ジョークです
※主人公は白ひげクルー
※子マルコ注意
※マルコの能力に対する多少のねつ造注意
「きょうはエイプリルフール! なのよい!」
だからうそついたっていいんだと主張する小さな子供に、はいはいとおれは適当に返事をした。
確かに今日は四月一日。おれにはあまりなじみがないが、いわゆるエイプリルフールと言うやつだ。
そしてそれをどこかの誰かから聞いたらしいこのチビちゃんは、甲板の陰で涼むおれの前までやってきて、何やら妙に張り切っている。
「だけどよマルコ、嘘を吐くんなら『嘘を吐きます!』って宣言しちゃならねェんだぞ」
「そうなのよい?」
「だってバレバレだろ、それじゃあ」
「すごいウソつくからだいじょぶよい!」
何がどう大丈夫なのか、子供の理屈はおれには分からん。
軽く首を傾げつつ、そうだ、と思いついたおれは、マルコの前にひょいと両手を出した。
不思議そうに見上げる子供の前で、左手の甲を相手へ向け、右手でそれを上から覆うようにする。
子供からは見えない角度で左手の親指も右手の親指も内側に折り曲げて、隠した左手の親指の代わりを右手の親指にさせながら、継ぎ目を指二本で隠したまま、右手の小指と薬指を開いて見せた。
「見てろよー」
「よい?」
ひらひらと誘うように小指と薬指を揺らすと、マルコの視線がそこに向けられているのが分かる。
それを見下ろし、するりと右手を外向きにスライドさせた。
当然右手の親指は右手についてくるので、マルコの角度からだとちょうど、指がもげたように見えるだろう。
「よい!?」
おれの狙い通りに見えたらしく、目を見開いた子供が悲鳴じみた声を出す。
両手を自分の頬に当てて、口を開けた子供に満足したおれは、はは、と笑って手を降ろしかけて、飛びついてきた子供によって体が少し後ろに傾いだ。
「っと、マルコ?」
「だいじょぶよい! マルがなおしたげるよい!」
涙目でそんなことを言いながら、子供が一生懸命おれの左手を抱え込んでいる。
その体からはぼぼぼと青い炎がこぼれて、炎まみれのその手が慌てた様子でおれの手を探っていた。
必死な様子のマルコに今度はこちらが目を丸くして、それから折り曲げていた親指を開く。
触ってきたマルコの手を捕まえて、落ち着け、と声を掛けつつ子供の体を自分の膝へ乗せて、右手で子供の丸い頭を撫でた。
「ほら、ちゃんと見ろ、大丈夫だって」
「だって、ユビもげちゃったのよい!」
落ち着けるはずがあるかと言わんばかりに眉を寄せて、子供の両手がおれの左手を掴む。
しかし、そこでようやく指が五本あるという違和感に気付いたのか、ぱち、と瞬きをしたマルコは、しゅうと炎を消しながら、抱え込んでいたおれの片手をそっと逃がした。
とても不思議そうな顔をして、おれの手を上から下から表から裏から眺める。
「ユビ……あるよい?」
「あるある。ただのジョーク。嘘だから」
こうやっただけだと、先ほどと同じしぐさを、今度は子供の目の前で行った。
おれが右手を動かした後、すぐにおれの左手を捕まえて親指の安全を確認したマルコが、それからフグか何かみたいにぷっくりと頬を膨らませる。
「そーいうウソは! ダメよい!!」
エイプリルフールにそんな理不尽を叫んで、膝に座ったままの子供にべちべちと体を叩かれてしまった。
いまいち納得いかないが、おれは大人の男なので、この理不尽は飲み込むことにする。
end
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