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マルコと誕生日 2020
※『愛する藍色』設定
※主人公はNOTトリップ主で白ひげクルーで絵画が趣味



 〇月◇日がナマエの誕生日と聞いた時、マルコの脳裏に浮かんだのは青色だった。
 正確には、青い『絵具』だ。
 しばらく前、染料となる貝を大量に集めていたナマエは、いろいろなものを混ぜてたくさんの『青』を作り出していた。
 空の色にも海の色にも見えるそれらを白いキャンバスへ塗りつけて、そのたび唸っていた男はどうやら、自分が満足する色を作り出すことが出来なかったらしい。
 貝が尽きるまでやって、そこで一旦諦めたようだった。もともとナマエの『絵画』は趣味の範疇で、出来上がった絵は訪れる島で売られるか、誰かに贈られるか、もしくは最悪焚きつけになる。本人には、自分で描いたものへの執着すら感じられない。
 もう『青』を作り出すことには飽きてしまっているかもしれないが、島へ降りたマルコは画材を扱う店を訪れて、いくつかの絵具を買った。
 大量の絵具入りの容器を選んで購入できる店で、青みを帯びた色ばかりを選んでしまったのだって、仕方のないことだろう。

「ん」

 ラッピングすらもせず、紙袋に詰め込んだだけのそれを差し出したマルコに、ナマエは目を瞬かせた。
 モビーディック号がたどり着いたこの島は、いくらか海賊に友好的だ。
 船を降りたマルコが目の前の相手と出会ったのは偶然だったが、万が一にも本人がマルコと同じ買い物をしないよう、マルコは手元の荷物を相手へ押し付けることを選択した。

「え? あー……ん?」

 少し悩むような顔をしてから、それからようやく気が付いたのか、ああ、とその口が声を漏らす。

「今日は◇日か」
「自分の誕生日くらい覚えとけよい」

 なるほど、と納得の声を漏らした相手に、マルコの口が言葉を紡ぐ。
 この年にもなると誕生日なんて気にしてらんねェからなァと笑って、ナマエはマルコから紙袋を受け取った。

「それで、これはアレか、誕生日プレゼントか」
「どこからどう見てもそうだろよい」

 分かり切ったことを言い放たれ、それへマルコが言い返すと、そうかありがとう、とナマエはにかりと笑った。
 マルコよりいくらか年上の目の前の男は、マルコより先にモビーディック号へと乗り込んでいた。
 マルコと同じく偉大なる海賊エドワード・ニューゲートを船長として、きっとこれからもあの船の上にいる。

「ん? なんだ、青いのが多いな。島の特産とかなのか?」

 目の前で勝手に紙袋を開き、中身を検めたナマエがそう言って、少しばかり不思議そうに首を傾げた。
 さてどうだろうなとそれへ返して、マルコは肩を竦める。

「ほかにも買い物してェんなら、画材はここの通りの奥だよい」
「お、そうか。じゃあ久しぶりに買い込むかな」

 マルコが自分の出てきた通りを指さすと、ナマエの視線が紙袋から離れた。
 買い過ぎねェようにしろよとそれへ笑って、マルコがナマエの傍らを通り抜ける。
 けれどもそのまま離れようとしたところで、がしりと腕を掴まれた。
 驚いたマルコが視線を向けると、ナマエがマルコの腕を掴んで引き留めているところだった。

「なんだよい」
「いや、本日の主役様を放置してどこか行こうとするなよ、寂しいだろ」
「自分で言ってりゃ世話ねェよい」

 今日が自分の誕生日だということも忘れていたくせに、そんなことを言い放つ相手にマルコが呆れると、まあまあいいから、と声を漏らしたナマエがマルコの腕を掴んだままで歩き出した。
 引き摺られるようにして、マルコの足がナマエと同じ方へと向かう。
 腕を掴んでいる力は強いが、ナマエが本気でないのはマルコにも分かったし、マルコになら簡単に振り払える程度の力しか込められていない。
 それでも、ため息を零したマルコが仕方なくその隣に並んでやると、それに気付いたらしいナマエの手がマルコの腕を逃がした。

「買い物終わったらどこかで飯食おうぜ」
「そいつァいい。ナマエの奢りだ」
「いやおれ今日誕生日だぞ? マルコが奢れよ」
「弟分にたかってんじゃねェよい」

 そんな会話を交わしながら、二人で並んで路地を歩いていく。
 ナマエはその日画材を大量に買い込んで、またしばらく甲板で絵を描いていた。



end


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