- ナノ -
TOP小説メモレス

マルコとランタン
※主人公は白ひげ海賊団クルー(notトリップ主)



 ハロウィンなんていう風習があるという島を出発したのは、つい先日のことだ。
 仮装をして菓子を貰って飾り付けをして、そう言うふうにして遊ぶそれは収穫祭のようなもので、夜に出歩くからあちこちに明かりを灯すのだとか。
 何故だかそれにはカブやカボチャをくり抜いたものを使うと聞いて、面白そうだなと思ってしまった。

「だからって作りすぎだよい」

「まーまー、いいじゃねェかマルコ」

 終わったら全部食いもんに変えるってサッチが言ってたぜ、と笑って言うと、座り込むおれの傍までやってきた相手の口から大きなため息が漏れた。
 その目がじろりと改めて甲板を見やったので、おれも同じ方へと視線を向ける。
 広くて大きい我らがモビーディック号の甲板は、そこかしこに飾り付けをされている。
 特に目を惹くのはあちこちに転がっているオレンジ色のカボチャで、中身をくり抜かれて目鼻の形に穴まであけられたそれにはろうそくが入り、ランタンの役目をこなしていた。
 カブも使うらしいが、オレンジ色のカボチャの方が大量に買い込めたのでこのありさまだ。
 船内にも、あちこちに置かれている。

「『ハロウィン』がなにかも気にしてねえってのに、よくやるよい」

「祭りは楽しい方がいいからな! こっちはおれ作!」

 傍らのカボチャランタンを叩きながらにっかり笑ってそう言うと、おれの言葉を聞いたマルコがもう一つため息を零す。
 そこでようやくその目がこちらを向いたので、おれは片手で傍らを叩いた。
 招かれたマルコがおれの隣へ座ったので、背中側に隠してあったカボチャを相手の方へと寄せた。

「これが最後の一個だぜ」

「まだ作るのかよい」

「作るのはマルコだけどなー」

「なんでおれが」

 嫌そうな顔をしつつ、マルコの手がおれからカボチャを受け取った。
 キッチンで中身をくり抜いたやつのうち、オレンジ色でつやつやで、皮には傷も色むらも無い奴を選んである。
 きっといいものが出来るだろうなと思いながら、軽くカボチャを叩いた。

「下絵を描いてからがいいぜ。ぶっつけ本番でいくとな、修正がきかなくてすごいことになんだ」

「あァ、そこの化け物みてェな奴みてェにか」

 言い放ちマルコが指で示したのは、おれが作ったカボチャランタンだ。
 ひでェな! と笑うが確かに、おれが下絵も無しにノミをいれたカボチャランタンは中々にかわいそうな顔をしている。

「これはこれで味があるだろ」

「まだ味はついてねェだろよい」

 鼻で笑ったマルコの手が、つるりとしたカボチャを撫でる。
 そうしてそれからその手がおれの方へと向いたので、おれはマルコの手の上へと転がしてあったノミを置いた。
 ノミの刃の尖ったところでカボチャの皮に線をうっすらと刻みながら、マルコが口を動かす。

「くり抜いたのはどうしたんだよい」

「サッチのとこに持ってった。今日はカボチャ尽くしだってよ」

「今日どころかしばらくはそうなるんじゃねェのか」

 この量だろうと甲板を示される。
 確かにそうだろうなァと返事をして、おれはとりあえずその場から手を伸ばした。
 捕まえて引き寄せた盥をマルコの前へ置くと、屑入れになっているそれを一瞥したマルコが、大きくノミを振り上げ、そして振り下ろした。
 が、と音が鳴る。

「あ」

「ギャー!」

 思わず悲鳴を上げたのは、ノミの切っ先がカボチャではないものに突き刺さっていたからだった。
 深々とした傷に血の気が引いて、ぞわりと鳥肌が立つ。
 慌てて手を伸ばしたおれをよそに、立ちのぼった青い炎が穿たれた左手を覆う。
 何秒も掛けずに炎を散らしたマルコは、無傷な左手を軽く揺らして、失敗しちまった、と悪びれた様子もなく言った。

「いやもう少し気をつけろよ! 大怪我だよ!」

「そこまで痛くなかった、大丈夫だよい」

「ちょっとは痛かっただろ! 馬鹿マルコー!」

 おれ達の一番隊隊長は、悪魔の実の能力者だ。
 不死鳥と呼ばれる動物系で、自分の傷を簡単に治すことが出来る。
 どうもそのせいなのか、こいつはいまいち自分の怪我に頓着しない男だった。
 身を挺してオヤジや船や仲間達を守ることも多い。
 海戦の時ならそれでもまだ『仕方ないかもしれない』で誤魔化せるが、たかだかカボチャを彫るためだけに思い切り怪我をするなんて馬鹿みたいな話だ。

「馬鹿って言う方が馬鹿なんだよい」

 しかしマルコの方はと言えば、むっと眉を寄せてそんな風に言いながら、ノミを持った右手をもう一度振り上げる。

「待て待て待て待て! ゆっくり! ゆっくり行こう!」

 慌ててその手を捕まえて、そのまま低い位置に降ろさせた。
 カボチャの皮は固いから勢いをつけたいのは分かるが、これは駄目だ。とても駄目だ。
 抑えたおれの手に眉を寄せたマルコが、振り上げようと腕に力を入れる。

「邪魔するなよい。さっさと作っちまった方がいいじゃねェか」

「丁寧に作った方がいいって! オヤジにも見せようぜ! な!」

 上手だって褒めてもらおう、と言葉を重ねたところでようやく抵抗を辞めたマルコは、おれの言う通り丁寧にカボチャランタンを作り上げた。
 『オヤジに褒めてもらいたい』らしいおれ達の一番隊隊長を、オヤジはちゃんと褒めていた。さすがオヤジだ。


end


戻る | 小説ページTOPへ