付き合ってます
※主人公は海兵さんでクザン大将の副官
※名無しオリキャラ注意
クザン大将の副官となってから、はや半年。
サボり癖のある上官殿を捕まえては仕事に追い立て、仕事が溜まるのをどうにか押し流しながら過ごしていたら、いつの間にか三月が終わっていた。
もうそんな時期かと思ったのは、同僚が笑顔で嘘を吐いてきたからだ。
「はい嘘」
指摘してやれば、同僚は楽しそうに笑う。
おれがクザン大将の副官として引き抜かれて、いわゆる昇進をしてからも、今までと同じく接してくれる大事な友人は、今日も元気そうだ。
「よし、じゃァナマエもなんか嘘ついてくれよ」
「ついてくれと言われて吐けるもんじゃないだろ」
「え〜?」
そうかな、と首を傾げる相手は相変わらずで、仕方のない奴だなとため息を零した。
連れ立って通路を歩きながら、大体、と声を漏らす。
「久しぶりに顔を合わせて、まず最初に嘘を吐かれるなんておれは悲しい。せめて近況報告からだろうに」
そう言って詰れば相手が笑って誤魔化すのは今までと同じだ。
一か月ほど顔を合わせていなかった相手だが、やっぱり何も変わっていない。
そのことにほっとしながら、おれは口を動かした。
「おれの近況報告としては……そうだな……お前にだから言うけど」
「え?」
「クザン大将と付き合うことになった」
「え!?」
そうして述べたおれの『嘘』に、真っ向からそれを飲み込んだらしい同僚が目を白黒させる。
驚きに満ちたその顔を見やり、なんで信じるんだ、と思わず笑ってからネタばらしをしようとしたおれの言葉は、しかし後ろから落ちてきた声によってうっかりと飲み込まれた。
「あららら……そうだっけ?」
耳に心地よい低い声音がどうでも良さそうに言葉を紡いで、驚いて立ち止まり後ろを振り向く。
いつからそこにいたのか、おれと同僚のすぐ後ろにいた海軍大将殿が、片手を首裏に当てて首を傾げているところだった。
なんでこんなところにいるんだろう。
今、この人は執務室で書類を相手にしているはずだ。
「クザン大将……あの、これはその」
変なことを聞かれてしまった、と慌てて弁解しようとしたところで、ひょいと伸びた手がおれの頭を軽く叩く。
「じゃあしょうがない、付き合うか」
後でデートしようね、と笑いすら含んでいない声が言って、それからそのままクザン大将は歩き出していってしまった。
立ち止まったおれ達を追い抜き、そのまま去っていく背中を見送ってしまったおれの横で、あの、と同僚が声を漏らす。
「……マジで?」
「嘘だ!」
「だ、だよな?!」
びっくりした、と声を漏らした同僚が、ほっと胸を撫でおろした。
偏見は無いけどさすがに友達がそうだと驚くだの、いつものことがあるから本当のことかと思っただの、そんな言葉を重ねられて、『いつものこと』という言葉が気になったが、今はそれどころじゃない。
見つめた先で、悠々と通路を歩いて行った大男は、そのまま突き当りを右に折れたのだ。
そちらは出入り口のある方向だ。何なら海に近い。
「じゃあでも、おれがクザン大将に変に牽制されてる気がしたのやっぱり気のせい……」
「悪い、ちょっとあの人追いかけてくる」
「え? あ、ああ」
「クザン大将、そっちは仕事に関係ありませんよ!」
間違いなくサボりに向かった上官を追いかけて、おれはその場から駆け出した。
おれが追いかけてくることをさすがに予測していたのか、出口の手前で足を止めていたクザン大将は、『見つかっちゃった』と笑っていた。
end
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