- ナノ -
TOP小説メモレス

ベビー5と誕生日
※幼少ベビー5とドンキホーテファミリー古参主(NOTトリップ主)
※子ベビー5注意


「おーよしよし」

「もう! ちゃんときいてったら!」

 大きな手に優しく頭を撫でられて、ベビー5は抗議の声を上げた。
 その正面では、幼いベビー5に合わせるかのように身を屈めて腕を伸ばした男が、にこにこと微笑んでいる。
 ベビー5の頭を掴めそうなほどその手が大きいのは、屈んでもらってもベビー5がかなり見上げなくてはならないほど、目の前の男の体格が良いからだ。
 上背もあり、体に厚みもある男の顔は強面で、いつもなら『ジョーカー』の近くで周囲ににらみを利かせながら煙草をくわえている恐ろしさだが、今はそんなもの見る影もない。
 しかし、ナマエという名前の彼がそこまで恐ろしくはないことを、ベビー5は知っていた。
 今もよしよしと頭を撫でてくれるその仕草から分かるように、彼はとても優しい。

「ナマエさんったら!」

 声を上げ、やめてと言って両手で頭の上の手を掴まえる。
 がしりと押さえつけるようにしてとらえたそれを見て目を細めたナマエがそのまま腕を持ち上げると、捕まえたはずのベビー5の体が宙に浮いた。
 そのままの状態で上下左右に軽くゆすられて、両膝を曲げたベビー5が腕を捕まえたままそれに耐える。
 それを見つめ、更に腕を引き上げたナマエは身を屈めるのをやめてしまい、持ち上げられたベビー5の顔が彼の顔と同じ高さへやってきた。

「なかなか鍛えたな、ベビー5。偉いぞ」

「えへへ、そう? ……じゃなくて!」

 落ちることなくぶら下がった状態を褒められて、思わず照れたベビー5は、それから声を上げて両手を離した。
 ふわりと若干の浮遊感を得て、それから真下へ落ちた少女の体が、しかし途中で捕まって止まる。
 片手で彼女を捕まえて引き寄せた男が、そのままそっと下へベビー5を降ろした。
 そしてまた屈んだ相手を見つめて、ベビー5がきゅっと眉を寄せる。

「ちゃんとこたえてよ、なにがほしいのかってきいたでしょ」

 今日は、〇月◇日。
 ベビー5の前に佇む男の『誕生日』だ。
 生まれた日を祝う素敵な一日が始まるというのに、ベビー5はまだ彼への贈り物が決まっていない。
 一週間も前から悩んで、しかし決まらなかったベビー5が仕方なく尋ねに来たのが、ほんの十分ほど前のことだ。

「さっきも言っただろ? お前が健康で元気なのが一番だよ」

「もう! そういうのじゃなくて!」

 微笑みと共に寄こされた言葉に、ベビー5が声を上げる。
 先ほどから、ナマエはそればっかりだ。
 贈り物を選びたいから聞いているのに、健康ばかり願われてもどうしようもない。
 まるでベビー5からのプレゼントなんていらないと言われているかのようで、そんな風に言われるとベビー5は泣きたくなってしまう。
 だってそれでは、ベビー5が必要とされていないみたいだ。
 もし必要とされなかったなら、ベビー5には生きる価値すら無くなってしまう。

「うーん、困った。泣かせるつもりじゃなかった」

 そんな風に言葉を零し、屈んでいたナマエがその場に膝をついた。
 いつも人が歩き回り、あまり綺麗ではない通路の床で、しかし服が汚れることも気にしない様子の男の手が、そっとベビー5の顔に触れる。
 くすぐるように頬を撫でられて、ぷいと顔を逸らしたベビー5は、その拍子にぽろりと落ちたしずくが自分の頬を冷やしたのを感じた。涙が出てしまったらしい。

「ベビー5がくれるものなら、なんでも嬉しいんだよ、おれは。どうしてもって言うんなら、笑って楽しそうに過ごしてくれていることが一番なんだ」

 だから泣かないでくれと、そう言葉を続けられて、ベビー5の手が自分の目元を拭う。
 手の甲が涙で濡れてしまって、それを自分の服にこすりつけながら、少女の目がじとりと膝立ちになっている男を見やった。

「……そんなこといってると、とんでもないものあげるんだから」

 例えば可愛いレースのリボンだとか、猫柄のハンドタオル。柔らかな素材のピンクの耳当てや、見た目で目立つ派手で可愛らしい柄のマフラー。
 悩んだベビー5が候補に挙げて、相談先のバッファローからことごとく却下を食らった品物は、確かにどれも、目の前の男には似合わない。
 だから欲しいものを聞いているのに、答えてくれない相手への恨みがましい視線を、しかし受け取るナマエのほうは微笑みで受け流した。

「どんなとんでもない物でも、ベビー5がくれるものなら喜んで受け取るさ」

「…………しまいこんじゃダメよ。ちゃんとつかって」

「ああ、もちろん」

 優しい声音は、相変わらず『欲しいもの』を紡がない。
 じゃあもう好きにするんだからと眉を寄せて、その場から走って逃げだしたベビー5が選んだ誕生日プレゼントは、自分が一番最初に思いついた可愛らしいレースのリボンだった。
 お祝いの気持ち半分、理不尽な苛立ち半分で手渡した贈り物は本人の言葉の通り笑顔で受け入れられ、そしてなぜかしばらくその首に結ばれていた。
 鏡の前で何度もリボン結びの角度を直していたのを見てしまったので、実はナマエには可愛らしい格好をしたいという望みがあるのかもしれないと、ベビー5とバッファローの間ではもっぱらの噂だ。


end


戻る | 小説ページTOPへ