- ナノ -
TOP小説メモレス

悪戯はほどほどに
※主人公は古参白ひげクルーで丈夫で多分マルコより大きいけどマルコの弟分
※若マルコ注意
※名無しオリキャラ(モブクルー)注意



 遠くで歓声が上がる。

「お。うまく行ったみたいだな」

 高台から彼方を眺めて呟くと、そうみてェだな、と傍らの仲間から声が掛かった。
 なんともご機嫌な青空の下、それなりの風で揺れる青い海原に、二隻の船が見える。
 片方はおれ達がこの島まで乗り付けた分船、そしてもう片方は黒煙を零しながら半壊しているよそ様の海賊船だった。
 あちらさんの帆やらが焦げたりマストが折れたりしているのは、つい先ほどぶちかました傍らの大砲からによるものだ。
 本来なら船の上から打ち込むものなのだが、おれ達の分船に乗っていたそれはモビーディック号用で、モビーより多少小さく華奢なあいつでは反動に耐えられない、とは船大工からの意見だった。
 それならばとさっさと船から降ろしてしまい、こうして見晴らしの良い高台まで運んだというわけだ。
 本来なら整備帰りの試し打ちなんて行う予定もなかったのだが、こちらの旗を知りながら喧嘩を仕掛けてきた連中が悪い。
 現れて早々に銃をぶちかまし、『分船のクルーを人質に取って』云々と、大声で楽しそうに馬鹿みたいなことを言うから、たまたま船に乗っていた隊長達なんてそれはもうお怒りだった。
 何となく頬を撫でると、指で撫でたせいでちりりと小さな痛みが過る。

「いて」

「大丈夫か? ナマエ」

「ん、大丈夫だ。あいつら、射撃の腕も悪かったよな」

 傍らから言葉を寄こされ、そんな風に返事をして笑う。
 恐らく宣戦布告の為に旗にでも打ち込みたかったんだろう銃弾は、あんなに大きな的を外し、マストの上で作業をしていたおれの頬を軽くかすめた。
 結局そのまま戦闘に雪崩込み、おれと数人の仲間達は島へと渡ったわけである。
 この高台まで砲台を運ぶのは大変骨だったが、良い成果もあったのではないだろうか。

「もう少しズレてたらもうちっと痛い目に遭ってたんだぜ。ナマエはもう少し怒ってもいいと思うんだがなァ」

「怒ったから砲弾ぶち込んだんだろ?」

 肩を竦めたおれは、傍らの砲台を軽く叩いた。
 モビーディック号の為にあつらえられたそれは、当然砲弾も大きい。おかげでほんの数発しか打ち込めなかったが、結果は海の彼方を見れば一目瞭然だ。

「砲弾一発二発でおさまる怒りかよ。マルコ隊長の方が怒ってたじゃねェか」

 家族の一人がそんな風に言い放ち、やれやれと首を横に振る。
 家族をどうこう言われちゃそりゃ怒るだろうとそれへ笑いながら、おれはもう一度ちらりと海原へ視線を向けた。
 ちょうど見やった先で、黒煙を上げる海賊船が、沖でゆるりと傾く。
 そのまま沈むんだろう船の甲板から、青い炎の塊が空へ向けて飛び上がった。
 くるくると合図するように旋回したそれに、おっと、と声を洩らす。

「隊長が帰ってこいってよ」

「本当だ」

 言葉と共に海を親指で示すと、おれの近くにいた家族の一人が同じように海を見やった。
 そのまま、その場にいた数人で砲台と砲弾を丁寧に片付けて、来た時と同じく荷台に乗せる。

「さっさと帰ろうぜ」

「そうだな」

 そんな会話を家族と交わしながら、おれは家族達と共に来た道を戻ろうとした。
 しかし、そこで何となく勘が働いて、ちらりと視線を空へと向ける。
 白い雲の散る青い空、太陽の輝きが網膜を焼きそうな昼下がりのそこに、青い空とは別物の青い塊がいた。

「あれ?」

 それが、つい先ほど海の上で旋回していた相手だと気付いて、思わず声を洩らす。
 青い炎をちらちらとこぼしながら、日差しの色をした尾をなびかせて、羽ばたく青い火の鳥が、ゆるりとおれ達の真上へやってくる。
 そこで、普通の鳥ならしないような動きでくるりとその体が横に回り、火の鳥の背中が視界に入った。
 停滞するように一つ羽ばたいたあとで、すっと炎が引いていく。

「!」

 驚きに声も出ずに、しかしおれは思わずその場で両手を広げた。
 最初に露になったのはいつものジャケットを着こんだ背中、それからそれ以外の服に足、後頭部に髪の毛。
 最後まで炎に包まれていたのは両方の腕で、落下の速度に合わせてちらちらと真上に炎を零していく。
 そう、相手は落ちている。

