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マルコと揃ってTrick or treat
※notトリップ系主人公とマルコが退行中なので子マルコ注意
※そこそこサッチ


「サッチー、とりっくおあとりーと!」

「よい!」

 ぱたぱたと駆けてきた小さな足音の主たちからの声に、サッチの視線がそちらを向く。
 小さな片手に籠を抱え、開いたもう片方の手をそれぞれサッチの方へ差し出しているのは、幼い少年達だった。
 海賊船に乗り込むには随分と幼い見た目だが、彼らは間違いなく、サッチ達の家族だ。

「ナマエもマルコも、随分気合い入れた格好してんだな」

 それぞれミイラ男と吸血鬼じみた格好をしている二人にそう言ってサッチが笑うと、ナースにやってもらったんだとナマエが言う。
 ふふんと胸を張る様子は何とも子供らしく、二週間ほど前までは考えられない姿だった。
 ナマエも、そしてその隣で自慢げに黒いコートを見せびらかしているマルコも、本来ならサッチとそう年齢の変わらない海賊であるはずなのだ。
 それが、とある海賊との交戦中に、こんな風に幼くなってしまった。
 恐らくは悪魔の実なのだろうその能力の怖ろしいところは、見た目だけでなく中身まで『子供』になっているということだ。
 どちらかと言えば戦闘を好み、あまり笑わないナマエがこんな子供だったなんて知らなかったし、いつもすました顔をしている一番隊隊長がこんなただの子供だっただなんて考えもしないことだった。
 元の姿に戻してやるために方々へ手を伸ばしているが、いまだに元に戻してやる手は見つかっていない。
 そうしてその状態でも時間は経っていくもので、子供ら二人が望んだためにモビーディック号に乗り込んだままのナマエとマルコは、今ではこうして子供らしく日々を過ごしている。
 今日はハロウィンだ。
 『悪戯かお菓子か』なんて常套句で菓子を強請って歩く行事はいくつかの島で共通していることで、せっかくだからと今年はモビーディック号の中でも行われることが決まっていた。
 前々からの予定通りに焼き上げたクッキーをいくつかラッピングしたものを、サッチの手がナマエ達の方へと差し出す。

「ほらよ、これでいいか?」

「クッキーだ!」

「かぼちゃよい?」

 オレンジ色のクッキー入りの包みを受け取って、瞳を輝かせたナマエの隣で、マルコがしげしげと包みを観察する。
 がさりと手を動かしたナマエがさっそく包みを開けようとして、それから何故だかはっと何かを思い出したかのように動きを止めた。

「ん? どうした?」

 普段なら『おやつ』なんて真っ先に口に運ぶはずなのに、ためらいを見せる相手にサッチが首を傾げる。
 小さな子供二人は顔を合わせて、お互いにその手にある包みを手元の籠へと押し込む。がさごそと音が鳴ったので、中には随分と菓子が入っているのだろう。
 さらにはそれらを二人でそろって自分の後ろへ置いて、ナマエとマルコが揃ってサッチの方へと向き直った。

「サッチ!」

「トリック、オア、トリート!」

 微笑ましい気持ちで見下ろしていたサッチの前に、ずい、と小さな手が二つ差し出される。
 寄こされたそれに目を瞬かせたサッチは、おいおい、と声を漏らして肩を竦めた。

「残りは他の奴らの分に決まってるだろ、欲張りは身を亡ぼすぜ、二人とも」

 昼食や夕食と言った『食糧』ならともかく、サッチが焼いて用意しているのはただのおやつだ。子供らが欲しがったからやったと言えば、恐らく家族達は大体が納得してしまうだろう。
 けれども、なんでもわがままを叶えて貰えるなんて思わせたら、ろくな大人にならないに違いない。
 サッチは自身の教育方針を曲げるつもりもなく、少しばかり身を屈め、伸ばした手でぺちぺちと二人の小さな額を弾いた。
 大して痛くもない攻撃を受けて、自分の丸い頭を押さえたマルコが眉を寄せ、その横で同じく自分の額を擦ったナマエが、どうしてかにやりと笑った。
 子供がするには随分悪辣な笑みに、サッチが思わずそちらを見やる。

「おかしくれないの?」

「サッチ、けちんぼよい」

「でも、それならさ」

「イタズラよい!」

 二人でそんな風に言いながら、ナマエとマルコが同時にサッチへと飛びつく。

「うわっ!?」

 慌てて身を起こそうとしたが間に合わず、肩口に二人からの強烈な体当たりを受けてしまったサッチは、後ろへ少しばかり体を傾がせた。
 それを逃さずしがみ付いたナマエがサッチの肩に乗り上げて、マルコに至ってはサッチの肩を乗り越えて背中側に回る。

「あ、ちょっとお前ら、危ないだろ、こら!」

 両手で子供達を捕まえながら声を掛けるが、中腰になっているサッチを気にした様子もなくサッチの体にしがみ付いたナマエが、小さな尻をどしりとサッチの肩に乗せて座り込んだ。
 右足と左足をサッチの胸元と背中側において、人様の肩を跨いだ子供の両手がサッチの頭に触れる。
 丁寧に整えた髪を乱すように指を差し入れられ、慌てたサッチが見やった先には、天使のように微笑むナマエの顔があった。

「おれリボンもってるんだ、サッチににあうやつ」

 ナースが喜びそうな笑顔で言い放ったナマエが、どこから取り出したのか、随分可愛らしいレースのリボンを取り出す。
 遠慮したいなと首を後ろに引くと、背中側から顔を出したマルコの両手が、がしりとサッチの頭を固定するようにその首に抱き着いた。

「ぐえ」

「おめかしおわったら、セナカにかっこいーハネもかいてやるよい」

 とても楽しそうに言い放った子供から、少しばかりクレヨンの匂いがする。
 わずかに青ざめたサッチの顔の近くで、ナマエとマルコがくふくふ笑う。
 含んだそれは悪だくみをする子供のそれで、無邪気な音にも聞こえたが、しかしサッチは気付いた。

「おまえら……それが目的で来たな……!?」

 今日はハロウィン。
 『悪戯かお菓子か』なんて常套句で菓子を強請る、そんな分かりやすい祭りごとだ。
 しかしこの子供たちにとっての本日のメインは、どうやら『お菓子』ではなく『悪戯』のほうだったらしい。

「そんなことないよ」

「トリックオアトリートよい」

「おかしくれないんだもん」

「サッチがわるいのよい」

「さっきやったじゃねーか!?」

 さっさと追加の菓子をくれてやればよかったと考えてももう遅く、哀れな四番隊隊長は、乱れた髪に可愛いリボンを巻き付けた片翼の天使となってしまった。
 似たような目に遭っている連中が何人もいたことは救いではあるが、悪戯坊主達が敬愛する『オヤジ』にやりすぎだと叱られるまで、被害は拡大する一方であった。
 絶対本人達がもとに戻ったらこれをネタにいじり倒してやると、心に誓ったクルーは何人もいたらしい。


end


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