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ロシナンテか夢主が仮装
※NOTトリップ主人公はドンキホーテファミリーで若め



 ぴょこんと三角の耳が揺れる。
 明るい髪色に合わせたのだろうそれを見やり、おれは一つ首を傾げた。

「……犬?」

『狼男だ』

 尋ねたおれの向かいで、椅子に座った男がそんな文字を書いた紙を見せてくる。
 出してくるのがとても早かったので、恐らく他でも誰かに言われたに違いない。
 なるほど狼男か、とそれに頷いて、おれは目の前の相手をしげしげと眺めた。
 横長ソファで端に座った相手の、その尻と背もたれの間に挟まっているのは、恐らくベルト辺りにつけた尻尾だろう。
 よく見ればつけ爪もしているし、わずかに開いた口からは犬歯が覗いている。
 服装もいつものものではなく、くたびれたシャツとベストだ。トレードマークと化していたコートや帽子も無い。
 途中で引きちぎられた太い鎖の付いた首輪までしている男に近寄って、伸ばした手でひょいとサングラスを奪い取る。
 出てきた双眸はこちらを見上げていて、おれにサングラスを奪われた男は言葉も出さずにペンを手に握りなおした。

『吸血鬼?』

 問いを向けてきた文字に、そうだと頷く。
 今日はハロウィンで、アジトにいるファミリーの大体が仮装をして過ごしている。
 おれが選択したのは、適当にスーツを着込んでおけば様になるだろうと考えて用意した安っぽい格好だった。
 マントも用意して、さっきまではシルクハットもかぶっていた。そこまで派手ではないが、普段はしない恰好をしているからか、珍しいと面白がられている。

「大人っぽくて格好いいだろ?」

 ひらりと長いマントを翻して笑って見ると、彼はゆるりと目を瞬かせた。
 おれ達の船長『ドンキホーテ・ドフラミンゴ』の弟で、ほんのしばらく前にひょっこりその姿を現した男は、『コラソン』の名前をそのコードネームに貰った。
 おれやちび達には『コラさん』と呼ばれていて、近寄ってくる子供らに酷いことをする子供嫌いだ、と言うのがみんなの認識だ。
 おれはそこまで酷い目に遭わされたことがないので、多分コラソンにとっては『子供』の範疇に入っていないんだろう。
 しかし、普段はサングラスで隠れているその目を見ていると、なんだか少しおかしいな、と思うのだ。
 おれ達の稼業を良しとしないような何かが、そこにはある気がする。
 きっと、兄である若様だって気付いていることに違いない。

「あ」

 素早く動いてきたその手がおれからサングラスを奪い取り、すぐにその両目が隠される。
 それからすぐに動いたペンが『人のものを盗るな』と記して、そうして次の紙にまた文字が書かれた。

『吸血鬼らしくない』

「なんだよ、ひっでェの」

 しっかり記されたそれにけらりと笑う。
 吸血鬼らしさと言われたって、つけ牙をして服も安っぽいながらそれなりに誂えたのだ。
 蝙蝠でも引き摺って歩いたらいいんだろうか。しかし、近場で簡単に蝙蝠を捕まえられる場所はない。
 うーん、と少し考えてから、はた、と思い浮かんだおれは、コラソンの方へとひょいと片手を差し出した。
 掌を上に向けて伸ばしたおれに、コラソンが少しばかり首を傾げる。

「コラさん、お手」

 それを見やって声を掛けると、ぽん、とおれより大きな手が片方乗せられた。
 予想通りの反応に笑って、自分の失態に気付いた相手が手を引くのを掴んで引き留める。

「そっちだって、やっぱり犬っぽいじゃんか」

 あっさりとお手をしてくれた相手に言いながら、ぐいと体を相手へ寄せる。
 驚いたのか、身を引いたコラソンの顎に片手を添えて、するりと撫で上げて上向かせた。
 それから膝に乗り上げ、その肩口に頭をうずめる。
 そうしてそのまま、さすがに首は嫌だろうと考えてその肩辺りに、がぶりと噛みついた。

「!」

 あまり強くはしなかったのだが、さすがに痛かったらしいコラソンが息を飲んだ音がした。
 それは悪かった、と口を離して噛みついたあたりをべろりと舐めたら、今度は両手でぐいと押される。
 さすがに体格の差は膂力にも反映されているもので、おれはそれ以上そこには留まれずに体を引きはがされた。
 そのまま突き飛ばされるかと思ったが、そうはされずに体を引っ張られて、どすりとソファに落とされる。
 うつぶせにされて、驚いて逃げようとしたのを後ろから抑えられて留められた。
 影が落ちて重みが増えたから、後ろからのしかかっているんだろう。
 下から逃げようと体を揺らしてもびくともせず、どうにか首をひねって後ろを見やる。
 サングラスをしたコラソンの表情は、相変わらず読めなくなっていた。
 それでも、怒っているわけではなさそうなそれを見上げて、軽く笑う。

「吸血鬼ぽかっただろ?」

 さすがに血が出るほど強く噛みはしなかったが、首に噛みつくのなんて吸血鬼くらいなもんだろう。
 どうだ、とうつ伏せで倒されていなかったら胸を張ったに違いない。
 おれの顔を見下ろして、おれの言葉を聞いたコラソンが、どうしてだかやがて深くため息を零す。

『子供』

「あ! なんだよ!」

 ややおいて、おれの体を解放しながらべちりと顔に張られた紙に記された文字に、おれは憤慨の声を上げた。
 自分だって犬っぽいくせに、コラソンはどうやら採点の厳しい奴らしかった。



end


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