「マルコ隊長!」

 慌てた声を上げながら、おれは両腕で落ちてきたその体を受け止めた。
 間違っても落としたりしないよう、下へ少し腕を下げて衝撃を逃がしながら、両腕でしっかりと体を捕まえる。
 じん、と骨に響く鈍い痛みと重みがあって、しかしどうにかぎりぎりで耐えた。

「……〜……っ」

 歯を食いしばって踏ん張ったおれの腕の上で、ふは、とわずかに笑い声が漏れる。

「うまく受け止めるもんだねい」

 笑いながら寄こされた言葉に、おれは涙がにじみかけた目をそちらへ向けた。
 おれの両腕で受け止められた相手は、誰がどう見てもマルコ隊長だ。
 おれの両手に背中と膝裏を預けたまま、炎を零していた両腕がゆるりと青い火を収める。
 にまりと笑っているその顔は、いつもと何も変わらない。
 どこかに大きな怪我をしているわけでもなければ、体調が悪いというわけでもなさそうだ。

「…………何してんだ、マルコ隊長」

 ほっと息を吐きつつ言うと、迎えに来てやったんだとマルコ隊長が言った。

「あの短時間で、随分高いとこに登ってるじゃねェかよい。まあ、この高さでなけりゃ砲弾が届かねェのか」

「まあそうだな、結構走って……そうじゃなくて」

 言葉を零しつつ海を見やるマルコ隊長へ相槌を打ってから、ふるりと首を横に振る。
 両腕でマルコ隊長を支えたまま、おれは改めて隊長の顔を見やった。

「なんで落ちてきたんだ。もっと降り方あっただろ」

 空を飛ぶ鳥が、飛ぶのをやめて落ちるなんて、狩りをしている水鳥くらいでしか見たことがない。
 いや、水鳥だって、背中から落ちるなんて馬鹿な真似はしないだろう。
 おれがもし受け止め損ねていたら、この人はどうするつもりだったのか。
 ぎりぎりで羽ばたいたとして、それでうまく行く保証なんて無いのだ。
 大体、いつもはあんな降り方しないのに。
 おれの言いたいことを受け止めるようにこちらを見つめたマルコ隊長が、また唇に笑みを刻む。
 悪戯が成功したガキみたいな顔のまま、その片方の掌が青い炎を零し始め、火に包まれたその手が軽くおれの頬を押さえた。ちり、とわずかな痛みがして、それがすぐに消えていく。

「ナマエなら落とさねェだろう」

「事前に打ち合わせしたならともかく、こういう急なのは困るんだが?」

「兄貴分に合わせるのは弟分の役目じゃねェかよい」

「わがままか」

 また変なことを言い出す相手に唸ると、喉奥で笑いを零したマルコ隊長が炎を消した手をこちらから離し、それから意味ありげに笑みを深めた。

「それで?」

「え?」

「いつまでおれのこと抱いてるつもりだって?」

 言葉と共に、ぷらりと軽く足が揺れる。
 確かに今、おれはマルコ隊長を抱き上げていた。
 うっかり忘れていたが、落ちてきた相手を受け止めたそのままの体勢なんだから当然だ。
 そろそろ降ろせと訴えたいらしい相手を見つめ、数秒考えて、おれは眉間にしわを刻んだ。
 両腕に力を込めて、ぐいと相手を引き寄せる。
 マルコ隊長が少し驚いたような顔をして、ナマエ? とわずかな戸惑いがにじんだ声でおれを呼んだ。

「もう船までこのまま帰る。悪ィ、そっち手伝えねェ」

「ん、まァ、大丈夫だろ」

 言葉の後ろを他の家族へ向けて放つと、おれへ向けて仲間の一人が頷いた。
 その顔は少しの呆れを含んでいるように見えるので、悪戯が好きなマルコ隊長に呆れているんだろうと分かった。おれも同意見だ。
 おれとそんなに年齢も変わらない筈なのだが、この人はたまにガキみたいなことをする。
 それはおれが白ひげ海賊団に入った最初の頃からで、立場が隊長になってからも変わらない。
 ついでに言えば自分が危険なことをするのを厭わない性質で、それは恐らく悪魔の実の能力のせいもあるのだが、弟分としては複雑で仕方ない。
 このまま船まで連れて帰れば、また変なことをしたんだと船に残っている家族達にも知れるだろう。
 船にはサッチ隊長もいたから、そっちに叱ってもらいたい。本当ならモビーディック号にいるオヤジに頼みたいところだが、おれ達の敬愛するオヤジはその辺大らかなので頼れないのだ。

「おい、ナマエ、降ろせよい」

「はい、わがまま言わない。帰るぞ」

「ナマエ!」

 じたばたと暴れだした相手をしっかり抱えつつ、おれはそのまま家族達と共に下山した。
 おれに抱かれて帰ったマルコ隊長は、船に残っていた仲間達に『怪我をしたのか』と心配され、おかしな無茶をやったことを全員に知られ、そしてやっぱりサッチ隊長に叱られていた。


end


戻る | 小説ページTOPへ