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見えるもの
※主人公は白ひげクルーで『見える』
※名無しオリキャラ注意
※マルコ←モブナースの描写があるので注意
※軽くホラーと言うより幽霊ネタ



 物心ついたときから『幽霊』が見えた。
 死んだ人間なんだと気付いたのは一年前に死んだはずの母親が家事をしているところを見たときで、俺が作ったことにしたシチューは俺の親父の涙腺を破壊した。
 幽霊は生きている相手に何かをすることは出来なくても、ある程度のことなら物事をこなせるらしい。
 幽霊同士での喧嘩も見かけたことがあるが、とんだ超能力バトルだった。
 お互いの気が済むまで争って、満足した様子で朝日の中に消えて行ったあいつらにはもしかしたら友情すら芽生えたんじゃないかと思う。
 それはともかく、俺には『幽霊』が見える。
 白ひげ海賊団になっていなかったらきっと、善人しか住んでいそうにない島へ行ってひっそりと生きていた筈だ。

「何してんだよい、ナマエ」

 そんなところで、と言葉を寄越されて、ああ、いやと声を漏らした。
 視線を向ければ、不思議そうな顔をしたマルコが首を傾げてこちらを見ている。
 夜も深まった夏島の近海で、今日の宴は年に一度のかつての仲間達を偲ぶ日だった。
 白ひげ海賊団は本当に長い間海の上を進む海賊団で、そして大所帯だ。出会いの分別れがあって、島に降りた仲間もいればよその海賊団へ移った奴もいて、海へ送った奴もいる。
 思い出話に花が咲く甲板で、俺が陣取っていたのは酒樽の傍だった。
 いつもなら隣に座っている俺が傍にいないからか、マルコが自分の隣の空いたスペースを軽く叩いた。

「こっちきて飲めよい」

 そんな風に寄越されたのを、酒がないと生きていけないんだ、と言って断る。
 事実、俺は先ほどからずっとここを離れないままだ。
 近寄ってくる仲間たちに酒を注いでやる役目も担っているし、それで問題はないだろう。
 しかし俺の言葉に、マルコは眉間にしわを寄せた。

「そこじゃ忙しいだろい」

 だから隣にと促して、またその手が傍らを叩いた。
 そのたびにすぐ隣に座っているナースの膝に触れているのだが、見えないマルコには気付きようもないことだろう。
 今日は、仲間達を偲ぶ日だった。
 白ひげ海賊団となって半年も過ぎれば大体のクルーはそれを知っているから、今日の甲板は大賑わいだ。
 その中の四分の一ほどは、俺にしか見えない『仲間』達である。
 『幽霊』達はオヤジの周りを取り囲んだり、それぞれが生前親しかったクルーの傍に行ったりと好き勝手にしている様子だ。
 そして、マルコの隣に座っている豊満な胸の彼女は、マルコのことをいつも熱烈な目で見ていたナースだった。
 その口が何かをマルコに話しかけているが、マルコにはまるで聞こえていない。
 何なら隣に座って通訳してやってもいいが、隣に座って伝わらない言葉を放ちながらニコニコしているあの妹分は、それを望まないだろう。
 何せ、俺がマルコの横にいるときは、大体俺のことを睨んでいた。
 俺とマルコの関係に気付いていたのは、俺を庇って死んでしまったあのナースくらいなものだ。
 俺のことをあんなに睨んでいたのに、恋敵を助けるなんて言うお人よしな行動で死んでしまった彼女が、そこに座るだけで幸せだというんなら、命の恩人に一時くらいはマルコの隣を貸してもいい。
 もちろん、抱きついたりキスしようとしたりするなら、いくらあの妹分と言えども断固として阻むつもりだ。
 俺は心が狭いのである。

「もう少し人数が減ったら移動するよ」

 片手で酒を入れ、それを傍らに置いた俺の言葉に、何を言ってるんだとマルコが不思議そうな顔をした。
 別に座れるだろうと周囲を見回すその目には、どんなふうにこの甲板が映っているんだろう。
 俺にはそれが分からないから、軽く笑って場を濁すことにする。
 酔っ払ったマルコが少し不機嫌な顔でこちらへ近寄ってくる頃には、満足した様子の妹分はゆるりと闇に紛れて姿を消してしまっていた。



end


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