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お兄ちゃん
※notトリップ主人公は海兵さんでクザン大将の副官で弟妹がいる
※距離がおかしい
※クザンさんの格好はサウスト三周年衣装っぽい感じ



「どう? この格好」

「え? あー……いいんじゃないですかね」

 寄こされた言葉に相槌を打ったら、適当に合わせてるなと笑われた。
 体はこちらへ向けないまま、引っ張ってきた椅子に座って足まで組んだ誰かさんが、おれの執務机へもたれかかるようにして頬杖をつく。

「褒めるにしてももうちっと心を込めるもんでしょうや」

「結構心込めてますけどね」

 非難がましく言われたので、そう言い返しながら視線を向けた。
 頬杖をついているおれの上官殿は、白に青い裏地のスーツを着込み、濃い青のシャツに明るい青のネクタイを締めて、シルバーのラペルピンも着けて、青いポケットチーフを仕込んで、ファーのついたコートも羽織っている。
 靴は白いがシャツもネクタイもコートの裏地まで青いのに、頭に乗っている帽子が黒っぽくて、あれ、と首を傾げた。

「帽子は青くしないんですか?」

「この格好に真っ青なハットって微妙じゃない?」

 一応青味がかったのから選んでるよ、と返事が寄こされる。
 今日はどうも、お偉い方々でお偉い方々をもてなすらしい。
 おれがそれを聞かされたのは今朝のことで、大変ですねえ、なんて笑った覚えがある。
 今日の為にスーツまで新調されたらしく、ちょっと着替えてくると言って出て行った上官殿は、つい先ほど帰ってきたところだった。

「赤犬殿と黄猿殿も似た感じですか?」

「あァ、まァ、大体? あっちはハットのリボンも赤と黄色だったな、そういや」

「そうなんですか」

 頷きつつ、白いリボンのついた帽子をかぶっている上司を見やる。
 そうなるとこの人だけ他と違うということになるのだが、悪目立ちはしないだろうか。
 少しそんなことを考えては見たものの、ちょっと想像してみても、この帽子のリボンが青いのは変だ。見たところ似合っているし、まあいいのか。
 そんなことを考えつつもぐもぐと口を動かしていると、ちょいと、と声を漏らした大将の手がこちらへ伸びる。

「頑張ってきた上司そっちのけで何喰ってんの」

「ただ着替えてきただけじゃないですか。お菓子です。休憩中なので」

 答えつつ残りの包みを差し出すと、大きな手がおれのおやつをつまみ上げた。
 割れたクッキーがその口に運ばれて、あっさりと食べられる。

「ん、うまいね、買ったやつ?」

「最近買ったものばっかり食べてて不経済だと思ったんで作りました」

「その発想でクッキーまで手作りする海兵は中々いねェんじゃない?」

「探せばいますよ。クザン大将の目の前とか」

「ナマエでしょうや、それ」

 ふは、と笑った大将が、もう一枚クッキーをつまみ上げた。
 そのまま口に運ぶ様子からして、どうやらおれの手作りクッキーはお気に召したらしい。
 今度の茶請けはこれにしようと考えつつ水筒から茶を入れたところで、手元のコップまで奪われる。

「おれ、コーヒーがいいんだけど」

「そのお茶はおれのですよ大将」

「まァまァ、いいじゃねェの」

 言葉と共に茶を飲まれて、何がまァまァですか、と相手を見やってため息を零した。
 まァ別に、今更この人に飲み物や食べ物をとられたところで、たいして怒ったりもしない。
 基本的に面倒くさがりなせいか、それとも案外わがままで甘えたがりの性分なのか、大将はおれが食べたり飲んだりしているものを取っていくことが多いのだ。
 昔妹や弟にやられたなァなんて少し懐かしくはなるものの、くいさしを奪われたこともないので、あまり気にしないことにしている。

「残りもどうぞ」

「あららら……いいの?」

「はい」

 クッキーの包みを差し出して、ついでに相手の手にあるコップへ水筒の中身を注ぎ足しながら言うと、大将がわずかに眉を下げて笑った。
 なんで少し困り顔になったのか分からないが、気にせず残った水筒の中身を直接飲んで、それから水筒を置いて手を拭く。

「それ食べ終わったら午後の執務ですよ、大将」

「ええ〜」

 やだ、なんて子供みたいなことを言う相手に『子供ですか』と少し笑って、それからおれは大将の胸元へ視線をやった。
 ポケットから覗く、ふんわり自然に顔を出したチーフに、多分自分で入れたんだろうな、と考えてから手を伸ばす。

「ナマエ?」

 どうしたの、と声を掛けてきながらも、大将はおれがそのポケットからチーフを抜いても止めても来ない。
 面白がるように視線が寄こされているのを感じながら、おれは引っ張り出したチーフを執務机の上へと広げた。
 幸い目立つしわのなかったそれを長方形におり、もう一度畳んで正方形にしてから、二つの角を畳んでポケットの幅に合わせる。
 それから下側を折り曲げて、そのまま大将の方へ体を寄せた。

「大将、ちょっと胸の筋肉引っ込めてください。ポケットに入れたいんで」

「引っ込めてって言われて引っ込められるもんでもねェでしょうや」

 おかしそうに言いながら胸を逸らしてきた相手に、とりあえず両手を使ってポケットチーフをセットした。
 角がきちんと出せたら完成だ。

「……うん、こっちの方がいいと思います」

 きちんと入れ終えてから少しだけ身を引き、椅子に座る相手を眺めて頷く。
 おれの言葉に片手を自分の胸ポケットへ添え、長い指でゆるりとポケットチーフを辿った大将は、それからちらりとこちらを見た。

「……ナマエってさ」

「はい?」

「おれのことガキ扱いするよね」

 こっちの方がかなり年上なんだけど、と詰るように言われて、ぱちりと瞬きを一つ。
 まるで身に覚えもない言葉に困惑するおれをよそに、まァいいんだけどさ、と言葉を続けたクザン大将は、その手でもう一つクッキーを口へと運んだ。



end


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