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シャーロット家のハロウィン
※主人公はシャーロット・ナマエで〇〇男(男児)
※シャーロット家にブラコンシスコンの疑惑がある(捏造)



 お菓子を口に入れる口実なんて、それはもういくらでもある。
 誰かの誕生日、クリスマス、何かのお祝い。
 そうでなくても『ビッグ・マム』が食べたいものならなんだって用意されるのだから、お菓子を食べない日を探す方が難しいという話だ。
 そして今日も、ハロウィンなんていうお菓子を食べる口実がやってきて、島のあちこちが騒がしい。

「カタクリ兄、あれ見てあれ、すごい!」

 宙にぶらんと足を揺らしながら、俺はジタバタと身じろいで彼方を指さした。
 随分と高いところで、くるくるとメリーゴーランドのようなものが回っている。
 昨日までは無かったはずのそれはキラキラと光を弾いていて、まるで宝石細工だ。

「ペロス兄だな」

 そちらを見やったカタクリ兄がそう言ったので、なるほど、と納得した。
 ペロペロの実とやらを食べたキャンディ人間が作ったものなら、今日になっていきなり出来たとしてもおかしくない。でも、飴細工というなら、これはもううっとりとするような造形だ。

「ペロス兄すごいね……」

「当然だ」

 しみじみ呟く俺を小脇に抱えて、何故かカタクリ兄の方が胸を張っている気がする。
 時々思うのだが、俺が生まれたこのシャーロット家と言う家系の面々は、兄弟の仲が随分と良い。
 俺だって昔の『兄弟』と仲が悪かった覚えはないが、それにしてもこの兄弟は仲が良い。
 そしてその中に混ぜられているシャーロット・ナマエである俺も、兄や姉からすれば可愛がられる対象だ。
 どのくらい可愛がられているのかと言うと、今日のように、移動する途中で遭遇した体の大きい兄や姉達に、こうして小脇に抱えられるくらいだ。

「俺自分で」

「歩けるとお前は言うが、先ほども転んでいた」

「転んでないよ、カタクリ兄が持ち上げたもん」

 確かにずるりと足が滑った気はするが、俺は大地とキスすることなく宙に浮いた。
 驚いて顔を向けたらそこにいたのがこの『完璧』を目指す次男様で、それからずっと俺の体は宙に浮いている。
 微笑ましく見つめられるのにはもう慣れっこだ。
 中身は大人なのに恥ずかしいとか、そう言う気持ちは赤ちゃんの頃に彼方へ放り捨てた。そうでなければおしめなんてしていられなかった。
 しかしそれでも、そろそろ過保護が過ぎると思う。
 確かに、あちこちキョロキョロするせいでよく転ぶ方だとは思うが、痛いと泣いた覚えは今までない。気絶するほど強く頭を打ったのなんて二回くらいで、最近はちゃんと受け身だってとれるのだ。
 何故だかカタクリ兄が足を止めたので、俺はぐいと相手の体を押しやりながらもう一度訴えた。

「カタクリ兄、子供は転んで大きくなるんだよ」

「子供に言われる台詞じゃねェぜ、ペロリン♪」

 俺の言葉にそんな台詞が重ねられて、ふわっと少し甘い匂いがする。
 それに気付いておやと顔を向けると、いつも通り派手な格好の兄が、キャンディケインを片手に歩いてくるところだった。

「ペロス兄だ」

「ごきげんよう、カタクリ、ナマエ」

「ごきげんよー! トリックオアトリート!」

 挨拶ついでに、今日の『呪文』を口にする。
 それに笑って帽子を外したペロス兄が、そのまま帽子をこちらへ差し出したので、そこに刺さっているキャンディを一つ頂いた。
 それからありがとうも口にして飴を片手に握り直すと、何故だか俺の体を掴んでいたカタクリ兄の手が、ぱっと俺を手放した。

「う、わ!」

 驚いて悲鳴を上げた俺の体が、高い位置から落下する。
 カタクリ兄からしたらなんでもない距離かもしれないが、俺の体はまだまだ小さいので、五メートルとかいう嘘みたいな身長の相手の腰の高さから落ちるととても怖い。
 それでも痛くないようにと受け身を取るために身を丸めた俺の体が、何か少し硬くて滑らかなものに触れて、なだらかな坂を下るようにして転がった。
 途中から高くなっていった山を体が昇り、また戻りを繰り返して、だんだん勢いが落ちる。
 途中でどうにか両手両足を使って踏ん張り、体の回転を止めてから強く閉じていた目を開くと、俺の真下にはつやつや輝く何かがあった。
 ふんわり甘い匂いのするそれに目を瞬かせて、その場に座り込む。

