった。
 まるである日突然町中に現れたかのように、ナマエはこの島に存在している。
 最初は何人かの女性の世話になって、今はきちんと自立して庭師として生計を立てているのだ。

「わざわざ海賊がおさめる国へ来るたァ、変わった野郎だ」

 呟いたドフラミンゴへ、それご自分でおっしゃります? とナマエがわずかに笑った。
 そこでちょうど足元を吐き終えて、塵取りで持参した麻袋へ庭木の枝や葉を片付ける。

「不可抗力だったから仕方ないんです。……それに、ドレスローザは美人が多いですから……!」

 まるで世の理を語るように言い放ち、それからナマエはぐっと拳を握った。
 また女の話かこりねェな、とそちらを見やって言い放ち、ドフラミンゴはもう一度頬杖をつく。
 ドフラミンゴが気に入って使っているこの庭師は、随分と恋多き男だった。
 自分のせいで何人もの女性が犠牲になっていると知らないで、ナマエは女相手に愛を語る。
 『措置』を命じるたびドフラミンゴの言葉に従う部下からは、いっそのこと監禁して自分以外の誰とも会わせないでいればいいのではないかと言われているが、そんなことをすればドフラミンゴが気に入っている笑顔が失われることくらいはドフラミンゴにも分かっていた。
 ナマエが笑いかける時、そこには女がいるのだから当然だ。
 いつかはその笑顔を自分にだけ注がせるつもりではいるが、まだ今は手駒が足りない。

「そういや、前はどこに住んでたんだ?」

 情報を収集するためにどうでもよさそうな声音で尋ねたドフラミンゴへ、きちんと麻袋の口を閉じたナマエがその目を向けた。
 じっとドフラミンゴを観察して、それからふるりと首を振られる。

「……言ったって信じて貰えませんよ」

 そうして呟かれた声はどうしてか諦めを含んでいて、ドフラミンゴの首がわずかに傾いだ。

「何だ、そんなにおかしな場所か。空島か? それとも深海か」

 グランドラインは広く、常識の通用しない海だ。
 空にも深海にも島があり、そのどこにも人類が住んでいる。
 ドフラミンゴが行ったことのない場所も当然ながらあるし、ナマエの出身地はそのどこかだろうか。
 そんな風に思ってのドフラミンゴの問いに、まあそんなところです、とナマエが呟いた。
 その手が庭木を整えるための道具を持ち直し、次なる庭木のそばへと移動する。
 そうしてすぐに振るわれ始めた鋏の音を聞きながら、ドフラミンゴは軽く息を吐いた。
 どうやら、これ以上はナマエ自身の口からはきくこともかなわないらしい。
 ならば残りは、ヴァイオレットに任せるしか無いだろう。
 ナマエの心を他の誰かに覗かせるのは癪に障るが仕方ない。
 そんなことを考えるドフラミンゴの前で、ナマエが両手を動かして庭木を整えていく。
 相変わらず、その手際は見事なものだった。
 それを生業としているのだから当然かもしれないが、ナマエは庭師としても優秀だ。
 その腕を見込んで城付きにならないかと何度か打診しているものの、ナマエはなぜか首を縦に振らない。
 もしかすると、城にいれたら最後、ドフラミンゴがその自由を奪うことを何となく感づいているのかもしれない。
 ドフラミンゴの物となったなら自由などいらないのだから当然だが、今のナマエはドフラミンゴの物ではないのでそう制限することも出来ないでいる。
 いっそ四肢を落として手元に置くかと考えたことすらあった。
 しかし、そうすればナマエは当然壊れてしまうだろうことも分かったから、賢明なるドンキホーテ・ドフラミンゴはそれを実行に移そうとしたこともない。
 せめて取り外し可能にするだけなら違うかもしれないが、残念ながらオペオペの実の能力者はいま手元にいないのだ。

「………………ままならねェもんだなァ」

 ぽつりと一人で呟きながら、けれどもドフラミンゴはその顔に笑みを浮かべる。
 攻略の難しいものを攻略する方法を考えるのは、面倒ではあるが楽しいことの一つだ。
 罠を張り巡らせて自分の望む形へ追い詰めていくのも、たまらなく楽しいことだということをドフラミンゴは知っている。
 暴力で屈服させるのも心地いいが、それよりその心を丸ごと誑し込んで、女へ向けるような笑顔をドフラミンゴへ向けるようになった方が楽しいに決まっている。
 もしもそうなったなら、駄目になっても最後まできちんと懐に入れて大事にしてやるのだ。

「フッフッフ!」

「……? 今日もご機嫌ですね、国王様」

 ドフラミンゴがそんなことを考えているとも知らず、笑い声に反応してちらりとドフラミンゴを見やったナマエは、そんな風に言い放ってただ首を傾げていた。



end


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