「くくくく……カタクリ、小さい子供を降ろす時はもう少し優しくするもんだ」

「ペロス兄が取りこぼすことはないから問題ない」

「お前の、私に対するその信頼はどうしたものかね」

 やれやれと長い舌の上でため息を転がしたペロス兄が手を動かすと、硬かった壁がジワリと動く。
 どうやらペロス兄が出したキャンディだったらしいそれがゆるゆると動いて、最終的に俺を囲んで丸く形を作り上げた。
 椅子に座らされる格好になって、窓もある。
 そこから外へ顔を出して見回すと、俺が乗り込む形になっているそれは丸みを帯びた箱で、多分かぼちゃの形をしている。そして、側面に大きな車輪が二つ付いていた。多分反対側にもある。

「馬車……?」

「おや、馬をお望みだったか」

 それならこうしよう、と呟いたペロス兄がもう少し指を動かして、みるみるうちに小さな馬が現れた。
 それが箱の先に取り付けられて、いよいよ馬車の形になる。
 きゃあ、とかすごい、とか声が上がったので視線を向けると、眼をキラキラさせている小さい女の子達がいた。
 それを見て、俺の視線がペロス兄に戻る。

「ペロス兄、この馬車どうするの」

「ナマエを会場へ運ぶためのものだったが?」

 たまにはこういうのもいいだろう、なんて言ってペロス兄が笑っているが、それは何という好待遇だろう。かぼちゃの馬車なんて、シンデレラみたいな女の子のためのものだ。

「俺おりる」

「おや」

 さすがにこれはと声を上げて、俺はそのまま窓から外へ体を抜いた。
 先程より低い高さなので、すたりとそのまま石畳の上へと飛び降りる。
 飴なのに少し動いている馬が嘶くように顔を上げて、それからぱからと音を立てて石畳の上を歩いた。
 飴でできたその手綱を捕まえて、そのままペロス兄を見上げる。

「ペロス兄が作ったのはいつもすごいけど、これもすごく綺麗だから、女の子達に遊んでもらった方が可愛くていいよ」

 このままパーティー会場へ運んでもいいだろうが、そうしたらそのままママのお腹の中だろう。
 あそこの女の子達に楽しんでもらって構わないだろうかと見上げると、俺の顔を見下ろしたペロス兄が含むように笑う。
 その指がいくつかの小さなキャンディケインを作り出して、ぽんとそのままキャンディのかぼちゃ馬車の端に張り付けられた。

「お前がそう言うなら仕方ない。好きにしなさい」

「はーい」

 寄こされた許可に返事をして、手綱を引く。
 ペロス兄の操る飴馬が足を動かして、そのまま馬車を引いた。
 そうして道の端まで移動させてから、眼を輝かせていた女の子達を手招く。

「遊んだ後は食べちゃってね」

 きっとペロス兄は回収しないだろうから、そう言葉を投げて微笑むと、きゃあと声を上げた少女達がすぐさま馬車へと集まった。
 そこで馬を手放して、来た道を戻る。
 ペロス兄とカタクリ兄はそこに立ったままで、戻る俺のことを見守っているようだった。

「ただいま!」

「よし」

 一つ頷いたカタクリ兄が手を動かそうとして、しかしそこで何故だかやめる。

「カタクリ、」

「了解した」

 ペロス兄がその名前を呼んで、多分続きの何かがあったんだろうが、それを言う前に納得したらしいカタクリ兄が頷いた。
 最後まで聞け、とそれに呆れた声を漏らしつつ、ペロス兄がこちらを見やる。

「転んだらゲームオーバーだ。ちゃんと足元を見て歩きなさい」

 そうして寄こされた言葉に、俺はおお、と目を丸くした。
 今まで、どこかで兄達に出会ったら、大体小脇に抱えられてきたのだ。
 いいの、と尋ねたらいいともと返されたので、俺は嬉しくなって飴を握った手に力を入れた。

「ありがとう、ペロス兄!」

「……」

「カタクリ兄も! ありがとう!」

 ちら、と寄こされた視線に応えて声を上げつつ、いざ、と足を踏み出す。
 合わせて二人がゆっくり歩きだしたので、俺は両脇にシャーロット家の長男と次男を従えるというなんとも迫力のある格好のまま、本日のパーティー会場を目指して歩き出した。
 なお、二人と話しながら歩いていたら十分経たないうちに足を滑らせて、またもカタクリ兄の小脇に抱えられたということは、できれば伏せておきたい情けない事実である。



end


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